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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
最終章 常闇の国ヴィオレ
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イベント1日目の終わり

 むしゃむしゃゴックンとお肉を飲み込んだケルベロスは、もっとくれと言わんばかりに目を輝かせて人間たちを見る。


 3つの大きな口からダラダラと垂れるヨダレを見て、ノゾムたちは口元を引き攣らせた。


 そんな中、なぜか不敵な笑みを浮かべたミーナが言った。


「ふっふっふっ、ようやくお目覚めですね、ワンちゃん」

「えっ」


 アルベルトが「何を言い出すの」と言わんばかりの顔でミーナを見た。気持ちは分かる。だって、ギラギラと目を輝かせるミーナからマトモな発言が飛び出すとは、とてもじゃないが思えない。


 案の定、ミーナはとんでもないことを言い出した。


「これからが本番ですよ、ケルベロス!!」

「ちょっと待って!!?」


 アルベルトは慌ててミーナの前に回り込んだ。慌てすぎて、ちょっと転びそうになっている。


「なんで戦う気なんだよ、ミーナ!? こいつを倒さなくても通れるのに!?」

「そんなの決まっているじゃないですか!」


 ミーナは腰に手を当てて、胸を張った。


「私が戦うと決めたからです!」

「この戦闘狂!!」


 アルベルトは頭を抱えて、その場に膝から崩れ落ちた。


 ノゾムたちは互いに顔を見合わせて、アルベルトとミーナを見て、再び顔を見合わせて、こくりと頷きあう。


「それじゃあ、俺達は先に進ませてもらうから」

「頑張れよ、アル!」

「ファイト、ミーナ!」


 あっさりと2人を放置することに決めたノゾムたちは、再び足を動かして城の中へと入った。


 ミーナは「はい、そちらこそご武運を!」と元気に親指を立ててノゾムたちを見送る。頭を抱えてうずくまるアルベルトは、もはや叫ぶ元気もなくなってしまったようだった。


 そしてケルベロスは、自分にエサをくれた人間たちを通すことに、まったく躊躇がない。……本当に、門番としてどうかと思う。


 とにかく、そんなわけでノゾムたちは無事に魔王の城に入った。



 大きな扉を抜けた先には、天井の高い玄関ホールがある。壁に設置された燭台が暗闇を照らしていて、炎によって揺れる影が、いっそうの不気味さを引き立てていた。


 豪華絢爛なお城というよりも、雰囲気はお化け屋敷に近い気がする。


 周囲に人間の気配はなく、代わりに何かを引きずるような……ずり、ずり、という音が遠くから聞こえていた。いったい何がいるのかと、背筋がぞくりとする。


 こんな不気味な城さえもワクワクした顔で見ているラルドは、仲間たちを振り返ると笑顔で言った。


「オレたちが一番乗りだよな!?」

「ああ、たぶんな」


 オスカーは頷いた。


「とはいえ、もうすぐ俺たちのプレイ時間は終わってしまうわけだが」

「えっ」


 ラルドは慌てて左腕のリングを確認する。プレイ時間は、残り5分も残っていなかった。


 プレイ時間が終わってしまったら、1時間の休憩を挟まなければならない。しかも現実世界の時間が時間なので(たぶん今は、夜の十時ごろだ)今日のプレイはここまでとなる。


「せっかくのイベントなんだし、今日くらいは徹夜しようぜ!?」

「俺は明日も塾があると言っただろ」


 ラルドの訴えをオスカーはあっさり一蹴した。塾があるオスカーは、明日は昼からの参戦となる。


 そして、あらかじめ「イベント期間中はログインしない」と明言していたリオンは、明日は来ない。


 ということは、せっかく一番乗りで城内に入ったノゾムたちも、明日の昼までは先に進めないということになる。


 オスカーを置いて行くわけにはいかないからだ。


「そんなぁ……」


 ラルドはがっくりと肩を落とした。この調子で魔王のもとまで突撃してやろうと思っていたのだろうが、こればかりは仕方ない。


 プレイ時間は、他のプレイヤーたちだって設定しているのだ。


「オスカーが来るまで、城の散策でもしてたらいいじゃねぇか」


 頭の後ろで両手を組みながらエレンが言う。ナナミがそれを聞いて「そうね」と頷いた。


「城の中にどんな罠があるのかとか、どんな謎解きがあるのかとか。オスカーが来るまでに、出来るだけ調べておいたらいいと思うわ」

「そうしてもらえると助かる」


 オスカーは口角を持ち上げる。そんなオスカーを見て、ノゾムは「そういえば」と首をひねった。


「さっきの『人形の死は真理の中に』って言葉は、結局何だったんですか?」


 ゴーレムがいた裏門に書かれた言葉は、ケルベロスの攻略法だった。となると、ケルベロスの首輪に書かれた言葉はゴーレムの攻略法ということになる。


 だが、『死は真理の中に』とはどういう意味なのか、ノゾムにはさっぱり分からない。


「ああ、あれはゴーレムの殺し方だ」

「殺し方……?」


 ノゾムは訝しげに眉を寄せた。

 オスカーは指を動かして、空中に『emeth』という綴りを書く。


「ゴーレムはユダヤの伝承に出てくる人形なんだが、額に『真理』を意味する『emeth』という言葉が刻んであるんだ。この頭文字の『e』を削ると、『死』を意味する『meth』という言葉になる。ゴーレムを止めるための手段だ」

「……あ。『頭を削れ』って、そういう意味だったんですか」

「後ろに薄っすら書いてあった『E』もヒントだったな」


 ゴーレムの伝承を知っている人間なら、それを見るだけでピンとくる。知らない人間にはちょっと難易度が高いかもしれないなと、オスカーは肩をすくめた。


 うん、ステーキ一切れで攻略できてしまったケルベロスとは、難しさが段違いである。

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