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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
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アブリコにてⅢ

 訓練所の内部は、クルヴェットのそれとよく似ていた。しいて違いを上げるなら、入ってすぐ目につくアスレチックのそばに、トランポリンがあることだろうか。


 槍使いのランスというのは、この訓練所で槍の指南を努めている男だ。槍の指南はここでしか受けることが出来ないらしい。


 クルヴェットでは『正拳突き』を教えてくれる人がいて、それを覚えることで【空手家】に転職できるようになる。アブリコではそれが【槍使い】なのだろう。


 ラルドが槍の指南を受けている間に、ノゾムは弓の練習をすることにした。訓練所には練習用の弓と矢が置いてあるので、自分の矢を消費せずに済むのが嬉しい。


「私は弓矢作りの続きをするわ」


 ナナミはそう言って、ナイフを手に木を削り始める。今作っているのは矢尻――的に突き刺さる、尖った部分だ。矢柄は完成したらしい。細く真っ直ぐな矢柄は、ノゾムが作ったものとは大違いだった。


 ナナミさんも器用なんだなーとノゾムは感心した。まったくもって羨ましい。


 静かに集中するナナミは、まるで職人のようだ。ハラリハラリと落ちていく木の削りかすをロウが興味深そうに見ている。頼むから、邪魔だけはするなよ、とノゾムは内心で告げて、自分も弓に集中することにした。


 ラルドが槍の扱いを習得するのには、少々時間がかかった。というより、指南を受けるまでに、時間がかかってしまったそうだ。


「なんか『槍こそ最強の武器』って熱弁しててさ。でもほら、漫画とかでよくあるじゃん? 『長い武器は懐に入られると弱い』って。それを言っちゃったわけよ。そしたらキレて『試してみるがいい!』って、何故か試合みたいなことをするハメになって……。いや実際やってみると、懐に入ること自体が難しいって分かったよ? 分かったけどよ〜……」


 とにかく疲れた、とラルドは辟易した様子で呟く。


 とにかくこれで【騎士】の転職条件を満たしたラルドは、すぐに役所へ行って転職し、『聖盾』のスキルを取得した。


 一方、ナナミの弓矢作りは、あとはもう矢羽を取り付けるだけで終わる。


「羽根って、何の羽根をつけたらいいのかしら?」

「え……さあ?」


 そういえば何の羽根だろうと、ノゾムは矢筒に並ぶ弓矢を見る。鳥の羽根であることは確かなようだが、何の鳥の羽根かは分からない。


「羽根かー。そういやここに来る途中、鳥のモンスターがいたな。あいつらが落とすんじゃねぇの?」

「あいつらが落とすのは肉だけよ」


 肉か。レイナが「手に入れたら是非とも譲って欲しいのです」と言っていたことを思い出す。


 ナナミは口元に手を添えた。


「確か……エカルラート山にいる怪鳥が、稀に落とすのよね」

「怪鳥って、あの大きな鳥か!?」


 エカルラート山の山頂付近をよく飛び回っている、派手な色合いの巨大な鳥。あまりにも大きいため、山から遠く離れたカルディナルからでもその姿は見ることが出来る。


「本当に、めったに落とさないから、手に入れたら私のコレクションにしたいくらいなんだけど……」

「いいじゃん。レアな素材を使って、レアな矢を作ろうぜ」


 ラルドはケラケラ笑う。だが待って欲しい。エカルラート山はルージュにある山だ。せっかく国境を越えたのに、また戻らなくてはならない。


「え、戻るの? このまま先に進まないの?」


 ノゾムは困惑して2人の顔を交互に見る。ラルドは親指を立てた。


「寄り道した先にしかないものもある!」

「まあ、レベル上げにはちょうどいいかもね」


 マジか。

 ノゾムはがっくりと肩を落とした。




 ***




 プレイ時間終了のアラームが聞こえてきて、オスカーは顔を上げた。プラットホームは閑散としていて、広いベンチにはオスカーしか座っていない。


 次の街まで進みたかったが、残念ながらSLの発着時刻とは合わなかったらしい。あの女の子たちに絡まれていなければ、もしかしたら乗れたかもしれないけど……。


「全部、あいつのせいだ……」


 限られた時間を無駄にさせられたオスカーは、苦虫を噛み潰したような顔をしてログアウトした。



 一度ログアウトしたら、1時間以上時間を置かなければ、再びログインできない。これは現実の体を長時間放置しないようにするために付けられたシステムで、同じ人間が続けてプレイしようとすると、ロックがかかるようになっている。


 実はこれ、『同じ人間が続けてプレイする』のを防ぐためのものなので、別の人間が交代して遊ぶ分には何の問題もなかったりする。


 問題があるとすれば、1つのゲーム機で作れるアバターが1体だけだという点だろう。


 駅から出てきた男は黒縁メガネを取り払い、長い前髪を掻き上げた。眠たげにまぶたの落ちた目で、ゆうるりと周囲を見回す。周囲は暗いが、人は多い。


「さて。今度は誰と遊ぼうかな?」


 穏やかに笑みを浮かべる男は、アバターを共有するもう1人の抱える苦労など、歯牙にもかけていなかった。

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