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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
最終章 常闇の国ヴィオレ
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墓地にてⅡ

 ……思えばあの時もそうだった。


 ルージュにあるエカルラート山の洞窟で、盲目のドラゴンに遭遇してしまった時のことだ。


 あの時ノゾムはドラゴンに向かって矢を放ってしまい、そのドラゴンの『友達』だという少年を激怒させてしまった。


 仲良くなったモンスターの姿になれる『トランス』というスキルを使ってドラゴンに変身した少年は、大暴れ。普通に死ぬかと思ったし(ゲームの中なので死ぬことはないんだけど)、モンスターとはいえ少年の友達を傷付けてしまったことを申し訳なく思ったのだ。


 だからノゾムは、必死に少年を宥めようと頑張った。傷付けてしまったドラゴンを、みんなで協力して、癒した。


 そうしてノゾムたちは【テイマー】となり、


『ああ、そういうことか。これは全部、イベントだったんだ』


 ……一連の出来事が、すべて運営による『イベント』だったのだと知ったのだった。



(俺って、成長しないなぁ……)


 地面からわんさか湧いてくるミイラたちと、ケタケタ笑い転げる子供の霊の声に、ノゾムは思わず遠い目をする。


 可哀想な子供の霊、という、設定。


 そう、きっとそういう設定だったのだろう。あの日記だって、きっと運営の『仕込み』だ。真に受けてしまったノゾムが馬鹿だったのだ。


「申し訳、ございませんでした……」

「本当だよバカ! バカノゾム! あんな作り話を真に受けやがって! ゲームと現実を混同するな!」

「ラルドの後ろから出てきてから言いなさいよ、エレン」

「オレはホラーは無理なんだ!!」

「あんたこそ現実と混同してるんじゃないの」


 しっかりしなさいよ、とナナミは呆れた顔をする。真後ろでぎゃあぎゃあ喚かれているラルドは、大剣を大きく振って、口角を持ち上げた。


「まあいいじゃねぇか。こいつら全員ぶっ倒せばいいんだろ? ジャックたちに出来たことなんだ。オレたちにだって出来る!」

「ラルドのそういう前向きなところ、本当に尊敬するよ」


 そして、有り難い性質でもある。


 ノゾムは自分の両頬をパンパンと叩いた。なんとか気持ちを切り替えなければ。過ぎたことをクヨクヨ考えても仕方がない。


 オスカーは「ここなら遠慮なくぶっ放せるな」と杖を構える。魔法攻撃力がめちゃくちゃ高いオスカーの魔法は、周囲をとにかく巻き込んでしまうので、味方識別(マーキング)を付けていない他プレイヤーたちが周りにいる状況では使うのが難しいのである。


「ミイラの大群の中に、子供の姿はないか? それが『あの子』かもしれない」

「とっ捕まえて名前を聞き出そうってか? ミイラって喋れるのかな?」

「さあ。だが、いろいろやってみるしかないだろ」


 オスカーの言葉にノゾムとラルドは「確かに」と頷く。他に手がかりは何もないのだ。


 ミイラたちがひしめく墓地の中をぐるりと見渡す。「あぁ」とか「うぅ」とか言葉にならない呻き声を漏らすミイラたちの中に、子供らしき者の姿はない。笑い声だけは、変わらずずっと聞こえているけども。


 エレンが役に立たないので、襲いかかってくるミイラたちの前に立つのはラルドだ。『聖盾』を張るラルドを見て「それ、オレの役目!」とエレンが涙目で主張する。ナナミはそんなエレンをスルーした。


 オスカーは『拡散』を併用した『ファイヤーボール』をぶっ放す。大きな炎の球が、まるで流星群のようにミイラたちの頭上に降り注いだ。


 炎に包まれるミイラたち……しかしミイラたちは平然としていた。


 一度は死んだ身だからか、体を燃やされようが死ぬことはないらしい。手足を叩き斬られようとも同様だ。


 エレンはいっそう悲鳴を上げた。ノゾムも顔を歪める。これは確かに気持ち悪い。シスカがうんざりするわけである。


 そんな『死なない』ミイラをどうやって倒すのかというと。『神聖魔法』をかけるのが、どうやら一番手っ取り早いようだ。


 【僧侶】のファーストスキル『神聖魔法』は、HPを回復させる『キュア』と、状態異常を回復させる『リフレッシュ』が使えるようになるスキルである。


 ミイラに『キュア』をかけると、不死身の体はシュワシュワと音を立てて溶けていく。浄化されている、と見ていいのだろうか?


「アンデッドに回復魔法が効くってのは、定番だよな!」

「そうなの?」


 『聖盾』を張りながら自信満々に言うラルドに、ノゾムは首をかしげる。

 残念ながら、ノゾムはその定番を知らなかった。


「ねえ、あそこに子供がいるわよ!」


 ナナミがふいに叫んだ。ノゾムたちはナナミが指差した先を急いで見る。そこには、墓石に腰掛けてケタケタ笑っている子供がいた。


 見たところ5、6歳くらいだろうか。柔らかそうな金の髪に、灰色の目をした子供である。むちむちした丸みのある頬は半透明で、体の下に影はない。


「『あの子』かな!?」

「捕まえろ!」

「オバケが捕まえられるわけないだろォ!?」


 飛びかかるラルドを見て、子供は軽やかに墓石から飛び降りる。


 容赦なく襲いかかってくるミイラたちに対処しながら子供を追うのは、なかなか厳しい。


「アンデッドに蘇生魔法をかけると即死させられるっていうのも、定番なんだけどな」


 ネルケがいたら無双できたかもなぁ、とラルドは言う。そういえばネルケは、【僧侶】のサードスキル『特殊神聖魔法』を習得したんだっけ。


 『特殊神聖魔法』の中には、戦闘不能になった者を復活させる『リザレクション』という魔法が含まれている。


 そいつをかければ、ミイラたちを一掃できたかもしれないとラルドは言っているのだ。


「ないものねだりをしても、仕方ないでしょうよ!」


 ナナミはそう言ってアイテムボックスから大量のポーションを取り出した。HPを回復させるポーション。その中身はミイラにとって、回復魔法をかけられたのと同じ効果をもたらす。


「ポーションなら、たくさん持ってるわ!」

「おお、さすがだなナナミ! ちなみに蘇生薬は?」

「高価だから使いたくない」

「ぶれないな」


 ミイラの群れはなかなか減らない。ジャックたちが時間をかけてしまうわけだ。


 ケタケタ笑う子供の声に、ノゾムはちょっとだけイラッとした。

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