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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
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ペーシュのカラクリ屋敷Ⅴ

 屋根裏は広くて、薄暗い。柱や梁の陰に隠れられると、捜すのは難しそうだ。ノゾムとラルドの2人だけで捜していたら、見逃してしまっていただろう。


 しかしノゾムの提案で多くのプレイヤーが一緒に捜していたので、忍者を見つけ出すのに、そう時間はかからなかった。


「お見事。よくぞ拙者を見つけだした」


 黒い装束に身を包み、黒い布で顔を覆った男はまさに、ゲームやアニメで見知った忍者そのもの。顔の中で唯一見える黒い瞳は、物静かな光を宿している。


 一緒に捜してくれていたプレイヤーの1人が、興奮したように叫んだ。


「ほ、本物だ! 本物のニンジャだ! あ、あの、『ニンニン』って言ってもらっていいですか!?」

「忍者は『ニンニン』とは言わぬ」

「えっ……」

「冗談だ。ニンニン」


 サービス精神の旺盛な忍者だ。それに感動している彼は、どこの国のプレイヤーなんだろう。


 ノゾムたちの目の前には、《【忍者】に転職できるようになりました》という文字が浮かんでいる。とりあえずノゾムの目的は達成した。あとは『隠密』というスキルを習得するだけだ。


「よっしゃ。目的も達成したことだし、戻ろうぜ、ノゾム」

「あ、ちょっと待ってて」


 満足気に言うラルドにそう言って、ノゾムは人に囲まれている忍者のもとへ向かった。忍者は求められるままに、握手をしたり、手裏剣を投げるポーズをとったりしている。とても忙しそうだ。


 そんな中で話しかけるのは戸惑ったけど……。ノゾムは意を決して声をかけた。


「あの、忍者さん。ちょっといいですか?」


 先程の、ネルケのもとへ向かう足音のことをどうしても聞いておきたかったのだ。あの足音は、やはりネルケのもとへ案内するためのものだった。


「屋敷の中で迷った者を外へ誘導するのが、拙者の役目ゆえ」


 隠し扉をちょこっと開けたり、仕掛けを作動させたりして、さりげなく迷子を出口へ誘う。それがこの忍者の、本来の役目らしい。


 しかしネルケは、扉が急に開けば飛び上がり、仕掛けが作動すればうずくまり、まったく見当違いな場所を調べ……どうやって外へ出すか、忍者も困っていたらしい。


 そこへ現れたのが、バジルである。


「あの娘は良い仲間に恵まれたものだ」


 本当はバジルをネルケがいる部屋の上まで誘導するつもりだったそうだけど、バジルが入口でつっかえてしまったので、それならばと、下から追いかけてきているノゾムたちを誘導する方法に切り替えたらしい。


 バジルがつっかえてしまったのは、設計ミスだと謝られた。どんな体型のアバターだろうと、通れなければいけないのに、と。


 ノゾムは忍者に感謝を伝えて、ラルドと共に天井裏を後にした。



「どうだった?」


 戻ってきたノゾムたちに、ローゼが訊いた。ネルケはまだバジルに捕まっている。そろそろネルケの口から魂が出そうだ。


「バッチリです。ローゼさんたちは忍者に会わなくていいんですか? 今ならすぐに会えますけど」

「うーん、そうね。せっかくの機会だしね。ネルケ、行きましょう? バジルはいい加減にネルケを離しなさい!」


 ローゼはバジルとネルケを引き剥がした。手を伸ばすバジルのことなど無視して、ネルケを抱えてさっさと階段を上がっていく。目を回したネルケは、されるがままだ。


「ネルケ〜……」

「意外だな、オッサン。そんなに心配だったのか」

「当たり前だろうがっ! というか、オッサンって言うな!」


 アバターは大人の男であっても、バジルの中身は10代の学生であるらしい。確かに、それでオッサンと呼ばれるのは嫌だろう。


 バジルは畳の上にあぐらを掻き、腕組みをしてフンッと鼻を鳴らした。


「ネルケをギルドに入れたのはオレ様だからな。ちゃんと面倒を見るように、セドラーシュからも言われてるんだよ」

「へぇ〜。それも意外」


 ラルドの言葉に、ノゾムも首肯する。セドラーシュは、あんなにもネルケに冷たい態度を取っているのに。やはり根は悪い人ではないのだろうか。


 目を丸める2人を見やって、バジルは頷いた。


「『面倒を見れないなら、元いた場所に戻してこい』ってな」

「母ちゃんかな?」


 ラルドの合いの手にノゾムは思わず吹き出した。

 確かに母親が言いそうなフレーズである。


 戻ってきたローゼとネルケが首をかしげる。しかし口を開けば笑いの衝動を堪えられそうにないので、ノゾムはしばらく言葉を発することが出来なかった。



 カラクリ屋敷からは、難なく出られた。間違った通路を行こうとすると天井裏から音が鳴るので、忍者が心配してついて来てくれているのが分かる。


 屋敷の外では、たい焼きを頬張ったセドラーシュが待っていた。彼の顔を見た瞬間、ノゾムはまたもや吹き出しかけた。


 もうセドラーシュのことを、『ラプターズ』のお母さんとしか見ることが出来ない。


 ぷるぷる震えるノゾムをセドラーシュは訝しげに見て、次いでネルケに目を向けた。


「やあ、ようやく出てきたね。この屋敷の中はよほど居心地がいいんだなって思っていたところだよ」

「居心地……? うーん、綺麗な屋敷やったけど、トラップがいっぱいやったけん、そんなに居心地は良くなかったけど……」

「嫌味だよ、気付いてよ。案の定迷子になったじゃないか、僕の言ったとおりに」

「うぐぅ……」


 顔を歪めるネルケ。セドラーシュはやれやれと肩をすくめて、再びこちらを見た。


「どうしてノゾムくんが笑っているのかは、聞かないほうが良さそうだね。とりあえずバジル、これで用事は済んだかな?」

「おう。次の街に行こうぜ」


 どうやらバジルたちも、オランジュの首都ノワゼットを目指しているようだ。忍者を捜すというノゾムたちの目的も済んだので、せっかくだから村の入口まで同行させてもらうことにする。


 村の入口ではナナミとロウと、ついでにチャラ男が待っているはずだ。ロウがいるからチャラ男は近付いてこないだろうが、それでも心配である。


 心なしか歩調を速め、村の入口に差し掛かった頃……見えてきた光景に、ノゾムは目を見開いた。


 ナナミとチャラ男は、何故か並んでベンチに座っていたのだ。

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