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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
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運は良いようです

 ぼっちである。


 アルカンシエルの中に戻ってきたオスカー(兄のほう)は、のどかな村の入口に自分しかいないことに、ちょっぴり侘しさを感じた。


 まあ、いつものことと言えば、いつものことだ。


 何があったのかは分からないが、オスカーがログインすると、何故か今まで一緒にいた人たちがいなくなっている。弟に理由を訊ねれば、「いい加減自覚を持てよ」と言われた。


 どういう意味なのかはやっぱり分からないが、一応、今回のことに関しては原因を教えてもらっている。


 いわく、


「ストーカーは駄目だと思う」


 とのこと。


 あの金髪美少女を陰から見つめていたことを、弟はこともあろうにストーカー行為だと言ったのだ。


 オスカーは当然反論した。


「誤解だ! オレは離れたところから見守っていただけだ! あ、いや、ちょっと話しかけたりもしたけれども!」

「見守られている本人が嫌がっているなら立派なストーカーだろう。もう問題起こすなよ」


 弟はそう言って塾に出かけた。

 そして現在、兄はぼっちである。


 泣きたい。



 近くにあるベンチに腰掛ける。チュンチュンと、小鳥の鳴き声が聞こえる。風がトウモロコシ畑を揺らして、なんともゆったりとした時間が、ここには流れている。


 弟の正論はぐっさりと胸に突き刺さった。いや、本当に、オスカーは彼女を見守っていただけのつもりだったのだ。


 あの少女は美しい。まさに天上から降りてきた女神のよう。不埒なやからにも目をつけられよう。事実、一緒にいた2人の少年が離れただけで、妙な男に絡まれていた。


 本当はオスカーが自分で助けに行けたら良かったのだが、少女の近くにいるモンスターが怖くて出来なかった。あの妙ちくりんな男は、モンスターに睨まれても唸られても、びくともしない……なんとも肝の据わった男であるとうっかり感心してしまったほどだ。


 しかしどうにかして助けなければならない――そう思ってオスカーは、弟に助けを求めた。


 兄に泣きつかれ、うんざりした表情をしながらも、仕方なくゲームにログインし――しばらく経って戻ってきた弟の第一声が、あれだ。


「ストーカーは駄目だと思う」


 …………。


 そうだよな、見守っていただけのつもりだったけど、あの少女が嫌がっていたのなら、それは間違いなくストーカーだよな。


 底抜けにアホなオスカーでも、さすがに理解できた。弟は賢い。自慢の弟だ。


 オスカーはがっくりと項垂れた。


「はっはー! 手裏剣たくさん買っちゃった! これでニンジャの仲間入りだ!」

「お前、ほんっと好きだな、ニンジャ」

「ニンジャだけじゃないぞ! ニッポンの文化はすべて好きさ!」


 弾んだ声と共に足音が近付いてくる。見てみると、3人の少年がこちらへ向かって道を歩いているのが見えた。正面の少年は、手にたくさんの刃物を抱えている。


 なんで刃物なんか抱えているんだろう……。オスカーはぼんやりと思ったが、まあいいか、とすぐに思い直した。


 ゲームの中なのだ。刃物を持っていたって罪に問われるわけではない。


 少年たちは仲が良さそうだ。笑い合う彼らを見て、オスカーは「いいなぁ」と思った。


 3人はそのままオスカーの前を通り過ぎる。しかし、そのうち1人が足を止めた。刃物を抱えた少年だ。大きな青い目が、オスカーの顔を映している。


「そんなところで項垂れて、どうかしたのか?」

「……え、」

「具合でも悪いのか?」


 オスカーを気にかけてくれているらしい。なんて優しい少年なんだろう。オスカーは思わず感激してしまった。


 少年の友達2人も足を止めて、こちらを見ている。


 オスカーは滲む涙をそっと手の甲で拭った。


「大丈夫だ。ありがとう」

「……全然大丈夫に見えないんだけど……。なんで泣いてるの?」

「優しさが胸に染みる」

「……オレで良ければ話を聞くぞ?」


 心配そうな顔をする少年。なんて親切なんだろう。良い人すぎる。オスカーはまた溢れてきた涙を拭った。


「う、ぐすっ、本当に大したことじゃないんだ。オレがアホだったってだけで」

「うんうん」

「アホだから、ぼっちになって、沈んでいただけだから。大丈夫なんだ」

「そうか。ぼっちは寂しいな。ならオレたちと一緒に来るか?」

「え?」

「ん?」


 オスカーはぽかんと少年を見た。提案が唐突すぎて理解が追いつかない。金髪に青い目をした少年は、そんなオスカーの困惑に気付いたようで、再度言葉を重ねた。


「ここで会ったのも何かの縁だろ。オレたちだって、さっき出会ったばっかりなんだぜ。なあ?」

「ああ。天井から下半身が生えていなければ、知り合うこともなかったな」


 少年の問いかけに、他の2人のうちの1人が答える。彼らは友達ではなかったのか。仲が良さそうに見えたけど。


 ……というか、天井から下半身って何だ?


 金髪の少年が言うには、彼らは出来たばかりのグループだという。だからこそ、そこにオスカーが入っても何も問題はないということだった。


 旅は道連れ、世は情け。袖振り合うも多生の縁。少年はどこかで聞きかじったらしい(ことわざ)を添えて、オスカーを見る。


「ぼっちは寂しいよな。オレもリアルじゃそうだから、分かるよ」


 日本が好き過ぎて周囲から浮いてしまっているのだと、少年は恥ずかしそうに言った。


 オスカーはまた涙が出てきた。


「お、オレ、戦えないんだけど、いいの?」

「え、そうなの?」

「モンスターに遭遇したら即行で逃げちゃうけど、それでもいいの?」

「えー、どんだけ……」

「たぶん全然ちっとも役に立たないけど、それでもいいの!?」

「う、うーん……」


 堂々と役立たず発言をするオスカーに、少年はさすがに引いている。


 だがしかし、


「まあ、よかろう!」


 少年は素晴らしく心が広かった。楽観的ともいえた。あっけなく受け入れてくれた少年に、オスカーの涙腺はあっけなく崩壊した。


「お前らもいいよな?」

「まあいいけどさ……なんか放っておけねぇし」

「だからって事後承諾かよ」

「ごめんなさい」


 笑い合う彼らは、やはり出会ったばかりとは思えないほど仲が良い。


 オスカーは彼らに出会えたことを、心から幸運に思えた。

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