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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
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アブリコにて

 山道を進んでいる途中でプレイ時間が終わる。現実世界ではもう夜なので、今日のプレイはここまでだ。


「オレ、ゲームの世界に住みたい」


 ラルドがよく分からないことを呟いて、ナナミが肩をすくめる。現実に連れていけないロウは、行儀よくその場に座っていた。


 ノゾムはなんとなく、そんなロウを撫でる。ロウの毛はちょっと硬くて、ザラザラだ。


「また明日来るから」


 通じたのかどうかは分からないけど、ロウは元気よく吠えた。ひとりぼっちで待たせるのは忍びない。ロウにも仲間が必要かもしれないと、ノゾムはぼんやりと思った。




 ***




 翌朝ログインすると、ゲームの中の世界はすっかり暗くなっていた。


 今日は朝から『夜』だ。


 岩陰に隠れていたらしいロウは、ノゾムたちに気付くと尻尾を振って駆け寄ってきた。


 その姿が可愛い……と、思わないこともない。モンスターだから、少し怖いだけで。


「もう少し進んだら、アブリコの村に着くわよ」

「アブリコそんなに近かったのかよ!?」


 松明を取り出しながら告げるナナミにラルドは驚愕した。ノゾムはロウを撫でながら、あれ? と首をかしげた。


「ラルドって、オランジュのことには詳しくないんだね?」

「そりゃあ、初めて行くもん」

「掲示板の情報は?」


 メニュー画面から覗くことの出来る掲示板には、たくさんのプレイヤーが、自分の持つ情報を惜しみなく書き込んでいる。ノゾムにそう教えてくれたのはラルドだ。


「掲示板はスレッドの数が多すぎて、全部に目を通すのは無理なんだよ。オレが主に見てるのは、職業の転職条件とスキルに関してだから」

「そうなんだ」

「掲示板の情報はアテにしないほうがいいわよ。デマも多いからね」

「そうなのか!?」


 ラルドは再びショックを受ける。ナナミは呆れた目でラルドを見て、「当たり前でしょ」と返した。


「世の中いい人ばかりってわけじゃないのよ。わざと嘘の情報を流して、振り回される人たちをあざ笑うバカもいる。もちろん、本物もあるけどね。リアルのインターネットと同じよ」


 掲示板の情報は玉石混淆。すべてを真に受けてはダメなのだという。


「じゃあ、アブリコで【槍使い】になれるっていう話も……!?」

「あ、それは大丈夫。ジャックはアブリコで【槍使い】になったから」

「あのイケメン男が嘘をついてないって言えんのかよ!?」

「私に嘘をついて、ジャックに何の得があるのよ。私は槍に興味ないわよ?」


 正論だ。

 ラルドは顔をしかめて唸り声を漏らした。


「アブリコの訓練所にいるランスって男に槍の扱い方を教えてもらうこと。槍の基本動作を覚えたら【槍使い】に転職できるようになるらしいわ」

「うぐぐぐぐ……っ」

「なんて顔してんのよ」


 とてつもなく苦いものでも食べたかのような表情をするラルドに、ナナミは呆れた顔をする。


「イケメン男に、間接的に頼っている情弱な自分が恨めしい……っ!」

「何を言ってるのか分からないわ」


 ごもっともである。

 ノゾムは心の中で頷いた。



 さて気を取り直して、山道を進む。出てくるモンスターはガランスの周辺に出てきたものと変わらない。襲い来る大型の鳥やネズミなどを協力して倒しつつ進んでいくと、やがて大きな村が見えてきた。


「あの奥にあるのって、駅?」

「そう。アブリコはSLの始発駅なのよ」


 線路で繋がれた主要な町や村などに、アブリコは含まれているようだ。


 駅があるおかげか、アブリコはガランスに比べて人が多くて活気がある。夜であるにも関わらず、たくさんの店が営業しているようだ。まあ、夜とは言っても、それはゲームの中での話で、現実では違うのだけど。


 村の入口は木の柵が置かれているだけ。これではモンスターが侵入し放題じゃないかと思うけど、ここにも教会がある。教会のある町や村には、天空神の加護があるので大丈夫という設定だ。ゲームの設定というやつは本当にわけが分からん。



「ほんっとサイテー!!」



 ふいに甲高い女性の声が響いた。


 何事かと声がしたほうを見てみると、ひとりの男性に、3人の女性が詰め寄っている。


 女性たちの顔はどれも怒りや非難に満ちたもので、囲まれている男性はうろたえているようだ。


「なんだなんだ? 修羅場か?」


 ラルドが興味深そうに身を乗り出す。そのうち女性のひとりが手を振り上げて、すごく痛そうな音が辺りに響いた。


 男性がかけていたらしい黒縁のメガネが、衝撃で地面に落ちる。



「二度とその顔見せないで!」



 女性たちはそう吐き捨てて去っていった。


「修羅場か? 修羅場なのか?」


 そわそわしながらラルドが言う。確かに気になるが、余計な詮索はやめたほうがいいんじゃなかろうか。


 女性たちを茫然と見送っていた男性は、やがて深いため息をついて、地面に落ちたメガネを拾おうと身を屈めた。


「あれ?」


 その時、ようやく見えた男性の顔に、ノゾムは見覚えがあった。


「オスカーさん?」

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