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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
最終章 常闇の国ヴィオレ
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魔王城=ダンジョン

 『魔王復活イベント』が開催されている間はゲージの中は常に『夜』なので、翌日も朝から夜だ。


 昨日は人ならざるモノの気配がするだけで人の姿はなかったが、一夜が明けて、魔王の城はすっかり様変わりしてしまっている。


 右を見ても人。左を見ても人。ノゾムたちが現実世界に戻って寝ている間に魔王城まで辿り着けたプレイヤーは、思いのほか多かったみたいだ。


 当然といえば当然か。リヴァイアサンを越えてくるのは大変だけど、メデューサは対策さえ分かっていれば怖くない。ケルベロスとゴーレムは、攻略するためのヒントが用意されている。


 初見で攻略するのは難しいけれど、プールプルへ死に戻っても『イベント』に参加している間は復活にお金もかからないし、諦めさえしなければ、何度だって挑戦できるのだ。


 イベントが開始されて12時間以上は経っているし、こうして城にプレイヤーたちが集まっていても、なんらおかしなことではない。


「オレたちが一番乗りだったのに……」


 ラルドはまだ不満たらたらなのか、口を尖らせてブーブー言っている。


 ナナミは「仕方ないでしょ」と呆れた目でラルドを見た。


「時差の関係で、私たちが寝ている間に昼間活動している人たちもいるんだから……。その人たちはこれからが寝る時間なんだから、遅れた分はこれから取り戻せばいいのよ。……まあジャックみたいに、徹夜でやる人もいるだろうけど」

「くっそー! やっぱりオレも徹夜するんだったー!」

「どうせオスカーさんが来るまで、先には進めないよ」


 少しだけ城の散策をするつもりではあるが、オスカーが戻って来る予定のこの玄関ホールから、そんなに離れるつもりはない。


 うっかり奥に入り込んで死に戻りしてしまったら、大変だからだ。


 ラルドは「オスカー、カムバーック!!」と天井に向かって叫んだ。周囲のプレイヤーたちが不思議そうな顔でこちらを見た。気にしないでください。


 エレンはといえば、左腕のリングを弄って状況の確認をしている。


「この城の中は『ダンジョン』扱いになっているようだな。城内で通信は使えないみたいだ」

「それじゃあ、はぐれないように気を付けないとね。ねえ、ナナミさん?」

「なんで私に言うのよ……」


 ナナミは眉間にしわを刻む。「そりゃナナミだからな」とケラケラ笑うのはラルドだ。


「オレたちが最初に会った時も、『悪魔の口』の謎エリアに1人で入り込んで、出られなくなっちまってたじゃねぇか」

「……うるさいわねぇ」


 ナナミは鬱陶しそうにラルドを見て、それから気を取り直したように、深緑色の目をキラキラさせた。


「ダンジョンってことは、レアなお宝があるかもしれないわね。他の連中に取られる前にゲットしましょ!」

「宝箱は開けられても、そのうち再出現するようになってるんじゃなかったっけ?」


 最初に開けた1人にしか手に入れられない、ということは避けられる仕様になっていたはずだ。


 首をかしげて問うノゾムに、ナナミは「気分の問題よ」と言った。そういうものなんだろうか。


 城の中は相変わらず薄暗いけど、プレイヤーが多くいることで、昨夜のような恐ろしさは感じない。


 モンスターはわんさか出るが、そのどれもがそこそこレベルは高いけど外にいた伝説級のモンスターよりは強くなくて、オスカーが不在でも問題なく倒していくことができた。


 大きな蜘蛛のモンスターを倒したときには『アリアドネの糸』を入手した。これを使用すると、一瞬でダンジョンの入口に戻ってこられる。『悪魔の口』ではお世話になったアイテムだ。


 中庭をぐるりと囲う回廊を渡り、たくさんある部屋をひとつずつ確認していく。食堂や調理室、図書室に使用人部屋、訓練場や会議室など、いろんな部屋があったけど、しばらくして違和感に気付いた。


「階段はどこ……?」


 中庭は吹き抜けになっていて、上の階からも庭が見えるようになっている。見上げる限りでは、6階まであるようだ。


 しかし、2階へ上がるための階段がどこにも見当たらない。


「『レビテーション』で上がるんじゃねぇか?」


 ラルドが言う。


「それだと魔法が使えない人は上がれないでしょ」


 ナナミは呆れた顔で言った。


 そう、誰でも攻略できるように作っているはずだろうから、きっと魔法が使えずとも上に向かう手段はあるはずだ。


 ラルドはニヤリと笑った。


「そりゃ他にも手段はあるかもしれねーけどさ。使える手は使っとこうぜ」

「いや待てラルド。ちょっと短絡的すぎるぞ」


 エレンが険しい顔をして口を挟む。が、ちょっと遅かった。ラルドが「レビテーション!」と叫ぶと、ラルドだけでなくノゾムたちまで、ふわりと宙に浮き上がる。


「このまま最上階に行ってやろうぜ! ……って、うわあっ!?」

「言わんこっちゃねえええええっ!!」


 ノゾムたちは2階に辿り着くことはなかった。2階へ行く前に、見えない透明な膜のようなもので弾かれてしまったからだ。


 あっけなく地面に転がったノゾムたちを、いつの間にか離れたところから見ていたシスカは、苦笑いを浮かべた。


「キミたち、ズルはダメだよ。この吹き抜けは、上から降りてくることは出来るけど、上がることは出来ないんだ」

「あ、シスカ。墓地はどうだったの?」


 ナナミが問いかける。シスカは遠い目をして「聞かないで……」と返した。


 シスカの周りに仲間たちはいない。彼女の仲間は現在、現実世界に戻って休んでいるのだそうだ。シスカもこのあと、寝に戻るらしい。


「ジャックたちはどうした?」

「知らない。まだミイラたちと遊んでいるんじゃない? 死者の声を聞くって何なんだよ、まったく……」


 シスカはそう言うとクシャリと銀色の髪を掻き上げた。どうやら【ネクロマンサー】の転職条件はまだ満たせていないらしい。


 『死者の声』が聞こえるのは、この城の墓地ではなかったのだろうか?


 シスカは疲れたようにこちらを見て、微かに笑みを浮かべた。


「ボクは少し長くこのダンジョンにいるんだけど、攻略のコツを教えようか?」

「え、いいんですか?」

「キミたちには助けてもらったからね」


 お返しだよと、シスカは言う。助かる。ノゾムはさっそく教えてもらおうと思ったが、その前にナナミが口を開いた。


「いらないわ」

「えっ」

「ダンジョンは自力で攻略したほうが楽しいもの!」


 ナナミの目はキラッキラと輝いている。こんなに楽しそうなナナミは、お宝を前にした時や、モノづくりをしている時以来かもしれない。


 シスカはそんなナナミを見て「ふふっ」と笑った。


「そう言うと思った。ナナちゃんって本当にダンジョンが好きだよね~。『悪魔の口』にも、1人で何回潜ってたっけ?」

「忘れたけど、【トレジャーハンター】の転職条件はすぐに満たしたわ」

「あー……。『ダンジョンに20回以上潜る』だっけ?」


 すごいねぇと、シスカは感心したように言った。確かにすごい。


「夢中になりすぎて戻って来ない……っていうのは、今回は大丈夫かな」


 シスカの目がノゾムたちに向く。

 きょとんと目を瞬くノゾムたちを見て、シスカは優しく微笑んだ。


「気を付けてね」


 片手をひらりと振って、シスカは踵を返す。そしてそのまま、ログアウトした。


 いったい何だったんだろう……と、首をひねりつつ探索を再開して、しばらく経った頃。


「ナナミはどこ行った!?」


 さっそくはぐれた。

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