魔王城2階
隣の客室にあったのは、テーブルの上に固定されたトランプだ。どうやらポーカーをしていたらしい。
片方には8の『スリーカード』が、もう片方にはスペードの『ロイヤルストレートフラッシュ』が完成していた。
『ロイヤルストレートフラッシュ』と言っても、10、J、Q、K、Aから成るものではない。Kの代わりに、ジョーカーが使われている。
ポーカーでジョーカーを使用する場合、ジョーカーはどんなカードの代わりにもなる。なので、これでもれっきとした『ロイヤルストレートフラッシュ』なのだ。
「これはどういう意味があるんですかね……?」
「うーん……」
首をかしげて問いかけるノゾムに、オスカーは難しそうな顔をする。
いくら首をひねっても分からないので、次の部屋へ行くことにした。
さらに隣の部屋も客室だ。質のいい家具や、高そうな絵やツボなどが飾られている。壁に飾られた絵に描かれているのは、白銀の鎧を着た騎士だった。
額縁の下に、英語でタイトルが書かれてある。
「聖なる騎士……って書こうとしたんだろうけど、綴りが間違ってるな」
「これじゃあ『聖なる夜』じゃない」
ナイフといいナイトといい、単語の頭につく『k』を発音しないのは何でなんだろう?
首をかしげるノゾムたちの後ろで、オスカーは顎に手を当てて黙り込んでいる。
そのさらに隣にある部屋は、どうやらキッズルームのようだった。
パステルカラーの小さな滑り台や、積み木、パズル、絵本などが置いてある。
その中に、決して閉じることの出来ない本があった。どうやらクイズの本らしい。『?』の中に何かを入れて、式を成立させよという問題だ。
『?』+『J』=……。イコールの先に描かれてあるのは、時計の絵である。
意味が分からない。
「時計……時計か。短針と長針が頂点で重なってるってことは、これは『12時』を表しているのか?」
エレンが眉をひそめながら推論を口にする。ラルドはそれを聞いて首をかしげた。
「それじゃあこの式は『?』+『J』=『12』ってことか?」
「Jって何だろう? トランプの11かな?」
「ってことは……『?』に入るのは『1』、あるいはトランプの『A』かな?」
やっぱり意味が分からない。
ノゾムは頭がくらくらしてきた。
ノゾムたちが困惑した顔を見合わせていると、ふいにオスカーが本に手を伸ばす。オスカーの指が指し示すのは、時計の絵の上に描かれた、小さな三日月だ。
「この月は『夜』を示しているんじゃないか? つまりこれは『夜の12時』……もしくは『0時』、または『24時』」
「24だとすると、『?』は『13』……? んん?」
ラルドは何かに気付いたように目を瞬かせた。
「なんか、さっきからやたらと『K』って文字が出てこないか?」
『13』をトランプで表すと、『K』になる。
「出てくるというか、出てこないというか……。あえて隠されているって感じだな。となると、最初のチェス盤は……キャスリングか」
「キャスリング?」
「チェスにはそういうのがあるんだよ。ルークとキングの場所を入れ替えられるんだ」
「……ってことは、あの黒のルークがあった場所には、もともと『黒のキング』があったってことか?」
キング、つまり『K』である。
オスカーは頷いた。
「なにか『K』や『キング』に関わるものがないか、探してみよう」
それはキッズルームの中にあった。子供が描いたと思われる、不格好な絵である。
金の髪に、灰色の目。赤いマントに身を包み、頭には大きな冠をかぶった……うん、たぶん『王様』を描いたのだろう絵だ。
小さな子供が描いたのだろうそれは、線はよれよれだし、色ははみ出ているし、頭と体のバランスだってめちゃくちゃだ。
赤いマントと冠で、かろうじて『王様』だろうと判断できる。
その絵をそっと撫でてみると、中から黄色の宝珠が出てきた。これで3つ目の宝珠ゲットだ。
次は階段を探すことになる。1階から2階への階段は中庭にあったが、その近辺で黄色の宝珠を掲げても、うんともすんとも反応しない。階段が出現する場所は、フロアによって異なるのだろう。
回廊に出てくるトカゲのようなモンスターを倒しつつ階段を探す。
黄色の階段は、バルコニーに出現した。
「外に出ることもあるのか」
「次は緑の宝珠、『モノづくりの国ヴェール』よね?」
「順番に行くならな」
ナナミの目はいっそうキラキラ輝いた。大好きなダンジョン+大好きなモノづくりということで、ワクワクが止まらないようだ。目を離さないよう、本当に気を付けなければ。
「それじゃあ行くぞ」
「待って」
さっそく黄色の階段を上がろうとするオスカーをナナミは止める。
怪訝な顔を向けるオスカーに、ナナミは大真面目に言った。
「まだこのフロアの隅々まで見てないわ」
「……」
本当にナナミはダンジョンが好きなんだなぁと、ノゾムはぼんやりと思った。




