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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
最終章 常闇の国ヴィオレ
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魔王の城の門番

 地獄の番犬ケルベロス。ギリシア神話に登場する、冥府の門の番人だ。頭が3つあって、尻尾はヘビの尾のようにヒョロリと長い。


 魔王の門の前にいる三頭犬は、ぷひゅーと間抜けな鼻息を漏らして、寝ていた。


 とてつもなく巨大な犬だ。寝ているので全長は分からないが、頭だけでもノゾムの身長くらいはある。毛色は闇にとけそうなくらいに真っ黒で、耳はピンと三角形に尖っている。……いや、左側のやつだけ、垂れ耳だ。


 3つの頭を折り重ねるように眠るその姿は、正直言って、とても……。


「かわいい……」


 ノゾムはポツリと呟いた。いや、もちろん、ロウのほうが絶対的に可愛いんだけれども。


 無防備に寝転がるケルベロスは、ロウの次くらいに可愛いと思えた。


 見ればラルドとナナミも「うんうん」と頷いている。エレンが呆れた顔をして「油断してんじゃねーぞ」と言った。


 オスカーは用心深くケルベロスを見て、それから首をひねってシスカたちを見た。


「ぐっすり眠っているみたいだが、あなたたちはどうして立ち往生していたんだ?」

「……そうよね。こっそり通り抜けちゃえばいいのに」


 何かあったの? と問いかけるナナミ。シスカたちは、困った顔をしたまま互いの顔を見合わせた。


 シスカは肩をすくめて言う。


「それが難しいんだよねぇ」

「近付いたとたんに起きてくるとか?」

「いいや。あの子はずぅっと寝てるんだけど……」


 なんだか歯切れが悪い。訝しげな顔を浮かべるノゾムたちに、シスカはあっけらかんと言った。


「ナナちゃんたちも試してみなよ」

「え、怖いんだけど……」

「だったら私が行きます!」


 怖気づくナナミの代わりに手を上げたのは、猪突猛進娘のミーナだ。アルベルトは口元を引き攣らせた。


 ミーナは武器を構えて、「だあああああっ!!」と叫びながらケルベロスに向かって行く。なんで声を上げるんだ。その声でケルベロスが起きたらどうするんだと、ノゾムは心配になったけど、よっぽど深く眠っているのか、ケルベロスが起きる様子はない。


 それどころか、



 ――ぷひゅー。



「きゃああああああっ!!?」


 ケルベロスの鼻息で、ミーナの体は吹き飛んだ。ずべしゃあ、と地面に転がるミーナを、ノゾムたちは唖然と見つめた。


 なんという風圧。たかが鼻息なのに。巨大な上に、三つの頭から同時に放たれるからだろうか。


「ま、まだまだ……!」


 ミーナはよろりとしながら立ち上がる。しかしそこへ、さらなる攻撃が迫った。


 息を吐いたら、今度は当然、吸うもので。


 ケルベロスが鼻から息を吸い込むのに合わせて、ミーナの体は今度は浮き上がった。三頭犬の真ん中の頭に向かって吸い寄せられていく。


 ミーナは焦った顔をしたけど、ふいに何かを思いついたように目を丸めて、剣先をケルベロスのほうに向けた。


「この吸い込む力を、逆に利用してやります!」


 それはいい作戦のように思えたが、そう簡単にはいかなかった。ミーナの剣先がケルベロスの鼻に突き刺さるよりも前に、今度はケルベロスが“息を吐いた”からだ。


 ミーナはまたしても吹き飛ばされて、地面にずべしゃあ、と転がった。


「ミーナ!!」


 アルベルトが急いでミーナを回収する。門の陰に隠れて、ケルベロスの寝息から逃れた。


 あんぐりと口を開けるノゾムたちに向かって、シスカは「ね?」と言った。


「難しかったでしょう?」

「……これ、どうやって通り抜けるのよ?」

「いっそ起こしたほうがいいのかなぁって思ったんだけどね。困ったことに、どうやっても起きないんだよねぇ」


 シスカは遠い目をした。

 オスカーは口元を引き攣らせて問いかける。


「他に出入り口はないのか?」

「どうだろう? ジャックたちが向かったっていう墓地に抜け道があったりするのかもね?」


 結局墓地に行くことになるのか。


 ノゾムはげんなりした。

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