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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第1章 はじまりの国ルージュ
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暗闇での邂逅

「あ」


 暗く入り組んだ洞窟をしばらく進んでいくと、レーダーにようやく1人、捜し人の名前が現れた。


 『コーイチ』だ。


「ネルケの仲間より先にこっちが見つかっちゃったよ。どうしよう?」

「う、ウチのことは気にせんでいいよ? ノゾムくんの用事を優先して?」


 問いかけるノゾムに、ネルケは即座に答える。

 ノゾムはわずかに眉を寄せた。


「でも……」

「ウチを優先されると、申し訳なさすぎて埋まりたくなる……」

「わ、分かったよ」


 ずぅんと背後に重いものを背負うネルケを見て、ノゾムは慌てて了承した。


(まあ、そんなに時間はかからないか)


 『コーイチ』がノゾムの父親かどうかは、訊けば分かることだ。違うなら違うの一言で済むし、もしも父親だったなら、


『さっさと家に連絡入れろーーーー!!』


 と、一発思い切り殴って、怒鳴って、それで終わりだ。


(5分もかからないな)


 ノゾムは「うむ」と頷く。

 面倒なことは、さっさと終わらせるに限る。




 ***




 さてさて。いくらレーダーで名前が出てきたといえど、ここは道が複雑に入り組んだ洞窟の中。光る点へ向かってまっすぐに進んだとしても、壁に阻まれてしまう。


 ノゾムはナナミから借りた地図を広げ、レーダーと地図を交互に見比べた。『コーイチ』がいる、だいたいの位置を把握する。


「ここが現在地で、コーイチさんがいる方角はこっちで……えーっと……」

「このあたりに拓けた場所があるのよね。そこじゃないかしら?」


 ナナミが指差したのは、細いヘビのような道の先にある、広い空間だ。その先は白紙になっている。

 地図の完成度は7割くらいだと言っていたし、きっとこの先はナナミも行ったことがないのだろう。


 地図を頼りに、曲がりくねった道を行く。道幅がどんどん狭くなってきたかと思うと、急に視界がひらけた。


 ぽっかりと大きな穴が空いているみたいだ。天井はずいぶんと高いのか、松明を上に向けてみてもてっぺんが全然見えない。地面はノゾムたちが立っている場所よりも2メートルほど下だ。この程度なら、簡単に飛び降りられる。


「なんかすっげぇ変なとこだな」


 ラルドがぴょんと段差を飛び降りて言った。

 とてつもなく広いということは分かるが、広すぎて反対側の壁すら見えない有様だ。


「ええ。あまりに不気味だから、前に来たときはここで引き返したのよ。地図が白紙になっているのはそのためよ」

「ふうん……こんなにバカでかい空間ってことは……」


 ラルドの目がキラリと光る。


「ドラゴン、ここにいるんじゃね?」

「ええ。ネルケの話を聞いて、私も思ったわ」

「え、待って。まさか挑まないよね?」


 同じようにキラリと目を光らせるナナミに、ノゾムは慌てて尋ねる。ナナミは苦笑を返した。


「当たり前でしょ。挑むなら、ジャックがいる時じゃないと」

「オレはやるぜ!!」

「ラルド……」


 キラキラした顔で拳を握るラルドに、ノゾムは肩を落とす。


 ラルドは明らかに格上の相手にも喜々として飛びかかる男だ。説得しても、聞きゃしないだろう。


「勝手にしたら? ノゾムとネルケは一緒に逃げましょうね」

「えっ」

「おいおい、そりゃないだろナナミぃ……」


 ラルドは先程の勇ましさから一転、情けない声を漏らす。やっぱり根っこは寂しがりやなのだろう。『孤高の戦士』を自称しているくせに。



「そこで何をしている!」



 突然、暗闇の奥に光が現れた。ノゾムたちがいる場所とちょうど向かい合う場所に、松明を持った小さな影が見える。


 『視力補正』のおかげで、顔はくっきりと見えた。

 クセのある髪を四方八方に跳ねさせた、10歳くらいの男の子だ。


「君は……?」


 ノゾムは手元のレーダーに目を向ける。この空間には、ノゾムたちの他にもう1人……『コーイチ』しかいない。

 ノゾムはハッと顔を上げた。


「君が、コーイチさん?」

「…………」


 男の子は問いかけに答えず、眉根を寄せる。

 腰に提げた短剣を抜き、切っ先をまっすぐにこちらへ向けた。


「帰れ。どうせお前らも、アイツの命を狙っているんだろう」


 その瞳に宿るのは、侮蔑と嫌悪。子供が見せるにはあまりに不釣り合いなそれを、彼は隠すこともせずに向けてくる。


「引き返さないのなら、ぼくが引導を渡してやる! この悪党どもめ!!」


 なんだかよく分からないことを言って、特攻してくる男の子。ノゾムたちは突然のことにワンテンポ遅れて身構えた。


 男の子が振り下ろす短剣を、ちょうど正面にいたラルドが大剣で受け止めて、受け流す。


 男の子は一瞬だけ態勢を崩したものの、すぐに足を踏み出し逆手に持った短剣を振り上げた。


「あっ……ぶねぇな!」


 ラルドはギリギリで避ける。


「悪党って何だよ! オレたち悪いことなんか何もしてねぇぞ! そもそもプレイヤー同士で戦うのはご法度だろうが!」


 プレイヤー、非プレイヤーを問わず、他人に危害を加える行為は禁じられている。もしも違反した場合には、牢屋に入れられるか、犯罪者として他のプレイヤーたちに追われることになる。


 攻撃をやめない男の子は、そんなこと知ったことかと言わんばかりだ。


 これでノゾムたちが身を守るために彼を攻撃した場合、裁かれるのはどちらなんだろう?


「出ていけ! 出ていけ!」

「おいおい、少しは話を聞いてくれても……」

「出ていけーーーー!!」


 その時、暗闇の奥から、ズズズ……と何か重いものを引きずる音が聞こえてきた。


 ナナミがハッとして松明を上げる。


「何かいる!!」


 その言葉は一瞬、遅かった。言い終わる前に大きな『何か』がノゾムたちの頭上を通り過ぎ、壁に激突した。


 何だ、何が通り過ぎた?


 ノゾムは恐る恐る、後ろを見る。


 黒ぐろとした壁には大きな亀裂が走り、ノゾムたちが通ってきた道は、崩れた壁によって塞がれた。


 松明に照らされてテカテカと光る赤い鱗。鱗の上部には、トゲが一直線に規則正しく並んでいる。


 特出すべきはその大きさだ。今の一撃が直撃していたら、ノゾムたちの体はぺしゃんこになっていただろう。


「来ちゃだめだ!」


 男の子が叫ぶ。


 ズズ……ズズズ……と大きな尻尾を引きずりながら現れたのは、赤い鱗を全身を覆った大きなトカゲ……いいや、



「ドラゴンきたーーーー!!!」



 喜色満面に叫ぶラルド。またもや飛んでくる尻尾。それが地面に叩きつけられると同時に、天井からパラパラと黒い欠片が降ってくる。


 ……洞窟、崩れやしないだろうか。


 ドラゴンの全長が、どれくらいあるのかは分からない。だけど、どう見ても、ノゾムたちが集まってタワーを作ったとしても、ドラゴンの背には到底届かない。それくらいは大きい。


 ドラゴンは尻尾を下ろし、クンクンと鼻を鳴らす。

 頭を左右にゆっくりと動かしていて、正面にいるノゾムたちとは視線が合わない。


「このドラゴン……目が見えないのかしら」


 洞窟暮らしが長すぎて、目が退化してしまったのかもしれない。そう告げるナナミに、ノゾムはポカンとした。

 そんなバカな。ゲームの中だぞ?

 モンスターに対してまで、リアルを追求するのか。


「マジか。それじゃあ余裕で勝てるんじゃね!?」

「グガアアアアアアアアアアッ!!!」

「すみません調子に乗りましたッ!!!」


 ドラゴンの咆哮を聞いたラルドは、すぐに前言を撤回した。


 余裕で勝てる、だって?

 ハンデはまだまだ足りないくらいだ。


 目が見えない分、ドラゴンの嗅覚や聴覚は優れているらしい。ドラゴンの口から飛び出した炎の塊は、寸分違わずにラルドに直撃した。


 近くにいたノゾムたちも余波を食らう。HPが5分の1ほど減少した。直撃を受けたラルドのHPはもっと減っただろう。


「ぐうぅ……目が見えなくとも、ドラゴンはドラゴンってか。お前はオレが倒ーーす!!」

「やめろバカ!!」


 ドラゴンを指差すラルドに、再び短剣が迫る。ノゾムはとっさに弓を引いた。放った矢は男の子の足元に刺さり、男の子の動きが止まる。


 憎々しげに睨まれて、ノゾムはちょっぴり冷や汗を掻いた。


「なんか、いろいろ、よく分からないけど……」


 ちらりとドラゴンを見る。ドラゴンは口の中に炎を蓄えて、攻撃の準備をしている最中だ。


 後ろを見る。瓦礫に塞がれた通路。

 戻ることは出来ない。


「これ、どうすんの!?」

「ドラゴンを倒ーーす!」

「本気で言ってんの!?」


 炎の塊が飛んでくる。ラルドは喜々として大剣を横に構え、炎を迎えた。


 もう、好きにしたらいい。


 ノゾムは男の子の腕を引いて、ナナミとネルケと共に、急いでその場を退避した。

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