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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
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ペーシュのカラクリ屋敷

 畑に実っているのはトウモロコシ。道は土を踏み固めて作ったような簡易なもので、畑と道の間には木の柵がある。


 村の入口から道に沿って進んでいくと、見えてきたのはお店だ。店頭にある傘立てのようなものの中に、刀や槍が入っている。これらが木刀だったら、まんま日本の観光地のお土産屋さんだ。


 壁には和弓も飾られている。弓道で使われる弓だ。興味はあるが、ノゾムが使っているものとは扱いが違うそうなので、買うのはやめておこう。


 手裏剣もさまざまな形のものがある。十字型だったり、卍型だったり、針みたいな形だったり。


「やっぱカッケェな〜、手裏剣。一個買っちゃお。すいませ〜ん、この十字型の手裏剣くださ〜い」

「あいよ。見たところ、お前さんには使えないようだが構わんかね?」

「もちろんっス」


 ラルドと店主の会話を聞きながらノゾムは首をかしげる。代金を払って嬉々として手裏剣を受け取るラルドに問いかけた。


「使えないって、なんで?」

「使用できる武器は職業によって決まってるんだよ。【戦士】は剣、【狩人】は弓、【盗賊】は短剣って具合にな。一度でもその職業に転職すれば使えるようになるんだけど」

「へぇ〜」


 それは知らなかった。何せノゾムは【狩人】でスタートして、四苦八苦しながらもずっと弓を使い続けてきた人間だ。


 一度でも転職していれば他の武器も使える……ということは、弓を使わない狩人もいるのだろう。


 弓は本当に扱いが難しいので、そっちのほうが楽だったかもしれない。まあ、今更他の武器を使おうなんて思わないけど。


「手裏剣を使う職業っていったら……」

「【忍者】以外にないだろ。なぁ、おじさん。この辺に忍者っているの?」


 ラルドは店主に尋ねる。店主は「そうさねぇ」と顎に手を当てながら答えた。


「カラクリ屋敷で見かけたという話なら、聞いたことがあるよ」

「カラクリ屋敷か!」


 店主は親切にも、屋敷までの道も教えてくれた。ノゾムとラルドは感謝の言葉と共に、店を後にした。



 村の一番奥にある、石造りの高い塀に囲われた屋敷が『カラクリ屋敷』だ。屋敷の前にはたくさんのプレイヤーが集まっていて、まるで遊園地のアトラクションのようだった。


 屋敷の中からは「わー!」だの「きゃー!」だのと悲鳴が聞こえてくる。


 やはりどう考えても、遊園地のアトラクションだ。これがお化け屋敷だったら、ノゾムは全力で逃げている。


「……あれ?」


 人でごった返す入口から少し離れたところに、見知った男の姿があった。男もこちらに気付く。キャスケット帽の広いつばの奥で、アクアマリンのような目が丸くなった。セドラーシュだ。


「なんだ、君たちも来たのか」

「来ちゃ悪いかよ」


 ムッと顔をしかめながらラルドが返す。

 セドラーシュは訝しげに眉を寄せた。


「そんなことは言っていないだろ。今、ネルケたちが入ってるんだよ。ネルケが行きたいって言い出してさ」

「ネルケが?」


 意外だ。ネルケはこういうアトラクションが好きなのだろうか? しかしセドラーシュによると、どうやらそれは違うという。


「誰に触発されたのやら、最近やたらと色んなことをやりたがるようになってね」


 ノゾムは目をしばたかせた。思わずラルドを見る。ラルドもまた、目をぱちくりさせていた。


 ――ラルドくんみたいに、めいっぱいこのゲームを楽しんでみる。


 確かにあのとき、ネルケはそう言っていたけど……。



「僕は止めたんだよ?」



 うんざりした様子でセドラーシュは言った。それはどういう意味だと問おうとしたところへ、男女の2人組が猛スピードで駆けてきた。


 獣の頭蓋骨を模したマスクをつけた巨体の男、バジルと、ピンクのツインテールが特徴の女、ローゼである。


「ちょっとセド! ネルケ、先に戻ってきてない!?」


 開口一番に問いかけてくるローゼ。ノゾムには何のことか分からなかったが、セドラーシュはすべてを察したような顔をしてローゼを見た。


「はぐれたんだね?」

「そうなのよ! ちょっと目を離した間に、いなくなってて!」

「だから止めたのに」

「うるさい!」


 うるさいと言うが、現状、一番大声を出しているのはローゼである……これは指摘しないほうが賢明だろうか。


 そして、なんてことだ。ネルケはまたしてもパーティーからはぐれてしまったらしい。


 エカルラート山の洞窟で迷子になってから、まだ一週間も経っちゃいないぞ。


「お、俺、探してきます」

「『オレたち』な。ちょうど今から入るところだったし、ちょうどいい」


 ノゾムとラルドが声をかけると、ローゼはようやく2人に気付いたようだ。バジルが顔を歪ませて「弓ヤロー」と呟いたのは、見なかったし聞かなかったことにする。


 それより今は、仲間とはぐれて不安になっているだろうネルケのことが心配だ。


「ありがとう。あたしたちもまた入るわ。セド、あんたも来るのよ」

「なんで僕が?」

「つべこべ言わない!」


 セドラーシュは不満たらたらな様子でローゼを見る。しかしふと、何かを思いついたように顔を上げた。


「万が一にもネルケが自力で出てきたとき、仲間が誰もいなかったら不安になるんじゃないかな?」


 それは確かにそうだ。下手をすると、『自分を置いて行ってしまったのかも』と勘違いするかもしれない。ネルケはめちゃくちゃネガティブな子なので、それは十分に有り得る。


「だから僕はここで待っているよ」と爽やかに提言するセドラーシュ。もっともらしいことを言っているが、本音が「面倒くさい」であることは誰の目にも明らかだ。


「セド、あんた、サイテー」

「なんとでも言えばいいさ」


 セドラーシュはふふんと鼻を鳴らした。

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