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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第1章 はじまりの国ルージュ
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戦闘は避けます

 雑貨屋で地図を購入したあと、さっそくノゾムは父親捜しを再開した。


 オスカーに教えてもらった『プレイヤー検索機能』には、自分を中心に半径50メートル以内にいるプレイヤーの名前を表示させるレーダーもある。

 これを活用すれば、さっきのように誰彼かまわずに話しかける必要はない。


 首都カルディナルにいる『コウイチ』は3人だ。

 ノゾムはレーダーを駆使して、無事にその3人と接触することができた。


「首都にいてくれたら良かったんだけどなぁ……」


 結論として、その3人は父親ではなかった。


 3人と接触が済んだ頃に3時間のプレイ時間が終了したので、ノゾムの意識は現実世界に戻る。


 一度プレイが終わると、次に再起動できるのは1時間後だ。ノゾムはその間にトイレに行ったり、宿題をしたりした。そして1時間後、再びヘルメットをかぶって横になる。

 夕食の時間のことも考えて、今度のプレイ時間は2時間だ。


 ゲーム世界に戻ってきたノゾムは、カルディナルの南門の前に立った。


「この向こうがフィールドかぁ……」


 首都は高い壁に囲まれていて、東と西、それから南に門がある。門から伸びる跳ね橋を渡ると、その先はフィールド……モンスターが出てくるエリアだ。


「いやだなぁ……モンスター……」


 きっととんでもなく凶暴なやつが出てくるに違いない。いや、一応ここは『はじまりの国』だし、出てくるとしたら弱いスライムとかだろう。だがノゾムはそういう弱いモンスター相手に全滅を経験したことのある男である。


『チュートリアルで全滅とか初めて見た!』と父を爆笑させたことのある男である。


 ……思い出したら腹が立ってきた。


「でも外に出ないと、他の場所に行けないしなぁ……」


 街の外に出たくはない。出たくはないが、出なければクルヴェットやガランスという村には行けない。

 ノゾムはさんざん葛藤して、ぶるぶる震えながら、門の外に一歩、進み出た。



 南門の外に広がるのは青々とした平原だ。ところどころに木は生えているが、一面に生えているのは背の低い草で、おかげで見通しは良い。空はどこまでも青く澄んでいて、風は穏やか。これでモンスターさえ出なければ、絶好のピクニックエリアだろう。


 そのモンスターはといえば……。


 少し離れたところでは、キノコみたいな形をした変な生き物を相手に剣を振るっている人がいる。


 そこからさらに離れたところでは、クマみたいなやつにやられそうになっている人がいる。


 そのさらに向こうにある山の上には、派手な色の巨大な鳥が――……。



「……なんか俺、すごく目が良くなってるな」



 これが【狩人】のファーストスキル『視力補正』の効果なのだろう。遠くのものが見えるだけでなく、そこまでの距離まで、なんとなく分かる。


(これなら、なんとかなるかも)


 見晴らしのいい平原。よく見える目。しかも装備は弓。モンスターを避けて動くことも出来るし、いざとなれば離れたところから攻撃することも出来る。戦闘においてこれほど有利なことがあるだろうか。ノゾムは【狩人】を最初に選んで本当に良かったと、心の底から思った。


 向かうは平原の南に位置する湖のほとりの村、クルヴェットである。




 ***




 『視力補正』を駆使してなんとかモンスターと会敵することなく進んできたノゾムだったが、ついに覚悟を決める時が来た。森である。


 ノゾムの目の前には、鬱蒼と木々が生い茂った森が広がっていた。地図によればクルヴェットはこの森の中にあるようだ。


 森の中は見晴らしのいい平原と違ってモンスターが姿を隠せる場所がたくさんある。モンスターを避けて進むのは困難だろう。


 ノゾムは辟易しながら、とりあえず自分のステータスを確認してみた。


 ここまで一度も戦闘をしていないので、レベルは当然1である。ステータスには『物理攻撃力』や『物理防御力』という項目が並んでいるが、その横に書かれた数字を見ても、どの程度のものかは実感できない。


 天使のもとで見たステータスを思い出す限りでは、『物理』の攻撃力と防御力は【戦士】の次。『魔法』の攻撃力と防御力は【魔道士】の次で【盗賊】と同程度。『素早さ』と『運』の値は【盗賊】より低く【戦士】や【魔道士】と同程度、といったところだろうか。


 武器は弓で、習得しているスキルは『視力補正』のみ。


 これで森に入るのは心もとないが……離れて攻撃できるし、たぶん、なんとかなるだろう。

 ノゾムはゴクリと唾を飲み込んで、森に足を踏み入れた。



 陽があまり当たらないのか、木々の表面は湿っていて、背の高い草が伸びている。

 それでも人はよく通るのか、踏み固められた道がヘビのように伸びていて、道に迷うことはなさそうだ。


 木々の根本にはカラフルなキノコも生えている。木の実も多い。木が邪魔でよく見えないが、どうやら猿のようなモンスターが多く生息しているようだ。


 猿に見つからないよう、道を見失わないよう、気を付けて進んでいく。

 しばらくすると前方にキラキラと光を反射する湖が見えてきた。


(このままいけば、バトルせずに済む!)


 そんな淡い期待は、あっけなく潰えた。


 身を隠すノゾムの視線の先にいるのは狼の群れ。湖の前に陣取って、のんびりと日向ぼっこしている。おとなしそうではあるが、ノゾムが姿を現せばきっと一斉に飛びかかってくるだろう。

  

 ノゾムは眉を寄せて、ほかに道はないかと、きょろりと周囲を見渡した。


 まずは右。狼の群れから少し離れたところに、ハチミツを抱えたクマがいる。厳つい顔をした強そうなやつだ。ノゾムは即座に「無理」と判断して、顔を反対にそらした。


 左側には猿が1匹。ノゾムはよしと頷いた。狼たちに気付かれないように、進路を左へ変更する。クルヴェットからは離れてしまうが、湖さえ見失わなければ大丈夫だろう。


 猿は木の実に夢中のようだ。ノゾムは猿から100メートルほど離れたところで足を止める。周囲を見渡すが、あの猿の仲間はいないようだ。


(これなら……)


 ノゾムは背中の矢筒に手を伸ばし、木の矢を1本取り出した。弓に矢をかけて、少しずつ猿と距離を詰める。猿はまだ気付いていない。


 ゆっくりと矢を引く。先端がまっすぐ猿に向くように、慎重に狙いを定めた。




(いっけぇ〜〜〜!)




 ノゾムは思い切り矢を放った。

 放たれた矢は猿を目掛けて緩やかな放物線を描き……、落ちた。

 猿から、かなり離れた場所に。


「えっ」


 ノゾムは呆けた声を出す。全然、まったく、狙った場所に少しもかすらず落ちてしまった矢を見て唖然とした。


 猿がこちらに気付いた。


「キィ―――ッ!!!」


 枝をバネにして、飛びかかってきた。

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