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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
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ペーシュのカラクリ屋敷Ⅲ

 天井裏に何かいる。その『何か』を唯一視認できるバジルは、つっかえた下半身をばたつかせながら叫んだ。


「なんだテメェは? おい! ネルケを見なかったか!? 犬の姿をした娘なんだが! おい、待てって!」


 天井裏にひそむ何かが移動しているのが音で分かる。音は廊下の先へ向かっている。それが何かは分からないが、ネルケでないことは確かなようだ。


 バジルが声を荒らげるが、『何か』からの返事はない。いったい何がいたというのだろう。


「おいオッサン、誰がいたんだ!?」


 ラルドが問う。「オッサン!?」とバジルが素っ頓狂な声を上げた。


「誰がオッサンだテメェ、ぶっ殺すぞ!」


 足をばたつかせて物騒なことを言うバジル。ローゼはそんな彼を呆れた顔で見た。


「せめてそこから抜け出してから言いなさいよ。ネルケじゃなかったんでしょ? 何がいたの?」

「知るかよ! 全身黒ずくめの怪しい奴だ!」

「黒ずくめ……」


 ラルドはハッとした顔になった。ノゾムもピンと来る。きっとそれは【忍者】に違いない。


 ネルケを見つけた後でゆっくり探そうと思っていたのに、まさか先に見つかるなんて思いもしなかった。


「ノゾム、追うぞ!」

「いや、でも、先にネルケを捜さないと……」

「忍者が知ってるかもしれないだろ!」


 そうだろうか。そうかもしれない。あんぐりと口を開けるノゾムを置いて、ラルドは廊下に飛び出した。


 天井裏から足音は消えない。バジルに見つかって、よっぽど焦っているのか。それとも何かしらの意図があるのか。忍ぶ気もないようだ。追いかけるには、都合がいい。


 ノゾムはラルドを追いかけた。ぱかりと開いた床を、ラルドはジャンプして避ける。ノゾムはうっかり穴に落ちそうになったが、後ろから来たローゼに助けられた。間抜けなバジルは置いていくことにしたらしい。


 バジルの怒号が聞こえた気がするけど、ノゾムたちはまるっと無視した。


「ちょっとごめんよ!」

「うわっ!?」

「なんだ!?」


 屋敷内を探索していた他のプレイヤーたちの間をすり抜けながら、ラルドはひたすらに音を追う。天井裏の足音は、もはやわざと鳴らしているんじゃないかと思うくらいにやかましい。


 角を曲がって、飛び出してきた木の棒を避けて、人を避けて、走って、走って、走って。


「っ、うおっ!?」


 危うく壁に激突しそうになったラルドは、急ブレーキをした。


 天井裏の足音は、そのまま壁の向こうへ消える。マジか。せっかくここまで追いかけてきたというのに。ラルドは歯噛みをした。


 右手にはまだ通路が続いている。遠回りになるが、迂回して壁の向こう側へ行けるだろうか。


「うわあああああっ!!?」


 ラルドが思案しているうちに、遅れてやってきたノゾムが壁に突っ込んできた。飛び出した木の棒に足を取られたらしい。体勢を大きく崩してやって来たノゾムは、そのまま目の前の壁に激突した。


 壁がくるりと回転する。


 隠し扉だ。


「ノゾム、ナイス!」


 倒れたノゾムに向かって、ラルドはグッと親指を立てた。



 回転扉の向こうは、これまた通路だった。明かりがなくて薄暗い。天井裏の足音は消えてしまった。どこにトラップがあるか分からないので、ラルドは慎重に足を進める。ノゾムは入口から、そんなラルドの様子を静かに見た。遅れて到着したローゼも同様だ。


 抜き足、差し足、忍び足。どこからか、鼻をすする音が聞こえてくる。


「出口、どこぉ……」


 聞き覚えのある声だ。ローゼがノゾムとラルドを押しのけて前に出た。


「ネルケ!!」


 通路の先にいたのは、ネルケだった。


 半泣きになりながら壁をペタペタ触っていたネルケは、突然のローゼの登場に一瞬呆けた顔をして、すぐに涙腺を崩壊させた。


「ローゼざぁぁぁぁん!!!」


 駆け寄ってくるネルケをローゼは強く抱きしめる。


「このバカ! 心配したんだからね!?」

「ごべんなざいぃぃぃぃ!!!」


 ネルケの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。1人でこんなところにいて、心細かったのだろう。しかし何故こんなところに。見たところ出入口は、ノゾムが開けた回転扉だけなのに。


「ようネルケ、久しぶり。ところで忍者を見なかったか?」

「ラルド、ちょっと空気を読もう?」


 感動の再会を邪魔しちゃ駄目だよ……と、ノゾムは小声で言った。ラルドはちょっぴり口を尖らせる。ローゼの胸でわんわん泣いていたネルケは、ノゾムとラルドに気付いた。


 慌てた様子で涙を拭い、鼻をすすって、ローブについているフードを深くかぶり、ローゼの後ろに隠れる。


「ひ、ひ、久しぶり、2人とも……。ななな、なんでここに……?」

「忍者を探しにな」

「それと、ネルケがはぐれたって聞いたから」

「探すのを手伝ってくれたのよ」


 3人からの説明を聞いて、ネルケは顔を隠したまま「そうなん……」と呟いた。声が震えている。よっぽど怖かったんだなぁと、ラルドは思った。


「それは、あの、ありがと……。お手数をおかけしてごめんなさい……。それから、えっと……お見苦しいもんをお見せしてしまい……」

「見苦しい?」


 はて何のことやらと、ラルドは首をかしげる。恐る恐る顔を上げたネルケが「見とらんと?」と尋ねてくるが、何も思い当たらない。


 首をかしげるラルドを見て、ネルケを見て。ローゼは意地悪そうに口角を持ち上げた。


「良かったわね〜、ネルケ。泣き顔を見られてなくて。相当不細工だったわよぉ?」

「ローゼさん!」


 ネルケが気にしていたのは、どうやら泣き顔のことだったらしい。それならばっちり見た。が、それをあえて言わない程度には、ラルドは空気の読める男だった。


「それより忍者のことなんだけどさ」

「ラルド……」


 それでもノゾムから見れば、ラルドは十分に空気の読めない男だった。

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