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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第1章 はじまりの国ルージュ
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失敗しても大丈夫

 ネルケを加えて、真っ暗なダンジョンを進んでいく。通路を抜けると、今度は3つに分かれた道が出てきた。右と、左と、下方へと続く道だ。


 ダンジョン内は、上下左右に複雑に道が分かれている。地図が無ければ、すぐに迷子になってしまうだろう。


 ノゾムの目の前にはプレイヤー検索のレーダー画面があった。探す名前は『コーイチ』の他に、『バジル』『ローゼ』『セドラーシュ』。ネルケの仲間たちである。


 ネルケは終始申し訳なさそうにしていた。


「あ、あの、付き合ってもらわんでもいいとよ? ウチのことは放っておいて、どうか探索を――」

「足が震えてるぞ、ワンコ」

「うぅ……」


 ラルドの指摘のとおり、ネルケの足は震えている。怖いのなんて当たり前だ。だって、こんなに真っ暗な洞窟の中なんだから。


「オレが好きでやっていることだ。気にすんな」


 ラルドはカッコつけて言う。それはジャックが言っていた言葉じゃないか。真似したかっただけだろう。


 ノゾムは純粋に感動しているらしいネルケが、少し可哀想になった。


「上から落ちてきたってことは、バジルたちは上の階層にいるはずよね。あんたたちも素材を採りに来たの?」

「あ、いや……」


 ナナミの言葉にネルケは首を横に振る。


「バジルさんが仕入れてきた情報なんやけど……。ここ、ドラゴンがおるらしいよ」


 ドラゴン。


 ラルドとナナミが雷に打たれたような顔をして固まった。

 ノゾムは一拍遅れて、目を大きく見開く。


「……ドラゴンだって?」

「う、うん、ほんとかどうかは分からんけど」

「うわっ、マジか! うわーっ! うわーっ!」


 ラルドは興奮して語彙力をなくした。『ドラゴン』という言葉は、彼の少年の心に見事に火をつけたらしい。


「ドラゴン……。そんな隠れモンスター的な扱いなら、とんでもなくレアなお宝を落とすんじゃないの……!?」


 ナナミの目は怪しく光っている。

 ネルケはオドオドしながら、頷いた。


「ら、らしいよ。本当は、ルージュにはいないはずのモンスターなんだって。あとね、ドラゴンを倒すと、【ドラゴンスレイヤー】っていう職業に転職できるようになるらしいよ」

「マジかよ!! うわーっ! うわーっ! うわーっ! うわーっ!」


 ラルドの語彙力は死んだ。

 ノゾムは口元に手を当てる。


「なるほど。ここに篭もっているプレイヤーたちの目的は、それか。コーイチさんもドラゴンを狙っているのかな」

「これって結構、重要な情報なんじゃないの?」

「え、そうなん……?」


 ナナミの問いかけに、ネルケは不安げな様子で問い返す。ナナミは首肯した。


「ここに篭もっているプレイヤーの数が少ないことを考えれば、掲示板にも載っていない情報なんだと思う。独占したい情報は、みんな隠したがるものなのだからね。なんでも開示したがる奴も、中にはいるけど」

「えっと、つまり、この情報は……」

「めちゃくちゃレアってこと」

「ウチ、もしかして余計なこと言った!?」


 ネルケは「しまった!」と両手で口を押さえる。ナナミはニヤッと口角を上げた。悪い笑顔だ。


「あんたの仲間探しの礼だと思いなさい。これであんたも、気兼ねなく私たちを頼れるでしょ」

「うぅ……バジルさんたちにバレたら怒られそう……」

「うわーっ! ドラゴン! うわーっ!」

「ラルド、いい加減戻ってきてよ……」


 いったいいつまで叫んでいるつもりなんだ。

 呆れた顔をするノゾムに、ラルドは少年のようにキラキラした目を向けた。


「だってドラゴンだぞ!? 興奮するなってほうがおかしいだろ! ドラゴンスレイヤーに、オレはなる!!」

「お宝は私のものよ!」

「いや、あの……このメンバーで挑む気?」


 盛り上がる2人には悪いが、ノゾムは冷静に現実を思い出させた。ノゾム、ラルド、ナナミ。『悪魔の口』のクリスタル・タランチュラに辛くも勝利した3人である。


 あの勝利は本当にギリギリだった……全滅だって有り得たのだ。


 ドラゴンのレベルがどのくらいかは分からないが、まさかクリスタル・タランチュラより弱いってことはないだろう。


 ナナミのテンションは一気に下がった。


「そうよね……。ジャックもいないんだもんね……」

「いやイケるって! あの時よりオレたちは強くなっているはずだ!」

「まだ1日しか経ってないけど?」


 謎の自信に満ちたラルドのセリフに、ナナミは眉を寄せる。ラルドは「ちっちっ」と指を振って見せた。


「男子三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ、って言うだろ?」

「だから1日しか経ってないけど??」


 このメンバーでドラゴンに挑むのは無謀以外の何物でもないと、ナナミはようやく思い至れたらしい。


 ラルドはやる気まんまんだが、彼がドラゴンに飛びかかろうとしたときには全力で引き止めようと、ノゾムは思った。




 ***




 洞窟内に主に現れるモンスターは、虫とコウモリだ。巨大ムカデは気持ちが悪いけど、特に厄介なのはコウモリである。超音波でこちらの動きを制限してくるし、飛び回るから攻撃も当てにくい。何より一度に何匹も襲いかかってくる。


「『精神統一』……かーらーの『ライトニング』!」


 ラルドが放った雷がコウモリに直撃する。落下してきたコウモリを、ノゾムの弓とナナミの短剣が狙った。まずは1匹。しかしモンスターはまだまだたくさんいる。


「えっと、えっと……」


 後ろで右往左往していたネルケが、両手を前に突き出した。


「て、『天恵』……!」


 ネルケの両手がまばゆく輝く。

 初めて聞く単語に、ノゾムは首をかしげた。


「てんけいって?」

「味方の防御力を上げるスキルよ。【僧侶】のセカンドスキルね。これで少し楽になるわ」


 ホッと息を吐きながらナナミが答える。

 防御力が上がったのなら、多少は無理をしても大丈夫だろう。


「おっしゃあ! 行くぜぇ!!」


 ラルドが大剣を手にモンスターの群れに突っ込んでいく。巨大ムカデの攻撃をマトモに受けた。ビーッビーッと鳴り響く警告音……ラルドのHPが、尽きる寸前という合図だ。


「え、あれ?」


 深い傷を与えられれば、HPは多く減る。とはいえ、防御力を上げたはずなのに一撃で瀕死になるのはおかしい。


 『天恵』で上がる防御力というのは、そんなに微々たるものなのだろうか?


「……あ!? 味方識別(マーキング)つけるの忘れとった!!」


 ノゾムは思わずすっ転びそうになった。

 『天恵』は味方識別(マーキング)をつけた相手の防御力を上げるスキルなのらしい。ネルケの味方識別(マーキング)はバジルたちにつけたままなのである。


「何してるのよ!?」

「ごめんなさいぃぃぃ!」

「ぐおお……こういう時は、自分で回復! 『キュア』!!」


 ラルドは自分の胸に手を当てて叫んだ。優しい光がラルドを包み込み、けたたましく鳴り響いていた警告音が消える。


「MPがピンチだぜ……ノゾム、アレやれ! ワイヤー!」

「あ、そうか」


 ノゾムはハッとして『罠作成』のパネルを出した。『ワイヤー』を選び、指先に現れた矢印を操作して上空に幾重にもワイヤーを張り巡らせる。


「よし! 来いやぁコウモリ!!」

「ちょっと、ワイヤー見えないんだけど!? ノゾム、あんた私に味方識別(マーキング)つけてないでしょ!?」

「あ、忘れてた!」


 味方識別(マーキング)をいちいちつけるのは、意外と面倒くさい。


 コウモリたちはワイヤーに引っかかって動きを止める。あとは攻撃するだけなので、楽なものだ。


 モンスターをひと通り片付け終えて、一同はようやく一息入れた。


「ウチ、ほんとに役立たずやね……」


 しょんぼりと耳と尻尾を垂らすネルケ。ノゾムはそんなネルケにどんよりした目を向けた。


「俺だってそうだよ……。ほんっと昔から要領が悪くてさ……」

「で、でも、ノゾムくんはワイヤーで役に立っとったし……」

「ラルドに言われるまで忘れてたよ……。ネルケだって、味方識別(マーキング)していたら『天恵』が役に立ってたよ」

味方識別(マーキング)忘れとったし……」

「それなら俺も忘れてたし……」

「でも……」

「いや……」


「あんたたちが似た者同士だってのは分かったから、その辺にしておきなさいな」


 ジメジメして鬱陶しいのよ、とナナミは呆れた顔で口を挟む。ノゾムとネルケは、ハッとして口を噤んだ。ラルドが「そうだぞ」と大きく頷く。


「失敗したら、次に活かせばいいんだ。それが出来るのがゲームだからな」


 MP回復用のチョコレートをもぐもぐ食べながら、ラルドはそう言った。口元を黒く汚しながら、ニカッと笑う。


「失敗しても死ぬわけじゃないんだしな!」

「それはそうだけど……」


 ポジティブなラルドが羨ましい。しょんぼりとしていたネルケも、ラルドの言葉を聞いて眩しそうな顔をしている。


「さあ、先に進むわよ」


 回復と弱音吐きが終わったことを確認して、ナナミは先を促した。

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