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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第1章 はじまりの国ルージュ
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罠を張る場所は考えよう

 夜の山ほど不気味なものはないと思う。


 静寂に響く虫の声。パチパチと弾ける松明の炎。そして炎に揺らめく、自身の影。

 夜には眠るモンスターもいるようだが、逆に活発に動き出すモンスターもいる。現れた山犬のモンスターを前に武器を構えようとして――ノゾムとラルドは、ハッと気付いた。


「松明持ったままじゃ、戦えなくね?」

「……だよね」


 弓を使うノゾムはもちろん、ラルドもまた、両手で剣を持って戦っている。大きな剣なので、両手で持たないとバランスが崩れてしまうらしい。


 さてどうする、と顔を見合わせること数秒。ラルドは松明をノゾムに預けて山犬に斬りかかった。


「ちょ、ラルド!」


 ラルドに斬りつけられた山犬は短い悲鳴を上げる。けれど消えない。ラルドの攻撃を受けて瞬殺されなかったモンスターなんて、水晶蜘蛛以来だ。


 ノゾムは松明を地面に下ろして弓を構えた。K.K.という女性に貰ったコンポジットボウだ。レベルを上げたおかげで、ようやく使えるようになった。


 矢を弦に引っ掛けて、チャンスを待つ。山犬がラルドに飛びかかった瞬間を狙って矢を射った。矢は山犬の耳をかすめる。


「おらあ!」


 ラルドが大剣を叩きつける。山犬は青白い光となって消えた。訪れる静寂。ラルドはふぅ、と息を吐く。


「やっぱり強いな、ここのモンスターは。群れで来られたら厄介かも」


 夜だから、というのもあるかもしれない。ノゾムが昼間、このあたりに来たときはそこまで苦戦することはなかった。……一緒にいたジャックたちが強すぎただけかもしれないが。


「夜が明けてから出直そうか?」

「いや、敵が強いってことはレベル上げのチャンスでもある。苦戦するのはレベルが足りない証拠だしな。しばらくこの辺でモンスター狩りしようぜ」


 ラルドはそう言って大剣を振った。またレベル上げか……とノゾムはげんなりしたが、そういえばまだ『罠作成』というスキルを試していないことを思い出した。


 左腕のリングを操作して、メニュー画面を出す。メニューからスキルを選び、一覧を出した。


 スキルには、『ブースト』や『精神統一』のようにプレイヤーが声に出すことで発動するものと、『視力補正』のように常時発動するもの、『盗みの心得』や『調理速度上昇』のように、特定の行動をすることで自動的に発動するものがある。


 『罠作成』は、声に出して発動させるもののようだ。


「えっと……『罠作成』!」


 ちょっぴり恥ずかしいが思い切って叫ぶと、目の前にメニュー画面のような半透明な板が現れた。


 板には穴や槍、ワイヤー、爆弾などの絵が描いてある。ヘルプを見てみると、どうやらこの中から好きなものを選んで罠を作ることが出来るらしい。


 ノゾムはとりあえず穴の絵を選んでみた。指先に矢印が現れる。この矢印で地面に円を描くと、描いたところにぽっかりと穴が出現した。


「これが罠か?」

「うん。あとは設定で、穴を隠したり、穴の中に槍を仕込んだり、いろいろできるんだって。味方識別(マーキング)をつけた仲間にだけ隠した罠が見えるようにも出来るみたいだよ」

「へぇ〜」


 メニュー画面から設定できる味方識別(マーキング)には、大きな魔法を使ったときに味方が巻き込まれない効果もある。これをつけておけば、うっかり魔法が当たってもダメージがないのである。


 味方識別(マーキング)をつけておけるのは、最大で4人まで。ノゾムはとりあえずラルドに味方識別(マーキング)をつけた。


 作った穴を隠してみる。地面に完全に同化したそれは、作成者のノゾムと、味方識別(マーキング)をつけているラルドには、赤く光って見えた。


「へぇ、面白いな。この辺一帯に作ろうぜ!」


 ラルドの提案に頷いて、ノゾムはどんどん罠を作っていく。空から来るモンスター用にワイヤーを張り巡らせ、穴の中には槍や爆弾も設置してみた。


 そうしてモンスターが罠にかかるのを待ってみるが……モンスターはやって来ない。モンスターは、プレイヤーの存在に気付けば襲ってくるが、気付かなければただ徘徊するだけなのだ。


 ラルドは一向にやってこないモンスターにしびれを切らした。


「ちょっとおびき寄せてくる!」

「え!?」


 ぴょんと落とし穴を作った場所を飛び越えてラルドは走っていった。松明を置いて。辺りは真っ暗なのに、大丈夫だろうか。


 静寂が場を支配する。置いてけぼりにされたノゾムはゴクリと唾を飲み込んだ。ドクドクと脈打つ心臓の音が聞こえてくる。

 意味もなく立ったり座ったり、うろうろしたり。落ち着きなくラルドの帰りを待つノゾムの耳に、突然ドカーンという激しい音が聞こえてきた。



「何なのよ、これ――――!?」



 続けて聞こえてきた甲高い声。なんか聞き覚えがある気がする。慌てて後ろを振り返ると、落とし穴に嵌まる少女の姿が目に映った。暗がりでも分かる金色の髪、人形のような顔――。


「な、ナナミさん!?」

「きゃあああああああっ!!?」


 ナナミは今度は槍を仕込んだ穴に落ちた。まずい。非常にまずい。ノゾムは冷や汗を垂らして叫んだ。


「な、ナナミさん! とりあえずそこを動かないで――……」

「連れて来たぞノゾム――――!!」

「ぎゃあああああああああっ!!?」


 激しい地鳴りと共にラルドが引き連れてきたのは、山犬とクマ、それにコウモリの群れ。それらに背を向けて走るラルドの顔は必死のそれだ。当然だろう。追いつかれれば、ラルドは間違いなくやられる。


 だが、今は待って欲しい。

 今だけは待って欲しい。


「何なのよ、もう!!」


 コウモリの群れはワイヤーに引っかかり、山犬やクマたちは穴に落ち、落ちたそれらに後ろから続いていた奴らが躓いて、爆発音が何重にもこだまし……一言で言うなら、カオスな光景がそこに広がった。


 ノゾムとラルドはダメージを負ったモンスターたちに片っ端からトドメを刺す。運良く罠をかいくぐってきたモンスターたちとは、死ぬ気で戦う。


 ナナミはそんなノゾムたちの存在に気付いた。


「またあんたたちなの……いやあ! なんでここ穴だらけなのよ――!?」

「ごめんなさいぃぃぃぃ!!!」


 またまた穴に落ちたナナミに、ノゾムは全力で謝った。

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