表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
60/291

ペーシュのカラクリ屋敷Ⅳ

「忍者? ここ、忍者がおると?」


 ローゼの後ろに隠れたネルケは、ローブの袖で目元をこすって首をかしげた。ラルドは頷き、眉根を寄せて天井を見上げる。天井裏から聞こえていた音は、いつの間にか聞こえなくなっていた。


 もしかしたら、天井裏にいた誰か(・・)はネルケのもとへ案内するために、わざと音を立てていたのかもしれない。


 その誰かが本当に忍者なのか……それは分からないけれど。


「天井裏を調べるしかねぇか……。あのオッサンを引っ張りださないと」


 ラルドは顎に指を当ててブツブツ呟く。ネルケはさらに首をかしげた。オッサンというのが誰を指しているのか分からないのだろう。


 天井から下半身を生やしたバジルを思い出して、ノゾムは笑っていいのか心配すべきなのか、本気で迷った。ローゼは口を手で押さえてプルプルしていた。



 バジルがいる部屋へと戻ると、そこにはちょっとした人だかりが出来ていた。天井から下半身が生えているのだ。誰だって「なんだあれ」と思うし、足を止めるだろう。


 それでも誰もバジルを助けようとしないのは、バジルの下半身がめちゃくちゃに暴れているからだ。天井が壊れてしまうのではなかろうか。それともゲームの中だから、そんなことは起こらないのだろうか。


「だあああああっ! ちくしょおおおお!」


 バジルは雄叫びを上げる。ぽかんと見上げていたネルケは、その声を聞いて誰の下半身なのかを理解したらしい。


「ば、バジルさん? なんでそんなことに……」

「むっ、その声はネルケか? 無事か!?」

「え、あ、はい……」


 無事じゃないのはバジルさんのほうなんじゃ……と言わんばかりの顔をするネルケ。ローゼはその後ろで、うつむいて肩を震わせている。


 ラルドが人だかりをかき分けて、バジルのもとに近付いた。


「オッサン、今から出してやるから、ちょっと大人しくしててくれ」

「誰がオッサンだ!!」


 失礼極まりないラルドの言葉にバジルは怒鳴るが、このままではどうしようもないことは理解しているらしい。暴れていた下半身は大人しくなった。


「ノゾム、そっち引っ張ってくれ」

「あ、うん」


 バジルの右足をラルドが、左足をノゾムが掴む。せーの、の合図で同時に引っ張るが、バジルの体は抜けない。


「う、ウチも!」


 ネルケがノゾムの後ろについた。周りで見ていた人たちも、互いに目配せしあって、手伝いに来てくれた。ローゼだけが面白そうな顔をして見守っていた。


 再び、せーの、の合図で同時に引っ張る。なんかこういう童話があったな……と思いながら、ノゾムは力を込めた。


 バジルの上半身は、ようやく天井から解放された。



「ネルケ! どこに行ってたんだよ! 心配しただろ!!」

「ごめんなさいぃぃぃぃっ!!」



 バジルはネルケの肩を掴んで前後に揺する。頭をぐらぐら動かしながら必死に謝るネルケを横目に見て、ノゾムは手伝ってくれたプレイヤーたちに近寄った。


「あの、手を貸してくれて、ありがとうございました」

「いいって別に」

「なんか面白かったしな」


 お礼を言うノゾムに、彼らは朗らかに言う。いい人たちだ。ラルドはやっと通れるようになった階段を上がって、天井裏を覗き込んだ。


「どこにいるのかな……。おいノゾム、行くぞ」

「あ、うん」


 正直、屋根裏なんかに行きたくはないが(虫とか出そうだし……)忍者を捜すためには、行くしかない。


 ラルドの後を追うノゾムを、バジルは不思議そうに見た。


「どこに行くんだ、あいつら?」

「忍者を捜しているらしいわよ」

「忍者? そういやぁ、あの黒ずくめのやつを見た後に、『忍者に転職できるようになった』とか出てきたなぁ」

「「「なんだと!?」」」


 ローゼの言葉に思い出したように呟くバジルに、反応したのは部屋を去ろうとしていたプレイヤーたちだ。すぐさま踵を返して、彼らは階段を駆け上がる。


 屋根裏にやって来た彼らを見て、ノゾムとラルドは目を丸めた。


「忍者はどこだ!?」

「どけよ、俺が先に見つける!」

「サムライ、ニンジャ、ゲイシャ、サイコー!」


 屋根裏が、一気に騒がしくなった。屋根裏と言えど広いし、人が立てるだけの高さもあるので、大勢の人間が押し寄せて来ても狭いと感じることはないが……。


 天井、落ちないかな、とノゾムはとても心配になった。


「うへぇ。あのオッサン、口を滑らせやがって。ノゾム、急ぐぞ。先を越されるな」


 ラルドはそう言って薄暗い屋根裏を進んでいく。ノゾムはそんなラルドを見て、小首をかしげた。


「【忍者】って、なれる人数が限られてるの?」

「そんなことはないと思うけど」


 【忍者】の転職条件は、忍者を見つけること。先着何人までとか、そんな制限は設けられていないはずだ。【忍者】よりもレアな【テイマー】でさえ、条件を満たした全員がなれた。


「だったら、みんなで協力したほうが良くない?」


 ラルドは目を丸めて、ノゾムを振り返った。散り散りに動き出そうとしていたプレイヤーたちも、立ち止まってノゾムを見ている。ノゾムはびくりとした。何か変なことでも言っただろうか?


 そのうち、ひとりが言った。


「それもそうだな。じゃあ、俺はあっちを捜してくる」

「俺はあっちだ」

「ニンジャは隠れるのが超上手いからな。みんな、気合い入れて捜せよ!」


 プレイヤーたちはそう言って再び散り散りになる。ノゾムはホッとした。特に変なことではなかったようだ。ラルドは唖然とノゾムを見ている。ノゾムは首をかしげた。


「どうしたの?」

「え、いや……」


 ――こいつには競争心というものがないのだろうか。


 ラルドの脳裏によぎったのは、そんな疑問だ。誰よりも先にクリアしたいだとか、勝ちたいだとか。そんな気持ちはないのだろうか、と。


「ラルド?」


 ノゾムが呼ぶ。ラルドは応えない。ノゾムは少しずつ不安になってきた。ラルドは口元に手を当てる。


「……そうだよな」


 勝負ごとならラルドは手を抜かないし、ライバルと協力なんて、絶対にしない。しかしこれは競争じゃない。こんな些細なことにムキになるなんて、それこそ『あいつ』と一緒じゃないか。


「よしノゾム、手分けして捜すぞ」

「うん。――あいたっ!」

「おいおい、気をつけろよ」


 梁に額を強打したノゾムに、ラルドは呆れたように言う。痛覚はオフにしているはずなので、今の「あいたっ」は思わず出た言葉だろう。


 痛くはないけど、ぶつかった瞬間に思わず「痛い」と言ってしまう。よくあることだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ