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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
最終章 常闇の国ヴィオレ
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あの子の名前

 オスカーが『サイクロン』を放つ。空に向かって巻き上がる風に、ナナミがポーションの中身をぶち撒けた。


 風に囚われたミイラたちは悲鳴を上げながら消えていく……のに、ミイラの数が減っているように見えないのは、何故なのか。


 その理由は、例の子供の幽霊が片っ端から墓石を叩き、墓石の下に眠るミイラを叩き起こしているからだ。


 減らしても減らしても減らないミイラたち。ケタケタという子供の笑い声に腹が立ってくる。

 よくよく耳を澄ませば、子供の声とは別に、男の人の笑い声も聞こえてくる。

 きょろりと周囲を見渡すと、木の上に、どこかで見た覚えのあるコウモリ男がぶら下がっているのが見えた。


 あれは確か、ドラキュラだ。イベントが開幕するときにノゾムたち『イベント参加者たち』の前に現れた奴である。


 手下のコウモリたちを引き連れたドラキュラは、必死にミイラたちと戦うノゾムたちを見て笑っていた。

 なんとなく腹が立ったので、ノゾムは矢を射ってみた。避けられた。無駄にイケメンなのが、さらに腹立つ。


 戦って、戦って、戦って。プレイ時間が終わってしまったので、一旦休憩を挟んで。また戦って。


 そうして全てのミイラを倒し終えたのは、翌日のことだった。


「今日が塾が休みで良かった……」

「ああ。オスカーがいなかったらヤバかったぜ」


 『魔王復活イベント』中はオスカーの兄、リオンがログインしない。魔王と戦うのが嫌だからだ。


 なので、普段はリオンと入れ替わる形で昼から参戦しているオスカーは、今日は塾が休みということもあり、朝から参戦しているのだ。


 現実世界では紫外線が朝からギラギラと地面を照り付けているが、ゲームの中は今日も夜。

 空には真っ赤な月が浮かんでいて、暗く不気味な墓地には凄惨な戦闘の跡だけが残っている。


 金髪の子供の霊は、墓石の後ろに半分だけ体を隠して、まん丸な灰色の目でノゾムたちを見ていた。


 そんな子供に向かって、ラルドがびしりと人差し指を向けた。


「さあ、ミイラたちは倒したぜ! お前の名前を教えろ!」

『にいちゃんたち、つよいんだなぁ!』

「へへっ、まあな。さあ、名前を教えろ!」

『いい退屈しのぎになったぜ。じゃあな!』

「なーまーえー!!」


 子供の霊は、言いたいことだけ言って、墓石の中にしゅるんと吸い込まれるように消えていった。なんてことだ。会話は出来る風だったのに、名前は教えてもらえなかった。


 ラルドは墓石の前でガックリと膝をつく。ナナミとオスカーはため息を吐いた。エレンはミイラがいなくなって少し元気が出てきたのか、「何なんだあのクソガキは」とブツブツ言っている。気持ちは分からないでもない。


 木の上にいたドラキュラも、いつの間にかいなくなっている。あれは何だったんだろう? ただ単に見物しに来ただけだったなのか?


 何にせよ、『あの子の名前』は分からないままだし、いったいノゾムたちは何のためにミイラと戦っていたんだか……。


「……待て。その墓石に、何か書いてないか?」


 オスカーの言葉にハッとする。子供の霊が吸い込まれていった墓石。そこには、薄くて読みづらいけど、確かに文字が刻まれていた。


 その文字を読んだノゾムたちは、ポカンと間抜けに口を開けた。


「なんで、この名前が?」


 そこに書かれていたのは、ノゾムたちのよく知っている人物の名前だった。




 ***




 ケルベロスに餌をあげて、正面の門から城の中に入る。城内には相変わらず、たくさんのプレイヤーたちの姿があった。


 ミーナとアルベルトがモンスターと戦っているのが見える。『黄の宝珠』はモンスターと戦いまくらないと手に入らないので、きっとミーナは目を輝かせ、アルベルトは辟易することだろう。


 その向こうには、フレデリカとリアーフ、リディアの姿もある。エレンに気付いたフレデリカが盛大に顔を歪め、そっぽを向いた。エレンはショックを受けたが、リアーフとリディアは笑顔で手を振っている。


 2階では、3つの駒が載ったチェス盤を片手に頭をひねっているバジルがいた。セドラーシュとローゼ、ネルケも一緒だ。どうやら無事に再会できたらしい。


 4階ではピンクマリモと似非爽やか男が、『青の宝珠』を腹に入れたロボットを追いかけ回していた。2人に気付かれたくないエレンは、ノゾムたちの後ろにコソコソと隠れた。


 5階にはシスカたちの姿もあった。階段を上がっていくノゾムたちを見て、赤い宝石のような目をまん丸に見開いている。


 このゲームの中で出会い、「魔王復活イベントに参加する」と言っていたプレイヤーたちは、みんな城の中にいた。なのに、『彼』だけがどこにもない。


 思い返せば、最初からいなかったような気もする。「イベントに参加する」と、彼もまた、確かに言っていたのに。


「果たしてお前に辿り着けるかな?」と意地悪そうに笑う彼を思い出して、ノゾムは思わず眉根を寄せた。


 最上階の部屋に入って、例の箱を手に取る。打ち込む文字は、あの墓石に刻まれていた名前だ。



 ――『ヴィルヘルム』



 カチリと鍵が開く音がする。マジかよ、とノゾムたちは顔を引き攣らせた。


 小さな箱の中には、紫に輝く綺麗な宝珠が入っている。


 ノゾムたちの頭上には当然、たくさんの疑問符が舞った。

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