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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
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彼はただ、底抜けにアホなんです

 一緒に遊ぶなら女の子がいい。

 それも、とびきり可愛い女の子が。


 しかし可愛い女の子ほど注意が必要であることも知っている。中身が男かもしれないからだ。男が好むツボをよく心得ている彼らは、巧みな言葉や仕草で男心を刺激する。


 いつの間にか貢いでしまっていることに気付いた時には驚いた。しかもかなり年上の男であると知った時には、ショックを通り越して人間不信になりかけた。


 あんな経験は二度とごめんだ。だからこそ、相手は十分に見極めなければならない。


(うわっ、可愛い……)


 見極めなければならないのに、とびきり可愛い女の子を見かけると、ついつい目で追ってしまう。男の悲しいさがである。


 尾のように垂らした長い三つ編み。長いまつ毛に縁取られた、エメラルドグリーンの瞳。陶器のようになめらかな肌は、まるでよく出来た人形のようだ。


 声をかけようとして、思いとどまる。もし彼女の中身が男だった場合、今度こそ、このガラスのハートは再起不能になってしまうだろう。


 ああいう美少女は遠くから眺めるだけにしておくべきだ。そう、女神を崇めるように。



「ナナミさん、大丈夫?」

「なんか悪寒が……」

「風邪引いたのか? ゲームの中なのに」



 さてさて気を取り直して、一緒に遊んでくれそうな子を探す。絶世の美女である必要はない。女の子なら誰でも、一緒にいると楽しいからだ。


 きょろりと周囲を見渡して、ふと目を止める。視線の先にいるのは、不安そうに目を泳がせているおとなしそうな女の子。駅の前にポツンと佇んで、なんだか今にも泣き出しそうだ。


「ねえ、キミ、大丈夫?」

「……っ!?」


 女の子の肩がビクリと跳ねる。急に声をかけられて驚いたらしい。


「あ、ごめんね。びっくりしたよね。オレはオスカーっていうんだけど……怪しい人間じゃないよ」

「…………」

「めっちゃ怪しんでる顔してる!」


 女の子は明らかに警戒していた。それは仕方ない。初対面の、それも異性を前にして、無警戒でいろというほうが無理な話だ。


 警戒されていることで、逆にオスカーはホッとした。彼女はきっと、リアルでも女の子だろうと思ったからだ。


「泣きそうな顔をしていたけど、連れはいないの? キミ、ひとり?」

「…………」

「実はオレもひとりなんだよねー。この前まで一緒にいた人たちがいたんだけど、何故か連絡が取れなくなっちゃったんだよ。なんでだと思う?」

「……お兄さんが鬱陶しいから、ブロックされたのでは?」

「ひどい!」


 大げさに仰け反ってみせると、女の子は堪えきれないように噴き出した。クスクス笑う。うん、やっぱり泣きそうな顔よりも、そっちのほうが断然いい。


「ねえねえ、ひとりで暇してるなら、オレと遊ぼうよ」

「ナンパですか?」

「そう、ナンパ!」


 素直に認めると、女の子はまた笑った。


 この『もうひとりのオスカー』、邪悪な人間かというと、そうでもない。もちろん善人ではないが、女の子が大好きな、ごく普通の男である。


 言動に裏表はなく、口から出てくる言葉はすべて本音。


「それじゃあ、狩りにでも行きましょうか」

「え、狩り? 無理無理! オレ、戦うのダメなんだよ。モンスターに遭ったら、そっこーで逃げちゃうよ?」

「えー?」


 たとえ、口調が冗談っぽかろうが……。


 嘘偽りは、一切ない。




 ***




 暗闇の中で赤く輝く翼はまるで炎のよう。人間なんて一口で丸呑みに出来てしまいそうな(くちばし)は長く尖っていて、羽ばたくたびに巻き起こる風は激しいうねりを起こす。


 はっきり言って、強敵だ。ノゾムははじめての戦闘不能を味わった。停電したみたいに目の前が真っ暗になったかと思うと、眠りから覚めるように意識が浮上した。


 思っていたよりも恐怖はない。やられた瞬間は、何が起こったのか分からなかったくらいだ。


 だからといって、何回も味わいたいものではない。高価な『身代わり人形』を1つ失ってしまった。


 ナナミとラルドとロウが怪鳥を引きつけている間に、ノゾムはワイヤーを張りまくる。準備を終えたら怪鳥をおびき寄せて、ワイヤーに絡まって動きが止まったところを集中攻撃。


 何度かワイヤーを引きちぎられて張り直すハメになったけど、ひたすら攻撃して、攻撃して、ようやく倒せた。


 ……宝箱は落としてくれなかった。


「だから言ったでしょ。めったに落とさないって」

「むむむ。ヤツが復活するまで待機だな!」


 倒されたモンスターは、一定時間を置くと復活する。いったい何度戦うことになるんだろうと、ノゾムはげんなりした。


 ひとまずこの時間を使って回復することにする。お腹も減ってきたので、食料袋からアブリコで買ったサンドイッチを取り出して、頬張った。買ってからずいぶんと時間が経っているのに、レタスがシャキシャキしてて美味しい。


 そんな時だった。



「いやあああああああっ!!!」



 まったりとした時間を引き裂くように、甲高い声が場に響き渡った。びっくりして声のしたほうへ目を向けると、そこにはモンスターの群れに囲まれた女の子が1人いた。


「無理! 無理ぃ! 1人は無理ぃ!」


 それはそうだろう。この山のモンスターは、けっこう強い。1人で複数のモンスターを相手に出来るプレイヤーなんて、そう多くはないはずだ。


「ソロプレイヤーかな? 1人で山に入るなんて、度胸があるな〜」

「どう見てもピンチじゃない」

「とにかく助けなきゃ!」


 ノゾムは急いで駆け下りる。ロウがすぐについてきた。ラルドは「横殴りにならねぇかな?」と首をかしげている。


 もし怒られたら、その時は謝ればいいだろう。

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