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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
最終章 常闇の国ヴィオレ
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ゲーム嫌いがゲームを始めました

 ゲームの中で無事に父親と会えたことを話すと、希の母親はただ一言、「そう」と言って微笑んだ。

 全てを見透かすようなその目に、希は敵わないなと苦笑した。


 最初はすぐに辞めるつもりだったのに、希は結局、夏休みのほとんどを『アルカンシエル』に費やしてしまった。


 そのことを2学期の始業式の日に佐藤に話すと、佐藤は目を見開いて驚いた。


「へぇ〜、ゲーム嫌いのお前が!? 『アルカンシエル』ってそんなに面白いのか」

「王様たちが厄介だったけどね」

「ゲームの王様って、そういうもんじゃん?」

「やっぱりそうなんだ……」


 王様は理不尽。というのは、やはり色々なゲームで共通していることらしい。「まあ、中にはカッコイイ王様もいるけどな」と佐藤はフォローを入れる。


 確かに『アルカンシエル』の王様の中にも、マトモな人はいたけれども。

 圧倒的に変な王様のほうが多かった。


「そのユズルって人、そんなに弓の腕がすごいのか。なんか俺も興味出てきたな〜。クリスマスにおねだりしてみようかな〜」

「もし買ってもらえたら、一緒にプレイしようよ。紹介したい友達もいるし」

「ほぉ〜?」


 佐藤は意外そうな顔をする。彼は希の人見知りを知っているので、ゲームの中とはいえ希に友達ができたことが驚きなのだろう。


 なにげに失礼な友人だ。


「どんな人なんだ?」

「俺と違ってゲームがすごく好きでね、ときどき変なこと言うけど、面白くて良い奴だよ。あいつと友達にならなかったら、俺、やっぱり途中で辞めてたかも」

「ふーん?」


 佐藤はやっぱり意外そうな顔をして希を見る。なんだよその顔。希はなんだか恥ずかしくなってきて、思わず口を歪めた。


 その時だ。教室の後ろから、溌剌とした声が聞こえてきた。


「魔王は巨大なドラゴンに変身した! この世の邪悪なものをすべてその身にまとったような、禍々しい暗黒のドラゴンだ!」


 声の主は、クラスのムードメーカー、南谷圭太だ。周りに集まる友人たちに向かって、身振り手振りを添えて、どこか芝居がかった口調で何事かを話している。


 何の話をしているのかと思ったら。


「邪悪な力をまとうドラゴンには、魔法が効かない! 鋼のような硬い皮膚は刃も通さない! 俺たちは絶体絶命のピンチに陥った!」


 ……『アルカンシエル』に出てくる魔王の話だ。南谷もあのイベントに参加していたのかと、希は目を見開いた。


「そういや水城、『アルカンシエル』で南谷には会ったのか?」


 佐藤が南谷を見ながら問う。1学期の終業式の日に南谷も『アルカンシエル』をプレイすると言っていたことを、佐藤も思い出したらしい。


 希は首を横に振った。


「『アルカンシエル』のプレイ人口は多いし、ゲームの中の世界も広いから……。それにお互いアバターだし、どこかですれ違っていたとしても気付きようがないよ」

「そりゃそうか」


 あらかじめゲームの中で落ち合う約束をしていたなら別だが。希は別に南谷とは仲良くないし、あのゲームの中で彼が何をしていたのか知るよしもない。


「そこでノゾムが取り出したのは、敵にかかった全ての強化・弱体の効果を打ち消すアイテム、『ラウダナム』!」


「……ん?」


 なんか今、名前が出てきたような。


 希は南谷を見る。南谷の友人たちは、「らうだ……何だ?」「他のゲームにもそういう名前のアイテム出てきた気がする」と口々に言っている。


 南谷はさらに大きな声で言った。


「『ラウダナム』の効果で、邪悪なドラゴンの体はみるみるうちに金色に……。その神々しさは見る者すべてを魅力した。そして攻撃が効くようになった」

「魅了された相手をよく攻撃できたな」

「だって魔王だし」

「こいつの話に深く突っ込むのはやめよーぜ」


 南谷の友人たちは、わりと南谷の扱いが雑だった。彼らとは去年はクラスが違ったので、その人となりはよく分からない。


 1学期での印象は、「いつも集まって騒がしい連中」だったけど。


「攻撃は効くようになったが、それでも魔王は強い! しかしそこで! ノゾムのスキルが輝いた!」


 また名前が出てきた。希は思わず立ち上がった。

 佐藤が不思議そうな顔をして見上げてくるけど、何も答えることができない。


 心臓がバクバクしている。

 頬を汗が伝う。


「ノゾムが使うスキルは、そう多くない。姿を消す『隠密』というスキルと、落とし穴なんかを作る『罠作成』というスキル。あとは、ノゾム自身がひたすら磨いていた、弓のスキルだ」

「……」

「この弓がなー、ほんっと最初はすっごくヘロヘロだったのになぁ。オレの相棒はすっげー努力家よぉ……」


 気が付くと希は、南谷の前に立っていた。


 南谷の友人たちから訝しげな視線をもらう。なぜだかホロリと涙を流していた南谷は、そんな友人たちと、目の前に立つ希を見て、きょとんと目を丸くした。


「ん? あれ? どうした?」

「……全然会ってないと思ったら、実はとっくの昔に会っていたというパターン……」

「なに言ってんだ?」


 南谷はいっそう不思議そうに首をかしげる。希は片手で額を押さえた。どうしよう。何て言えばいいだろう?


 クラス中から視線が集まっていて、緊張で喉がカラカラだ。


「えっと……。南谷、……くんって、もしかして……」

「うん?」

「ラルド、だったりするの?」


 南谷は、つり目がちなその目を大きく見開いた。


「えええっ!? なんでオレの名前を知ってるんだ!?」

「……。やっぱりラルド……。ラルド・ネイ……なんとかさん」

「ラルド・ネイ・ヴォルクテットだ! なんとかって何だよ! え、水城ってまさか……!」


 南谷は興奮した様子で言った。


「オレのファンなのか……!?」

「なんでそうなる?」


 希は思わずツッコミを入れる。南谷はテレテレと後頭部を掻きながら「だってオレってば『真の勇者』として名を残したし」と言っていた。


 希は天井を仰いだ。


「おい水城、こいつとは関わらないほうが身のためだぞ?」


 南谷の友人の1人が、そんなことを言う。南谷は「どういう意味だ!」と叫んだ。


 希は気付いたというのに、どうやらラルドはまだ気付いていないらしい。

 嘘だろ? 希のアバターの名前は、本名なんだぞ?


 そこまで考えて、希は「まさか」とその可能性に思い至った。


「南谷くん」

「なんだ水城くん?」

「……俺の下の名前って、知ってる?」


 南谷とは、去年は違うクラスだった。そして今年の1学期は、ほとんど関わりがなかった。


 それでもクラスメイトの名前ぐらい……と思うけど、あのラルドなら(・・・・・・・)有り得る気がする。


 南谷はぱちぱちと目を瞬かせ、視線を右往左往に彷徨わせた。思い出そうとするような仕草をし、ダラダラと冷や汗を流す。


「マジかこいつ」

「クラスメイトの名前……しかも出席番号、ひとつ違いなのに」


 南谷の友人たちも引いた顔をしている。そう、『みずき』と『みなみたに』なので、希と彼は出席番号がひとつ違いなのだ。


 だから希は、南谷のフルネームはわりと早くに憶えたのだけど。


 南谷は冷や汗を掻きながら、視線をさらに泳がせる。どこかに答えが落ちていないかな、と探すような目だ。そして見つけた。希の机の横に掛かっている鞄に、『水城希』という名前が書いてあった。


 南谷は、ひとつ頷いてから真面目な顔で答えた。


「みずきき」

「そんな名前の人いる?」


 騒がしくて近寄りがたいなと思っていたクラスメイトは、ゲームの中の相棒のままの人だった。




 ***




 それから希は、学校が休みの日にまたゲームをするようになった。

 南谷は学校がある日でも夜遅くまでプレイしているようで、日中はよく寝ているし、先生によく怒られているし、友人たちにイジられているけど、希は「やっぱり学生の本分は勉強だよな」と思うわけで。


 ラルドとエレンはぶーぶー言っていたけど、受験生のオスカーは「ノゾムが正しい」と頷いてくれた。


 オスカーもまたプレイするのは休日のみになって、平日は勉強に専念するそうだ。

 代わりに平日の夜は、リオンがほぼ毎日ログインしている。リオンの協力のおかげで、ナナミの開拓地はものすごく発展していた。今度は土地を広げるつもりだそうだ。


「それで、ノゾムは今、何を作ってるの?」


 ナナミが聞く。ノゾムは照れくさそうに頬を掻きながら答えた。


「ロウの遊び場だよ。学校が始まってから、あんまり遊びに来れなくなったから……」


 現在、ラルドが手付かずにしている開拓地で、ノゾムはモノづくりの真っ最中。


 作りたいのは、小さなアスレチックのような遊び場だ。ナナミのように『作りながら考える』のはノゾムには難しかったので、まずはリオンと協力して図面を作った。


 図面のとおりに木材を切って、組み立てればいいはずなのだが……


「やっぱり曲がっちゃうのは、何でだろう……」

「これはこれで味があっていいじゃない」

「味って何……」


 ロウは作りかけのアスレチックの周りを元気に駆け回っている。そのそばには、グラシオとカイザー・フェニッチャモスケもいる。


 ヒッポスベックたちが走り回れる場所もほしいな、とまだアスレチックも完成していないうちから、ノゾムは思った。


 父親のせいでゲームを始めたゲーム嫌いの少年は、今度は自分の意思で、ゲームを遊ぶつもりだ。





 おわり

 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

 無事に書き上げることができたのは、読んでくれる方がいたからです。誰にも読まれていなかったら、途中で投げ出していたかもしれません。


 そして何より、この世にゲームが存在しなければ、この話も存在しませんでした。

 ゲームが楽しいと思えたからこそ、書きたいと思えたし、書けた物語です。

 ゲームクリエイターの皆さんに、心から感謝します。



 以下、参考にしたゲーム。


 ドラゴンクエストシリーズ、ファイナルファンタジーシリーズ、世界樹の迷宮5、ファンタジーライフ、オクトパストラベラー1&2、あつまれどうぶつの森、モンスターハンター4、ポケットモンスターシリーズ、ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド、聖剣伝説レジェンドオブマナ、聖剣伝説3、ドラクエビルダーズ1&2

 その他、今までプレイしてきた全てのゲーム


 大感謝!!

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