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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第1章 はじまりの国ルージュ
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盲目のドラゴン

「ねねね、ねえ! 思わず逃げちゃったけど、ラルドくん、ひとりで大丈夫なんかな!?」


 ネルケがビクビクしながら尋ねてくる。ナナミは「仕方ないでしょ」と肩をすくめた。


「ラルドってば、ぜんぜん言うこと聞かないんだもの」

「まあ、ラルドだからね」


 ノゾムは苦笑を浮かべつつ、右手で掴んでいた男の子の手を離した。ギリギリではあったけど、なんとかドラゴンの攻撃を避けることが出来たようだ。

 ラルドは炎に包まれているけど。


「なんでぼくを連れてきたんだよ!」


 男の子は警戒心いっぱいの顔で、ノゾムたちを睨む。ノゾムは首をかしげて男の子を見た。


「『なんで』も何も、あのままだと君も巻き添えを食らっていただろ? ナナミさん、この子のこと、ちょっと見ていてもらってもいいかな?」

「別にいいけど……」

「ありがとう」


 短く礼を言って、その場を離れる。ラルドのもとに戻るのではない。松明も持たず、暗闇に紛れるように、静かに、ゆっくりと移動する。


『弓は隠れて射つ、これ大事』


 ドラゴンまでの距離は、およそ10メートル。狙うは頭か、首。的が大きいので、狙いが大きく外れることはないだろう。


 弓に矢をかけたまま、しばらく待つ。


『すぐには射つなよ。敵の動きと、仲間たちの動きを観察するんだ』


 炎に包まれたラルドだが、戦闘不能にはなっていない。横に構えた大剣を盾代わりにでもしているのか。あるいは『戦士』だから丈夫なのか。理由はまあ、どうでもいい。


 ドラゴンが吐き出す炎が途切れた瞬間、ラルドの大剣は光を放った。


「ブーストォォォォォッ!!!」


 振り上げられたラルドの剣に、ドラゴンが注意を奪われた一瞬。


 ノゾムが狙ったのは、その一瞬。



『射ったらすぐ――』



(あ、逃げなきゃ)


 ジャックの言葉を思い出したノゾムは、すぐにその場から駆け出した。


 矢はドラゴンの鼻っ柱に突き刺さる。上がる悲鳴。ドラゴンが怯んだ隙を見逃さなかったラルドが、大剣を振るう。


「うっ!? かってぇ!」


 ブーストをかけたラルドの一撃は、ドラゴンの硬い皮膚を浅く傷つけるだけに終わった。


 ノゾムがさっきまでいた場所にドラゴンの尻尾が叩きつけられる。移動していなかったら、ぺしゃんこになるところだった。ノゾムはジャックの教えに心から感謝した。


「…………あああああッ!!!」


 男の子が声を荒らげる。その視線の先には、鼻に刺さった矢をどうにかしようと頭を振っている、ドラゴンの姿。


「よくも……よくもやったなッ!!」


 忌々しげに吐き捨てられる言の葉。

 男の子は自分の胸に手を当てて、叫んだ。



「『トランス』!!」



 ――とらんすって、なんだ?


 そんな疑問を挟む余地もなく、まばゆい光が男の子の身体を包み込む。細く頼りなかった腕がむくむくと膨らみ、頭がまるで、トカゲのように変形する。


 ギザギザがついた大きな尻尾。分厚い指の先の鋭い爪。ついでに背中には小さな翼……体の大きさに比べると明らかに不釣り合いだが、飛ぶ必要のない洞窟暮らしで退化してしまったのだろう。


 兎にも角にも、ラルドが対峙している盲目のドラゴンと同じ姿をしたものに、男の子は変身してしまった。


「グガアアアアアアアアッ!!!」

「まずい……っ! 『エスケープ』!!」


 ナナミはネルケの手を取り、振り下ろされる巨大な腕から逃げてくる。


 パッと消えたかと思えば、そこから5メートルも離れていない場所に現れたナナミたち。『エスケープ』は対峙するモンスターの死角へと移動するスキルだ。


 ノゾムは慌てて2人に駆け寄った。


「大丈夫!?」

「ええ、間一髪だったけど」


 ナナミもネルケも、怪我はないようだ。いや、そもそもゲームの中なのだから、怪我なんかするはずもないのだけど。


 ノゾムはホッと息を吐いて、男の子だったドラゴンを見た。


「あれは……。あの子は、モンスターだったってこと?」


 人に化けるモンスター。

 そういうのがいたということだろうか。


 だがしかし、それなら『プレイヤー検索』で出てきたのは何故だ? あれは『プレイヤー』を探すためのものだから、モンスターは表示されないはずだ。


「あの子、『トランス』って言っていたわ。あれはスキルよ」

「スキル?」

「確か……【テイマー】が覚えるスキルだったはず。仲良くなったモンスターと同じ姿に変身できるのよ」


 『テイマー』

 『仲良くなったモンスター』


 ノゾムの鈍い頭は、その言葉をすぐには理解することができなかった。


「くっそー! もう1回!」


 ラルドが大剣を振り上げる。

 ノゾムはハッとした。


「ラルド! 待って!」


 ノゾムの叫び声にラルドはびくりと動きを止める。ドラゴンの大きな尻尾がラルドの体をぶっ飛ばした。


「ラルド!!」


 壁に叩きつけられるラルド。崩れた黒い石の壁が、ラルドの周りに散らばり落ちる。


 ノゾムは目を丸めた。

 倒れたラルドの体が、赤く輝きだしたのだ。


「え、ラルドが光って……え?」


 ラルドはすっくと立ち上がる。体は赤く輝いたまま、拳をかたく握りしめて、ドラゴンの腹にワンパンを叩き込む。


 ドラゴンは吹っ飛んだ。


「え……?」


 なに、あの力?

 さっきまでと比べものにならないんだけど?


 茫然とするノゾムに気付いたラルドは、いつものように片手で目元を隠して、フッと笑った。


「お前には初めて見せるな。これはオレの真の姿……ラルド・ネイ・ヴォルクテット、トゥルーフォーム!」

「トゥルーフォーム!?」

「……いや、それ、『火事場の馬鹿力』でしょ?」


 ナナミが呆れた声でツッコんだ。


 『火事場の馬鹿力』って、なんだ?


 ラルドはドラゴンの尻尾に再度吹っ飛ばされた。赤い光が消える。ラルドはピクリとも動かない。かと思いきや、またしてもすぐに立ち上がり、ノゾムたちのもとへ逃げてきた。


「1回死んだせいで効果が消えちまった!」

「はぁ?」

「『火事場の馬鹿力』は、【戦士】のセカンドスキルよ。HPが残り10パーセントを下回ると、ステータスが大きく上昇するの」

「へぇ……」


 ピクリとも動かなくなったのは、戦闘不能になったからだったらしい。『身代わり人形』によって復活すると、HPは全回復する。そのせいで『火事場の馬鹿力』の効果が切れてしまったのだろう。


「って、のん気に話している場合じゃない!」


 ノゾムは慌てて、男の子だったドラゴンを見上げた。


「ごめん! 君の友達だなんて知らなかったんだ!!」

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