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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
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森の王者Ⅲ

 円形に草を刈り取られた地面は、まるでミステリーサークルだ。魔法の規模や威力は、ステータスの『魔法攻撃力』という値に依存する。ローゼはこれが高いのだろう。


 ラルドが覚えたての『サイクロン』を見せてくれた時は、小さなつむじ風程度のものだった。ローゼの場合は竜巻。それも、かなり大きかった。


 隠れ場所を失った豹の群れは少しだけ戸惑った様子を見せたけど、すぐに低い声で唸り、こちらを威嚇する。


 それに対してロウも犬歯をむき出しにして牽制するが、狼と豹では、たぶん豹のほうが強いだろう。犬と猫では、猫のほうが運動能力が高いというし。


 それにしても、この豹たちは賢い。クルヴェットの猿たちのように無闇に飛びついてこない。今ノゾムが矢を放っても、きっと簡単に避けられてしまうだろう。迂闊に動こうものなら、喉元を噛みちぎられてしまうのではないかという恐怖もある。


 ジリジリと距離を詰めてくる豹たち。こわい。本来、豹は群れを成さない動物のはずだ。なのになんでこんなに集団で狩りをしている?


 ゲームだからか。無駄にリアルを追求したゲームなんだから、動物の生態もリアルにして欲しい。


「どうしたら……」

「大丈夫。今から隙を作るわ」


 ローゼは地面に両手を付けてそう言った。好戦的な目で豹たちを捉え、ぺろりと唇を舐める。



「『ロックブレイク』!!」



 豹たちの足元が割れた。かと思ったら、割れたところから勢いよく尖った岩が突き出てきた。


 突然の下からの攻撃に、豹たちの体はなすすべもなく宙を舞う。


「今だ!!」


 空中では避けられない。ラルドの大剣、バジルの戦斧、セドラーシュの槍、そしてノゾムの矢が一斉に豹たちを襲った。


 何匹かは空中で青白い光となって消えたが、しぶとく残った連中も何匹かいる。そいつらは地面へと舞い戻った瞬間に、さらに強力な一撃を受けることになった。


「『ライトニング』!!」


 ローゼの雷撃だ。【魔道士】が最初に覚える『初級魔法』のひとつだが、とても初級とは思えないほどの威力だった。


 『精神統一』で威力を上げたラルドの魔法より、ずっとすごい。【魔道士】でレベルを上げていくと、これほどまでに強くなるのか。


 それに、MPも多いようだ。ラルドが言うには、【魔道士】のセカンドスキル『中級魔法』は消費MPが多いという。


 ラルドは中級魔法を1回使うだけでMPを使い果たしていたが、ローゼはそれを2つ使って、さらにライトニングまで放ち、まだまだ余力もあるようだった。


(すごい、魔道士……頼りになる!)


 雷撃を受けた豹たちも消える。残ったのは、最初に現れた木の上の豹だけだ。ナナミがそろりそろりと豹に近付いている。本気で仲間にする気なのか。


 木の上の豹は、そんなナナミをちらりと見下ろして、踵を返した。


「あ、待ちなさいよ!」

「いや君のほうが待て!」


 駆け出した豹をナナミは追う。セドラーシュが声を上げるが、ナナミはまったく聞いちゃいない。


 ナナミの目には、豹しか映っていないようだ。


「ナナミさん!」


 ノゾムは慌ててあとを追った。ただでさえ迷いやすそうな森なのに、はぐれてしまったら駄目だと思ったのだ。


「の、ノゾムくん、ウチも!」

「ネルケは余計に駄目だろ、またはぐれる気か!? ノゾムくん、確か『罠作成』のスキルを持っていたよね? ワイヤーを!」


 ――ワイヤー?


 ノゾムは思わず足を止めてセドラーシュを見る。セドラーシュはネルケの首根っこを押さえて、ノゾムに手を伸ばしていた。


 なんだかよく分からないが、セドラーシュには何か考えがあるようだ。




 ***




 豹が吠える。ライオンのような咆哮だ。

 その咆哮に応えるように、両脇の木々から全長が1メートルはありそうな巨大な蜂が群れを成して現れた。


 戦うのは面倒だ。ナナミは『エスケープ』を使って戦闘を回避する。標的を見失った蜂たちは互いにぶつかりそうになったが何とか止まり、不思議そうに首をかしげていた。


「ギャア! 蜂ぃ!?」

「ウォン! ウォン!」

「よっしゃ任せろノゾム!」


 そこへやって来たノゾム、ロウ、ラルドが蜂の大群と対峙する。わざわざ追いかけてきたのだろう。ナナミは振り返ることなく(だって振り返ると豹を見失う)、ひたすら足を動かした。


(あの豹は、この森のリーダーなのかしら)


 蜂の大群は明らかに豹の咆哮を聞いて現れた。あの豹が呼んだと考えられる。


(なおさら欲しい……!)


 黒い独特な模様の入った滑らかな毛並みも、すらりとした体躯も、黄金色の鋭い瞳も、ナナミはその全てが気に入った。


 ナナミは綺麗なものが好きだ。アバターがやたらと美少女になってしまったのも、そのためだと言える。


 豹が跳んだ。その姿も美しい。頬を紅潮させて魅入っていたナナミは、豹が何故跳んだのか(・・・・・・・)考えもしなかった。



「…………へ?」



 足裏に地面の感触がない。

 そこには崖があった。

 長い草に隠れて、見えなかった。


 豹は数メートル先の対岸へ着地して、ちらりとだけナナミを見て、そのまま去っていった。


 ……死んだ。


 体が空中に投げ出されるような感覚は、ゲームの中とは思えないほどリアルだ。


 遊園地の絶叫マシーンは大好物だけど、リアルな仮想世界での紐無しバンジーはさすがに無理だ。


「〜〜〜〜〜っ!!」


 ナナミは声にならない悲鳴を上げて、崖下へ落ちていった。

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