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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
最終章 常闇の国ヴィオレ
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魔王Ⅱ

 大剣を受け止めたほうとは逆の手をラルドに向けて、魔王は「『かえん』!」と叫ぶ。手のひらから噴き出てきたのは、紅蓮の炎。これはイエティは使っていなかった魔法だ。


 もろに食らってしまったラルドは火だるまになりながら地面を転がる。見た目は結構やばいが、痛覚はオフにしているはずなので痛みはないはずだ。熱さがどうかは分からない。火が消えたとたんにすっくと立ち上がったラルドは、ピンピンしているけれど。


「ひゃ〜、硬いな! 岩でも斬りつけたみたいだったぞ!」

「防御力に極振りしてるらしいから……」


 高レベルのプレイヤーばかりが集うバトルアリーナで、ヴィルヘルムが連戦連勝していた要因のひとつが、この異常な『硬さ』だ。


 もともと物理防御力をメインにステータスを上げていた上に、【ドラゴンスレイヤー】の『鋼鉄の肉体』というスキルを得て、さらに硬度が上がっている。


 ヴィルヘルムの体に、生半可な攻撃は通じないということだ。


「確か、魔法は効くんだったよな。オスカー頼む!」

「プレイヤーに攻撃して、違反にならないのか?」

「本人が魔王だって言ってんだから、気にするな!」


 そういう問題なのか? と首をかしげつつ、オスカーは魔王に杖を向けた。


「『アイシクル』!」

「うわ、やべっ!」


 海をも凍りつかせたオスカーの氷結魔法が魔王を襲う。慌てた魔王は、そこで暴挙に出た。


 エレンを盾に使ったのである。


 味方識別(マーキング)を付けている味方に攻撃は当たらない。それにエレンは、『聖盾』を張ったままだ。オスカーの『アイシクル』がエレンのHPを削る心配はない。


 だが、


「テメェ、やっぱりヴィルヘルムだろ!!」

「はて、何のことやら?」


 オスカーが放った『アイシクル』はエレンの体に阻まれて魔王に届くことはなかった。


 怒鳴り声を上げるエレンに魔王はわざとらしく小首をかしげ、オスカーに向かってエレンの体を蹴り飛ばす。


 エレンにぶつかりそうになったオスカーは、とっさに杖を引っ込めた。


 その隙を見逃すような魔王ではなかった。


「厄介そうなのは先に叩いておかなきゃな!」


 魔王の手元に槍が現れる。オスカーがギョッと目を剥いた。ラルドが「やっぱりヴィルヘルムじゃん!」と叫んだ。バトルアリーナでヴィルヘルムは、試合の終盤に突然槍を使い始めたのだ。


 ヴィルヘルムは素手で戦うプレイヤーである。と散々周りに印象付けた上での長柄武器への切り替えに、対戦相手のジャックたちも驚いていた。


 槍を構えて突っ込んでくる魔王にオスカーは慌てて杖を構える。しかし魔法を放つより、魔王の攻撃が届くほうが速い。


「こっちを忘れないでよ!」


 そこへナナミがグラシオの上に乗って飛び込んできた。グラシオの凍えるブレスが魔王を襲う。


「くっ……!」


 魔王が怯んだ隙に、ようやくノゾムは彼の身を捕らえた。


 見えないワイヤーに絡め取られた魔王は、ノゾムの姿が見えなくなっていたことにようやく気付く。


「いつの間に……!?」

「チェックメイトだぜ、ヴィルヘルム!」


 ラルドが両手を魔王に向ける。オスカーが下ろしていた杖を持ち上げた。


「「『ファイヤーボール』!!」」


 同時に放たれた炎の塊は、身動きの取れない魔王にもろに直撃した。


 物理防御力に極振りしているなら、その分他のステータスは低くなっているはずだ。特に魔法防御力が低いなら、これだけの火力をぶつけられればHPはかなり削れたはず。


 ……しかし。


 にやりと口角を持ち上げる魔王に嫌な予感がして、ノゾムはとっさに弓を構えた。攻撃動作に入ったことで、ずっとかけていた『隠密』の効果が消える。


 弦にかけるのはナナミが作成した『炎の矢』だ。


 ラルドとオスカーが放った『ファイヤーボール』の効果が消えると同時に、矢を放つ。


 矢は魔王の腕に微かに刺さり、再び魔王は炎に包まれた。


「追撃とはやるな、ノゾム!」

「ちょっと待ってラルド、様子が変だよ!」


 炎に包まれる魔王は、笑みを崩さない。魔王は羽織っている黒いマントをばさりと翻した。


「効かないな!!」


 炎はあっけなく弾かれた。魔王には、マントにも体にも、焦げ跡ひとつ付いちゃいない。


 ポカンと口を開けるラルドの前に魔王は飛び込む。ラルドの顔面に拳がめり込んだ。即座にオスカーには槍を投擲し、ナナミには『いなずま』を放つ。


 エレンがナナミの前に出て『聖盾』を張った。『聖盾』は派手な音を立てて砕けた。エレンは雷撃をその身に喰らう。


 ラルドは殴られた顔を押さえながら、「ちょ、待てよ」と慌てた様子で言った。


「魔法は効くはずだろ、ヴィルヘルム!?」

「だからヴィルヘルムじゃないって言ってるだろ」


 魔王は呆れたように、仰々しく肩をすくめて返した。


「俺は『魔王』だ。どんな攻撃も俺には効かねぇよ。お前たちは、俺の退屈しのぎに、ひたすらボコられる運命なのさ」


 そう言ってにんまりと笑う魔王は、まさに邪悪そのもの。……やっぱりヴィルヘルムだと思うんだけどなぁ。


 ノゾムは再び『隠密』で姿を消す。


 しかし……物理攻撃だけでなく魔法まで効かないとは。いったいどうやって倒せと言うのだろうか?

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