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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
最終章 常闇の国ヴィオレ
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狼男に噛まれるな

 襲いかかる狼男たちに対して、セドラーシュは冷静に『聖盾』を張る。狼男たちが盾に弾かれた瞬間を狙って、バジルは大きな戦斧を振るった。


 距離を取る狼男たちへ、オスカーの『アイシクル』が直撃する。氷漬けになった狼男たちを見て、バジルたちは目を見開いた。


 ノゾムは弓を構えながら声をかける。


「加勢します!」

「ありがてぇ!」


 パキパキと音を立てて、狼男たちは氷の拘束から抜け出した。力が強い。剥き出しの牙が恐ろしかった。


 狼男たちは変な立ち方をしているせいか、走ることは出来ないが、跳躍力はある。そしてとても頑丈だ。特に魔法防御力が高いようで、オスカーの魔法を受けてもピンピンしている。


 しかしメデューサのように視線だけで石化させるような能力を持っていないだけ、まだマシか。


 強いのは確かなんだけど、みんなで協力しながら戦えば勝てないことはない――そう思っていたのだが。


 異変が起きたのは、ラルドが腕を噛まれた時だった。


「ラルド! 大丈夫!?」

「こんなの屁でもねぇよ! …………」

「……? ラルド?」

「ここにも敵がいやがったか!!」

「うわあっ!?」


 ラルドが急にノゾムに向かって大剣を振り始めた。ノゾムはビックリして、慌てて身をかがめて攻撃を避ける。ラルドは「避けるんじゃねぇ!」と叫んで、さらに追撃してきた。


「げっ、『混乱』かよ!」


 エレンが顔をしかめて言う。ノゾムはラルドの攻撃から必死に逃げながら、エレンを見た。


「『混乱』って!?」

「ラルドには今、オレらがモンスターに見えてるんだよ!」

「えええっ!?」


 このゲームの状態異常は、主に6つ。毒、麻痺、沈黙、混乱、睡眠、石化だ。


 どうやら狼男に噛まれると『混乱』状態になるらしい。伝承のように狼男になるわけじゃないけど、奴らの仲間になる、という意味では似たようなものだろうか。


「『リフレッシュ』をかけたら治るかな!?」

「ああ。それか、一発ぶん殴ってやればいいぜ」


 『混乱』の治療は簡単なようだ。


 ちなみに他プレイヤーを攻撃することは原則として禁止されているが、『混乱』や『睡眠』を治す際に攻撃するのはオーケーなのだという。治療行為とみなされるためらしい。


 ノゾムはさっそく拳を握り締め、大剣を振り回すラルドを見据えた。武器を振り回すラルドのそばに寄ってリフレッシュをかけるのは、難しいと思ったからだ。一発殴るほうが簡単そうだ。


 ……悪く思わないでくれ!!


「あ、ちなみに『混乱』時には味方識別(マーキング)が外れてるから、攻撃すると普通にダメージが入るぞ。殴るなら、ほどほどの力でな!」

「言うのが遅いよ!!」


 力いっぱいにラルドを殴った後である。

 ラルドは「ぐはぁっ!?」と言いながら、後方に激しく吹っ飛んでいった。


「ノゾムって意外と力があるのね」とナナミが呆けた顔で呟く。レベルが高いので、物理攻撃力がその分高いだけである。


 ノゾムはこの力で、父親をぶん殴ってやろうと思っているのである。


「あ~っ、効いた〜!!」

「ご、ごめんラルド。手加減できなかった」


 殴られた箇所を押さえて悶絶するラルドにノゾムは素直に謝った。ラルドは痛覚をオフにしているはずなので痛みはないだろうが、衝撃は結構なものがあったはずだ。


 ラルドは頬を押さえながら苦笑いを浮かべた。


「平気だよ。てか『混乱』ヤバいな。味方が敵に見えるだけじゃなく、敵も味方に見えたり、敵のままで見えたり……もう訳が分かんなかったぜ」


 『混乱』状態の時は周囲の音も聞こえづらくなるらしい。それはかかった本人も大混乱だろう。すぐに解除できて良かった……次からはちゃんと『リフレッシュ』で治そうと思う。


 そう思っていたのに、セドラーシュから不意に声をかけられた。


「ノゾムくん、コイツもぶん殴ってくれない?」


 コイツ、とセドラーシュが指差すのは、戦斧を振り回すバジルである。セドラーシュはバジルの攻撃を『聖盾』で防いでいる。


 ……いつの間に噛まれたんだ!?


 しかもバジルが戦斧を振り回すスピードは、ラルドが大剣を振るスピードよりも速い。近寄るタイミングがまったく掴めない。


「ど、どうやって近付けば……」

「近付くのが無理なら、弓で射抜いていいよ」

「いや、さすがにそれは!?」


 弓での攻撃は、素手での攻撃より当然ダメージが高くなる。いくら治すための攻撃とはいえ、さすがに申し訳なさすぎて無理だ。


 しかもバジルには以前、二度ほどうっかり矢を当てそうになったことがある。


 どうしようかと考えた結果、ノゾムは『隠密』を使って、そろりと背後からバジルに近付いた。戦斧に当たらないよう気をつけながら、バジルの肩に手を置いて『リフレッシュ』をかける。


 正気に戻ったバジルは、セドラーシュに槍の柄で叩かれた。


「何しやがんだテメェ!!」

「狼男の口に注意しながら戦おう。高レベルのプレイヤーが『混乱』すると厄介だ」

「今叩いた意味は!?」


 抗議するバジルをセドラーシュはガン無視した。幼馴染だという話だったが、相変わらず仲が良いのか悪いのかよく分からない2人だ。


 狼男たちに噛まれないよう気をつけながら、1体ずつ確実に倒していく。


 すべての狼男を倒し終えて、ノゾムたちはホっと安堵の息を吐いた。


「またすぐ再出現(リポップ)するかもしれない。今のうちに先へ進もう」


 エレンにそう言われ、一同はすぐさまその場を後にした。




 ***




「あの上空にいるドラゴン、バハムートなのか!?」


 バジルとセドラーシュから話を聞いたラルドは、空を見上げて素っ頓狂な声を上げた。


 セドラーシュは「たぶんね」と頷く。『竜の谷』にいたドラゴンたちと明らかにレベルが違うので、バハムートではないかと思ったのだという。


 ラルドはキラキラと目を輝かせた。今にも『レビテーション』で飛び上がって、バハムートに挑みにいきそうな雰囲気だ。やめなよ。


「どうにか戦っていたんだけど、乗っていたグリフォンがやられちゃってね……タマゴから育て直しか〜。デスペナが重たいな〜」


 デスペナルティ、死んだ時に受ける罰のことだが、テイマーがテイムモンスターを死なせてしまった場合、そのモンスターはタマゴから育て直すはめになる。


 レベルも当然1からだ。セドラーシュたちのグリフォンが元々どのくらいのレベルだったのかは分からないが、同じレベルまで上げるのには相当な時間がかかるだろう。


 ちなみにこのデスペナを設定したのは、モンスターに偏愛を注ぐルージュの王、アガトである。


 あの男はモンスターへの優しさを、もう少し人間にも向けるべきだと思う。


「ネルケたちとはぐれちゃったんでしょう? 大丈夫なの?」

「うーん。リングの通信は使えるから、大丈夫だとは思うんだけど……。2人とも、今は森にいるみたい」

「森って、黒の森? あそこ、メデューサがいるんだけど……」

「……」


 バジルとセドラーシュは互いの顔を無言で見合わせた。どちらともなく、森に向かって走り出す。その背中に向かってノゾムは声をかけた。


「メデューサと戦う時は目に気をつけて! 視線を向けられたら石化します! 視線を遮ってしまえば大丈夫です!」

「ありがとう!」


 セドラーシュは手を振って礼を言った。


「なあ、上から城の裏門は見えなかったか?」


 オスカーが尋ねる。セドラーシュはそれに「見えたぞ!」と答えた。


「何か、でっかい岩で塞がれていたけどな!」

「ありがとう!」


 情報交換は大事である。


 とにかくこれで、魔王の城にも裏門があることが分かった。

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