表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第1章 はじまりの国ルージュ
41/291

王様のクエストⅢ

 飛びかかってくる猿に矢を放つ。自ら逃げ場のない空中へ来た猿は、当然のように矢に貫かれて、あっけなく青白い光となって消えた。初日にあれほど苦戦したのが、嘘のようだった。


 コントロールには、まだ難がある。距離があればあるほど、狙いが外れてしまうことが多い。しかしちゃんと、ノゾムは弓を扱えるようになっている。


 ……ちゃんと、成長している。


「おいノゾム、いたか?」


 ガサガサと草を掻き分けてラルドが近付いてきた。

 クルヴェットの森は意外と広い。赤い毛並みの狼を捜すために、ノゾムたちは手分けをして森の中を捜索していた。


「いや、普通の狼しか見てないよ。それより猿が鬱陶しくて」

「ああ……あの猿、すぐ襲ってくるもんな」


 改めて戦ってみると、あんまり強くないのだ。あの猿は。頭も良くないようだし、先ほどのように簡単に隙を見せてくれる。


 しかし……襲ってくる頻度が高い。お前らどんだけ人間が嫌いなんだよと言いたくなるくらいに、目ざとくこちらを見つけては襲いかかってくる。


 もう少し腰を据えて捜索したいんだけどなぁ……。


「こっちもさっぱりだ。もうちょっと向こうを捜してみようぜ」

「うん」


 弓を片手に捜索を続ける。しばらく進むと、今度はハチミツの入ったツボを抱えた巨大なクマが現れた。

 はじめて見た時は恐ろしくてその場で回れ右してしまったけれど、水晶蜘蛛やドラゴンを見た後だと愛らしささえ感じてしまう。というか、何故ハチミツなんか抱えているんだ。お前は某黄色いクマさんか。


 ラルドは「ひゃっはー!」と叫びながらクマに飛びかかる。クマは青白い光になって消えた。あとにはハチミツが入った宝箱が残った。


「飽きないなぁ……」

「何が?」

「モンスターと戦うのがだよ」


 ラルドのレベルなら、今更クマを倒したところで経験値的な旨味はないはずだ。現にクマは、ラルドの一撃であっさりとやられてしまった。


「まあな!」


 ラルドは得意げに親指を立てた。

 楽しそうで何よりである。


 再び猿が現れた。猿はノゾムたちに気付くと、すぐさま飛びかかってくる。ノゾムは冷静に弓を構えて討ち取った。


 なんで逃げ場のない空中に自分から行っちゃうんだろう……やっぱりこの猿、賢くない。


「ノゾムもだいぶ上手くなったよなー」

「うん、でも……実は弓って、かなり迷惑な武器らしいんだよね」

「え? 迷惑?」


 ラルドは首をひねる。何が迷惑なのか、分からないといった顔だ。


「ほら、このゲームってさ、『命中率』がないじゃん。だから矢がどこに飛んでいくか分からない。初心者のうちは特に……バジルさんには2回も当たりそうになっちゃったし、もしかするとラルドにも当てていたかも知れないよ?」

「あー、最初に会ったときかぁ。あんとき結構近くにいたからなぁ。オレはノゾムに全然気付かなかったけど」

「モンスターしか見てなかったからね」


 『横殴りしてすまんかったー!!』とジャンピング土下座をするラルドの姿は、まだ記憶に新しい。


 あのときのノゾムは戦闘不能になる寸前だったので、ラルドが割り込んできてくれてむしろ助かったけれども。


「当たっちまったら謝ればいいだけじゃね?」

「ラルドも簡単に言うなぁ……」

「だってそうじゃん。え、まさかノゾムやめるの?」


 勿体ねぇ、とラルドは言う。先刻のセドラーシュのように。

 あんなに練習したのに、勿体ねぇ、と。


 ノゾムは弓に目を落とした。矢をつがえて放つ。何度も繰り返したその動作。現実世界でだって、時間があれば何度もその動きをやった。


 繰り返し、繰り返し、バカの一つ覚えのように。


 不器用なノゾムでも、『一つのことを繰り返す』ことだけは出来たから。


「全然当たらなかった時はつまらなかったけど、当てられた時は、なんていうか……その、気持ちがよくてさ」


 目の前で口を開ける水晶蜘蛛。矢を射った次の瞬間、弾けた青白い光。


 あのときの感触を、よく覚えている。


「ゲームをしていて楽しいって思ったのは初めてだったから……戸惑い? みたいなのがあった、のかな? でも、うん、そうだな……」


 ゲームを好きになったわけではない。

 でも、面白いと思った。


「やめたく、ないな……」


 親父を見つけ出してゲームをやめたら、弓道部にでも入ってみようか。弓道部には佐藤(友達)もいるし。


 そう思えるくらいには、ノゾムは弓にハマってきている。


「だったら……ん? 初めて? ゲームを楽しいって思ったのが? それじゃあなんでやってんだ? ……あ、父ちゃんを捜すためか。でも……んんん?」


 ラルドは首をひねって唸り声を漏らす。

 どうしたんだろう……ノゾムは問いかけようとしたが、そのときタイミングよくリングからアラームが鳴った。


 プレイ時間終了のアラームではない。

 ジャックからの通信だ。


「え、ら、ラルド、受信の時はどこを押したらいいの」

「そこのボタンを……」


 言われたとおりのボタンを押すと、リングの向こうからザザッと砂を()いたような音が聞こえてきた。


『見つけたぞ! 赤い狼だ!』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ