表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
最終章 常闇の国ヴィオレ
260/291

黒の森の戦いⅢ

 第3ラウンド。ユズルが放った矢に『増殖』を使い、文字通り雨のごとき攻撃をメデューサに食らわせる。


 かなりのダメージを与えたのは確かだが、倒すまでには至らない。そしてユズルはメデューサに睨みつけられて、石化した。


 『増殖』で増えた弓矢の攻撃範囲はかなり広く、ジャックたちが即座に追撃することは不可能だ。ノゾムの矢は届いたけど、一発当たったところでやっぱり睨まれて、石化する。


 それならばと第4ラウンド。今度はノゾムが先に死角から矢を放ち、ユズルが『増殖』を使ってその矢を増やした。間髪入れずにユズルは自分も矢を放ち、これもまた『増殖』で増やす。時間差での二段攻撃だ。さらにオスカーが『ロックブレイク』を『拡散』して追撃する。


 メデューサのHPを、かなり削れたのは確かだ。しかしそれでもまだ、倒すには至らない。


「HP多すぎだろ!」

「リヴァイアサンには5回放ってたからなぁ」


 伝説級のモンスターをそう簡単に倒されてたまるかという、運営側の意図をひしひしと感じる。


 リヴァイアサンもメデューサも、強すぎだ。


「ジャックさんも、弓を使えてませんでしたっけ?」


 ハンスの『リフレッシュ』で石化から復活したノゾムは、バトルアリーナを思い出しながらジャックに問いかけた。ジャックは声を上げて笑った。


「俺は近距離からじゃないと、ほとんど当たらねぇよ!」

「どこに飛んでいくか分からねぇ弓ほど、害悪なもんはねぇよ」


 コイツに使わせるのはやめとけ、とジェイドは顔をしかめて言った。……そういやバトルアリーナでは、超至近距離から射撃してたんだっけ。


 ジャックの弓の腕は、それほど高くないらしい。「練習をサボるからだ」というのはユズルの言である。


 シスカの仲間のひとりが、困ったように眉を下げて言った。


「もうメデューサを倒すのは諦めましょう? 幸い、木の陰に隠れて視線を向けられないようにすれば、石化は免れるのだし……。石にされないように気をつけながら、森を抜けましょうよ」


 おそらく、それが最適解だろう。リヴァイアサンもメデューサも、運営は『避けるべきモンスター』として配置したのかもしれない。


 仲間の言葉にシスカは難しそうな顔をして俯いた。ジェイドがそんなシスカを見てニヤリと笑う。


「それがいい。シスカには手に負えねぇだろうしな」

「なんだとぉ!?」

「シスカ、挑発に乗るなよ! もう行こうぜ」


 ジェイドに詰め寄ろうとするシスカを後ろから羽交い締めにして、彼らは去っていく。


 その後ろ姿を見送って、ノゾムは自分の仲間たちを振り返った。


「俺たちはどうする?」

「オレはこのまま挑みたい。だって、あとちょっとで倒せそうじゃん!」


 オレンジ色の目をキラキラ輝かせてラルドはそう言った。オスカーがそれを聞いて「確かにな」と頷く。


 あと一歩、何かがあれば、倒せそうな気がする、と。


「……これは誰が一番に【勇者】になれるかっていう競争じゃなかったの?」


 ナナミがにんまりと笑みを浮かべながら問うた。ラルドは「ぐぬっ」と呻く。それは、先ほどラルドが言っていた言葉である。


「それはそうだけどぉ……」

「オレはどっちでもいいぞ。お前らが戦うってんなら、盾になるだけだ」


 エレンはキッパリと言った。普段は厄介で面倒くさい奴なのに、こと戦闘に関わる時には、エレンはカッコイイ。


 口だけでなく本気で身を挺して盾になってくれるのだから、本当にカッコイイ。普段は面倒くさいけど。


「まあ、このまま立ち往生ってわけにもいかないしな。森を進みつつ、隙あらばメデューサに挑んでいこうぜ」


 ジャックがそう提案する。それが一番いいかもしれないと、ノゾムたちは頷いた。




 島の中央を目指して、黒の森を進んでいく。奥へ行けば行くほどに、例の紫のヘビとの遭遇率は増すようになっていった。


 ヘビに遭遇すると、攻撃するしないにかかわらず、必ずメデューサは現れる。


 そのたびにノゾムたちはメデューサに挑んでみるのだが、すべて返り討ちにされてしまった。

 

 『リフレッシュ』を使いまくっているハンスと、『増殖』を使いまくっているユズルは、MP回復用のチョコレートをもぐもぐと頬張った。


「チョコレート、もう残り少ないんだけど……」

「『増殖』で増やせないか?」

「増やせるぞ!」


 ジャックの問いかけに頷いたユズルは、すぐにチョコレートに『増殖』を使った。チョコレートは一気に50個くらい増えた。


 それを見たジェイドは、目を瞬かせた。


「矢に使った時よりも量が少なくねぇか?」

「ああ、それは――」

「あれ? ねえ、あれってミーナじゃない?」


 ふいにナナミが声を上げた。その視線の先には、森の中にポツンと立つ、一体の石像があった。


 特徴的な2つのお団子。その姿は、確かにミーナである。


「いつぞやの『雨垂れ娘』じゃねぇか」


 ジェイドが目を丸めて言った。ハンスがそれを聞いて「なにそれ?」と首をかしげた。


 ミーナの周りには誰もいない。まさか、こんなところまで1人で突っ走って来たのだろうか……ミーナならやりかねない。


 とにかく石化を解かないと、とノゾムはミーナに近付いた。『リフレッシュ』をかけるために、その体に触れようとする。


 しかしその直前、見えない何か(・・・・・・)に腕を掴まれた。


「えっ?」


 さらには足を掬われ、倒される。相手の姿はまだ見えない。シャッと何か、金属の擦れる音が鳴ったと思ったら、その男は唐突に目の前に現れた。


 長い黒髪に、赤い瞳。手にはナイフを持ち、切っ先はまっすぐにノゾムの首に向けられている。


「その娘にさわるな」


 険しい顔をして吐き捨てるのは、ノゾムがこのゲームで最も関わりたくないと思っているプレイヤー……アルベルトだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ