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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
最終章 常闇の国ヴィオレ
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魔王Ⅳ

「身ぐるみをひん剥くって……それ、勇者のセリフじゃなくないかー!?」


 魔王の全力のツッコミに、ノゾムは「確かに」と頷く。いや、勇者とは何かということを、ノゾムはよく知らないのだけど。


 ラルドは「何言ってんだ?」と怪訝そうな顔をした。


「勇者って、他人の家に勝手に入って、タンスとか勝手に漁って、タルとかツボを壊しまくるだろ」

「それはそうなんだけどよ」


 ラルドの言葉に、今度は魔王が納得した声を漏らす。ノゾムは困惑した。


 勇者って、マジで何なんだ。


「とにかく。俺が身につけているものに手を出すのはオススメしない。絶対にやめておいたほうがいい。マジで」


 小さなヒビが入った仮面を片手で押さえながら、魔王はキッパリと告げる。ノゾムたちは胡乱な目をした。


 魔王の――ヴィルヘルムの言葉を信じられるかと言えば、答えはもちろん否である。



「やめておいたほうがいいって、言ったのになぁ」



 逃げ回る魔王がワイヤーに足を取られた隙をついて、ノゾムの放った矢とラルドの振るった大剣が魔王の仮面を割る。


 顔を押さえる魔王の両手の隙間から見える瞳の色は、血のような赤色だった。


 ヴィルヘルムの目は灰色じゃなかったっけ、とノゾムは首をかしげたが、髪と瞳の色は変えることも出来るので、気にするところではないだろう。


 変えることが出来ないのは、顔と体格。そして声。魔王の顔は見えないけれど、体格と声はやはりヴィルヘルムに酷似している。


 そのふざけた性格もだ。


「なんだあ……!?」


 ラルドが素っ頓狂な声を漏らす。


 魔王の体は不自然に膨らんで、両手で覆った顔が異形のそれへと変化する。


 天井近くまで大きくなった体は黒い鱗に覆われていて、額にはねじ曲がったツノ。吐き出す息は青い炎。指の先には、ナイフのように尖った爪が生えている。


 その姿は、二本の足で立つ巨大なドラゴンだ。


「仮面さえ壊さなきゃあ、まだ勝ち筋があったかもしれないのになぁ」


 黒いドラゴンはニヤリと笑う。黒……だと思ったが、よくよく見れば、いろんな『色』が混ざり合っているようだった。


 体を覆う鱗はとても硬く、試しに射ったノゾムの矢はあっけなく弾かれた。


「いやいやいや」


 ラルドはドラゴンの顔を見上げながら、ひくりと口元を引き攣らせる。


「これはさすがに反則だろ……。なんだよこれ? まさか『トランス』か?」


 【テイマー】のセカンドスキル『トランス』は、仲良くなったモンスターの姿に変身できるというスキルだ。

 以前、エカルラート山で会った少年が使っていたスキルである。


 魔王だったドラゴンは応えない。大きく息を吸い、炎のブレスを吐いた。鮮やかな青い炎は、それが非常に高温であることを示している。エレンが『聖盾』で防ぐが、長くは保たなかった。


 『聖盾』が壊れると同時に、炎がエレンを包む。エレンは倒れた。戦闘不能になってしまったのだ。


 『身代わり人形』は持っていたはずなので、すぐに復活するはずだけど……。


(でも、こんなの、どうすれば……?)


 勝てるはずがない。魔王の言うとおり、さっきまでの姿だったらまだ勝ち筋があったかもしれないけど、こんなバケモノ、どうやったら倒せるというのだろう?


 ノゾムが張ったワイヤーも、落とし穴も、ドラゴンは意にも介さない。


「やっぱり仮面じゃなくて、黒いローブのほうだったんだって! 『闇の衣』だって!」

「……あんたね。それは違うゲームの話でしょ?」


 ナナミは呆れた顔でラルドを見る。ラルドは「そりゃそうだけど!」と頰を膨らませた。


「でも、アイツも知ってるゲームみたいだし。超有名だから、当然だけどな。てか、お前らが知らないことのほうがオレは驚きなんだけど!」

「知らないわよ、そんな昔のゲーム」

「昔のゲームって知ってんじゃん!」


 昔のゲームなのか。どのくらい昔なんだろう。ラルドが言うには、何度かリメイクされているゲームなのらしい。


 オスカーは難しそうに眉を寄せている。倒れたエレンはまだ動かない。オスカーはエレンを気にかけつつ、油断なくドラゴンの様子を窺っていた。


 ノゾムもまた『隠密』で姿を隠したままドラゴンを見上げる。


 どうしよう。どうしたら。


「それで? その『闇の衣』だった場合、どうすればいいわけ?」


 ナナミがラルドに問いかけた。どこか投げやりな態度だ。ラルドに付き合っている余裕はないが、せめてこの状況を打開するヒントになればいい……そう思っての問いだろう。ラルドは胸を張って答えた。


「『光の玉』っていうアイテムを使うんだ!」

「……光の玉ねぇ。それは今、どこにあるのかしら?」

「そこが一番の問題なんだよなぁ」


 ラルドが言っているのは、あくまで『違うゲーム』の話なのである。


 そのゲームでは、ラスボスが纏う『闇の衣』とやらを『光の玉』で剥がすことで、攻撃が効くようになるらしい。


 『闇の衣』を纏っている間は、攻撃はほとんど効かない上に、相手の攻撃が強化されるのだとか。


 「あえてそのままにして、縛りプレイをするのも有りだ!」とラルドは親指を立てる。


 ナナミは心底アホなものを見る目でラルドを見たが、ふいに何かを思い出すように、視線を遠くにやった。


「敵の強化を、打ち消すアイテム……」

「悪あがきの算段はついたか? これじゃあ退屈しのぎにもならねぇよ。まだまだ俺を楽しませてくれよな!」


 ドラゴンが牙を剥く。頭から噛みつこうとしてくるそれを冷静に見ながら、ナナミは「『エスケープ』!」と叫んだ。


 両手に掴んだラルドとオスカーと共に、ナナミはドラゴンの背後に瞬間移動する。


「ノゾム、あれを使ってみて! ジョーヌの女王様から貰ったやつ!」

(ジョーヌの女王……?)


 ノゾムはぱちくりと目を瞬いた。

 何だっけ。何か貰ったっけ?


「正確に言うなら、女王様の側近から『お詫び』として貰ったやつ!」

(お詫び……)


 そういえば、トトという名前の女王の側近から、『お詫び』と称していくつかのアイテムを貰っていたっけ。


 ノゾムはアイテムボックスを開く。トトから貰ったアイテムは、この中に入れっぱなしにしていたはずだ。


 『神竜の涙』……獲得経験値が5倍になるアイテム。


 『ウニコウル』……味方にかけられた強化・弱体効果を消すアイテム。


 そして、


(『ラウダナム』……相手(・・)についている強化・弱体効果を打ち消すアイテム)


 そういえば持ってたなぁ、こんな変な名前のアイテム。しかも、2つもある。


 1つはカジノの時に貰ったもの。もう1つは、女王が作った『迷路』から脱出した後に貰ったものだ。


 このアイテムが魔王に効くのかどうかは分からない。だが、エレンが言っていたとおり、とにかく何でも試したほうがいいだろう。


 ノゾムは『ラウダナム』を取り出した。小さな瓶に入った、粉薬だ。ノゾムは瓶ごとそれを、ドラゴンに向かってぶん投げた。

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