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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
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レッツゴー、オランジュ

 ノゾムたちは首都カルディナルの郊外に、庭付きの小さな家を購入した。小さいながらも個室が3つあって、そのうちの2つをノゾムとラルドがそれぞれに使うことにした。


 町で購入した道具箱を部屋に置いて、特に今すぐ使う予定のない『精霊水晶』を部屋の中に置いて。ノゾムの片付けは、それで終わり。


 ラルドのほうはまだ片付けに時間がかかっている。使わないけれども捨てるのも勿体ない、何かに使えるかも、というアイテムを吟味して、1つ1つ整理しているようだ。


 待っている間、暇なので、ノゾムはさっそく庭で弓矢作りに挑戦してみることにした。


 完成した木の矢を見てノゾムは絶望した。


 ガタガタに削られた矢柄は妙に曲がっているし、矢尻は削りすぎて小さくなっている。ちゃんと店で購入した木の矢を見本にして作ったのに、どうしてこうなった。


 隣で見ていたナナミも、さすがに唖然としている。


「…………」

「あっ、初めて作ったんだから、こんなものよ! そのうち上手くなるって!」


 気を遣わないで欲しい。

 余計に惨めになる。


「私も作るの手伝うし!」


 是非ともそうして欲しい。

 ノゾムが作るよりは、絶対にマシなものが出来るはずだ。


 ノゾムは失敗した木の矢を放り投げた。くるくると円を描きながら飛んでいくそれを、ロウが追いかけ、ジャンプして捕まえる。


「アオン!」

「……あいつ、本当は犬なんじゃないかな」


 褒めて褒めてと言わんばかりに尻尾を振るロウを見て、ノゾムは何とも言えない顔をする。


「狼を飼っていると思うよりは、気が楽なんじゃない?」


 ナナミは適当なことを言って、ナイフで枝を削りはじめた。


 扉が勢いよく開く。出てきたのはラルドだ。無事に片付けが終わったらしい。


 道具箱は大きさによって、入れられるアイテムの数が変わる。小さいものだと50個。最も大きいサイズだと、なんと3000個も入る。


 しかしナナミいわく、3000個も入れられる道具箱でも、人によってはすぐに一杯になってしまうそうだ。ナナミはまさにそのタイプで、だからこそ【錬金術師】の『収納』の習得を目指している。


 道具箱は大きなものほど値段が高く、特大サイズを買えるだけの金銭的余裕がなかったノゾムとラルドは、それぞれ100個入る道具箱を買った。


「整理完了! 転送陣のステッカーも玄関に貼ったし、ミニ転送陣も持ったし、これで準備は万端だな。そろそろ出発しようぜ!」


 ようやく『始まりの国ルージュ』を出立する時が来たらしい。ノゾムは木の矢の材料である枝をたくさんボックスに詰め込んで、ラルドに頷き返した。




 ***




 エカルラート山の麓にある小さな村、ガランス。そこから東へ進んでいくと、大きな吊り橋が現れる。


 巨大な渓谷を横切る形で作られた吊り橋は、風がビュンビュン吹くし、揺れるし、高いし、スリル満点なスポットだ。


「おい見ろよノゾム! 滝が見えるぞ! 絶景だな!」

「ちょ、揺らさないで! 落ちる! 壊れる!」

「そう簡単に壊れるかよ〜。ゲームの中だぞ? ……いや、そういうイベントも無きにしもあらずか?」

「やめてえええええええっ!!!」


 滝壺には虹がかかっている。滝の周辺では鳥たちが飛び回り、水しぶきを浴びている。


 確かに絶景だろう、画面越しに見るならば。あるいは、揺れる橋の上からでなければ。


 ナナミはさっさと橋を渡り終えて、弓矢づくりをしている。地面に散らばる木のくずがロウは気になっているようだ。


 なんとか橋を渡り終える。

 ここから先が、隣国のオランジュらしい。


「ここが国境なら、もっとちゃんとした橋を作ればいいのに!」

「吊り橋面白いじゃん」

「ぜんぜん面白くない!」


 ちゃんとした橋を用意できなかったはずはない。何故ならその証拠に、遠くの山間に石で出来た立派な陸橋が見える。


 風ごときじゃびくともしなさそうな、見事な橋だ。


「あっちは人が渡る用じゃないわよ」

「え?」


 ナナミの言葉に目をしばたいたその時、遠くからポーッという音が聞こえてきた。笛の音のような、どこか聞き覚えのある音だ。


「あれって……」


 やがて陸橋の上に姿を現した、もくもくと煙を噴きながら走る、巨大な鉄の塊。橋の上をあっという間に通り抜けていくそれは、蒸気の力によって動く……。


「うっはー! SLかよ!」


 蒸気機関車だ。写真では見たことがあるけど、実際に目にしたのは初めてだった。あっという間に見えなくなったその勇姿に、ノゾムは唖然とした。


「オランジュは山ばかりの国だからね。主要な町や村は、線路で繋がっているのよ」

「へぇ〜! なんでSLなんだ?」

「製作者の趣味じゃない?」

「製作者グッジョブ!」


 あっという間に去ってしまったのが、残念だ。

 もっと見ていたかった。


「ノゾム! 絶対あれに乗ろうぜ!」

「う、うん!」


 ノゾムは力強く頷いた。


 テレビや写真でしか見たことのない、蒸気機関車。中がどうなっているのかとか、乗り心地とか、すごく興味がある。


 興奮する男子2人を横目に見て、ナナミは肩をすくめた。


「SLねぇ。乗ってもいいけど、それだと山の中の素材は手に入らないし、山のモンスターには会えないし、主要じゃない村や町でしか条件を満たせない職業には転職できなくなるけど、それでもいいの?」

「おっしゃノゾム! SLで移動したら、すぐにUターンするぜ!」

「えっ」


 マジでか。


 わざわざUターンしてまで素材を集めたり、モンスターと戦ったり、転職したりなんてしたくないんだけど。


「確か『アブリコ』って村で【槍使い】が習得できるはずなんだよな!」

「槍使い……? あんた、武器を槍に変えるの?」

「いや。狙いは『聖盾』だ」


 【僧侶】の転職条件と【槍使い】の転職条件を満たすことで、【騎士】に転職できるようになるらしい。


 そしてその【騎士】のファーストスキルが、セドラーシュが使っていた『聖盾』なのだ。


 一度壊れると再び張れるようになるまで時間がかかるのが難点だが、物理も魔法も防げる便利な盾だ。


「ふうん? まあ、スキルはたくさん持っていたほうが、戦略の幅は広がるわね。私もバトル系のスキルを覚えようかな……」


 ナナミも何か思うところがあるようだ。

 ノゾムはふと、ジャックが前に言っていた【忍者】の話を思い出した。


 オランジュのどこかにいる忍者を見つけると転職できるようになる【忍者】が覚える『隠密』というスキルが、弓と相性がいいのだとか。


(スキルが増えると、出来ることが増えるのは確かなんだよな……)


 現にノゾムは、『罠作成』を覚えたおかげで戦闘中に出来ることが多くなった。


(オランジュに行くなら、ついでに捜してみるか)


 忍者までもがリアル志向なら、そう簡単に見つかるとは思えないけれど。

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