表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
55/291

目的地は遥か遠く

 どうやらチャラ男はモンスターが苦手なようだ。そういえばミーナが『モンスターに遭ったら逃げるって言ってた』と、言っていたっけ。


 そんなミーナは泣きながらロウを抱きしめて礼を言っている。ロウはノゾムを見上げて、褒めて褒めてと言わんばかりだ。


「えっと……よくやったね、ロウ」


 とりあえず褒めてあげると、ロウはえっへんと胸を張った。なんだこいつ、可愛すぎか。


「この子がそばにいれば、オスカーも近付いてこないかもしれません」

「そ、そうね」


 よろしくね、とナナミはロウを撫でる。ノゾムはなんとなくそんなナナミを直視出来ず、視線を右往左往に泳がせた。ラルドに目を向ける。


「それよりも、今の人って……」

「ああ、そっくりだったな。メガネはしてなかったけど」


 たまたま同じ名前なだけだと思っていたが、チャラ男は名前どころか、顔までオスカーと同じだった。こんな偶然があるだろうか?


「でも別人だろ。顔は確かに同じだったけど、中身が全然違ったじゃん」


 それにオスカーは一度、ロウに会っている。ロウがノゾムのテイムモンスターであると知っている。その時は、ロウの頭を撫でていた。


 そんなオスカーが、あんなふうに逃げるはずがない。


「まあとりあえず、今は怪鳥だな。復活したみたいだし」

「えっ」


 後ろからばさりと音が聞こえる。振り返ると、暗闇に赤く輝く巨大な鳥の姿が見えた。


「今度こそ羽根を落としてもらうぜ!」

「わあ、大きな鳥! 私も一緒に戦っていいですか? 憂さ晴らしをしたいので!」


 キラキラと目を輝かせて剣を構えるミーナは、やっぱり武闘派だ。見た目はおとなしそうな娘なのに。


 ラルドは快諾した。ノゾムはまた戦わなくてはいけないのかと、心底ウンザリした。




 ***




 結局、怪鳥と何回戦ったのか分からない。10回以上戦ったのは確かだが、途中で数えるのが面倒になってやめてしまった。


 途中で何度もレベルが上がり、ラルドは【魔道士】のセカンドスキル『中級魔法』を習得。ミーナは「オスカーのバカー! アルのアホー!」と叫びながら飛び込んで剣を振って……ようやく、怪鳥は大きな宝箱を落とした。


 宝箱の中身は大量の赤い羽根と、鋭い爪、硬そうなクチバシ、それと巨大なタマゴだ。宝箱の底のほうには、金貨が敷き詰められている。


 本当に、なかなか落としてくれない分、一度に落とす量が半端じゃない。


「これでようやく矢が完成するわね」

「長かった……」


 リアルの世界ではまる1日が経過し、空は明るくなっている。途中で何度か休憩は挟んだけど(というかこのゲームの仕様により、挟まなければならないのだけど)とにかく疲れた。


「スッキリしましたーっ!」


 ミーナは晴れやかな顔で伸びをしている。戦闘中の般若のごとき顔は、どこにもない。憂さ晴らしは無事にできたようだ。


 ラルドが首をかしげて問うた。


「アルって誰だ?」

「人でなしです」


 ミーナはさらりと告げる。なんでも、ミーナがオスカーと一緒にいた原因は、ほとんどその『アル』という人物にあるのだという。事情は分からないが、またしても般若に戻りかけているミーナの顔を見て、ノゾムたちは「触れないほうがいいな」と判断した。


 宝箱に意識を戻す。


「オレ、タマゴが欲しい!」

「食べるの?」

「バカ言え。孵化にチャレンジするのだ!」


 マジでか。

 孵化なんて出来るのか?


 タマゴはバスケットボールくらいの大きさだ。ダチョウのタマゴよりも大きいだろう。ラルドはそのタマゴを大切そうに抱きかかえた。孵化が可能かどうかは分からないが、ラルドがやってみたいなら、やってみたらいいと思う。


「ミーナとノゾムは?」

「あ、私は遠慮します。戦闘に参加させてもらえただけで、感謝ですので!」

「俺は金貨だけ……。爪とかクチバシとか貰っても、困るし」


 使い道も特に思いつかないし、そもそもナナミが作っている矢はノゾムのためのものだ。だったら、自分の取り分はナナミにあげたい。


「そう? だったら遠慮なく」

「ずりぃ! それならオレ、爪も欲しい! アクセサリーに使えそう!」

「えー……」

「えーじゃねぇよ!」


 ナナミはしぶしぶ爪をラルドに渡した。


 大量の羽根をナナミのアイテムボックスにしまい込んで、最後に金貨を分け合い、空っぽになった宝箱は消える。


 これで目的は達成だ。


「それじゃあアブリコに戻って……次の街まではSLに乗る? それとも歩く? 私はどっちでもいいけど」


 ナナミの問いかけにノゾムとラルドは閉口する。SLに乗ると、移動は楽だが、その道中の素材の採集はできなくなる。線路が通っていない街や村にも行くことができない。


「……いったんSLに乗って、Uターンする」


 SLにも乗りたいし素材も手に入れたいラルドは、そう提案する。ナナミは呆れた顔をした。


「それはイヤ。面倒くさい」

「ぐぬぅ……」


 ラルドは渋面をつくった。


「……だったら歩く……」

「ええっ!? 俺はSLに乗りたいんだけど……」


 素材やスキルに興味のないノゾムは、断然SL派だ。SLに乗りたい!


「それじゃあ、じゃんけんで決めましょう」


 それで恨みっこなしよ、とナナミは言う。

 ノゾムとラルドはお互いの顔を見て頷いた。


「よぉし。ノゾム、オレはグーを出すぜ!」

「え、そんなこと言う!?」


 さっそく相手を迷わせる作戦に出たラルドに、ノゾムは眉を寄せる。


 こういう駆け引きは、大の苦手だ。


「最初はグー! じゃーんけーん……」




 ***




「それでは皆さん、また機会があれば一緒に狩りに行きましょう!」


 ミーナはそう言って大きく手を振った。ノゾムたちはそれに応じながら、アブリコの村の駅……の、脇に続く小道へ向かう。


 ノゾムはじゃんけんに負けた。ラルドの裏の裏の裏を読もうとして混乱し、あっさり負けた。


「だからグーを出すって言ったじゃん」

「うるさいな! 次に駅のある街に着いたら、今度こそSLに乗るからな!?」

「お。それじゃあ、駅があるたびにじゃんけんするか?」

「嫌だけど!?」


 ラルドは楽しそうにケラケラ笑う。自分だってSLに乗りたがっていたくせに、このやろう。


 アブリコで購入した地図によると、ここから一番近いのは『ペーシュ』という村らしい。オランジュには地図に載っていない村もいくつかあるそうだから、間違えないように気をつけなければ。


 オランジュの首都『ノワゼット』は、山岳地帯を越えてずっと南、海と大河に面したところにある。大河の向こうは砂漠になっており、そこがノゾムの目指す『ジョーヌ』という国だ。


「図書館が遠いよ……」


 遠く広がる山々を見て、ノゾムは思わず遠い目になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ