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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
最終章 常闇の国ヴィオレ
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黒の森の戦いⅡ

 にょろりと黒い茂みから出てきたヘビは、一同を見渡してちょろちょろと長い舌を出す。にんまりと目を細めるヘビを見て、トラウマを思い出したらしいプレイヤーたちが一目散に逃げ出した。


 ジャックたちは残っている。シスカたちもだ。シスカの仲間たちは逃げたそうにしていたけど、シスカは元仲間の前で逃げたくないのか、眉間に深いしわを刻んでヘビと対峙していた。


「ノゾムは『隠密』を使っていろ」


 木の陰に身を隠しながら、オスカーが指示を出す。ノゾムは頷き、『隠密』を発動させた。これで周りからは、姿が消えたように見えるはずだ。


 同じく『隠密』が使えるラルドはといえば、大剣を構えて前に出ている。正面から戦うつもりなんだろうか……また石化させられるだけなんじゃ、とノゾムは思ったけど、ラルドだって一応は考えているらしい。


 ラルドは『聖盾』を張った。物理攻撃も魔法攻撃も防ぐこの『盾』ならば、もしかするとメデューサの視線も防ぐかもしれないと考えたのだろう。


 エレンも『聖盾』を張る。ナナミは大人しくオスカーに倣って木の陰に隠れた。


 ジャックたちは、にょろにょろと動く紫色のヘビを、離れたところから見ているだけだ。


「……どうしたんだい? ワタシの可愛いヘビよ。ナニか、面白いモノでも見つけたかい?」


 しばらくして、ヘビの後ろから非常に聞き覚えのある声が聞こえてきた。ねっとりとした女の人の声。ずるりと、大きな体を引きずる音がする。


 ややあって姿を現したのは、紫色のヘビを頭にたくさん生やした巨大な女の怪物だ。


「こいつがメデューサか!」


 ジャックたちはすぐさま攻撃に移る。迷う素振りは一切ない。腰に佩いた刀に手を添え『居合い切り』を放とうとしたジャックがまず石化させられた。


 後ろに周り込み、飛び蹴りを放とうとするジェイドが次に石化される。蹴りはメデューサに届くことなく、石になったジェイドは地面に転がった。


 ユズルが死角から放った矢はメデューサの頭に直撃した。正確に言うなら、メデューサの頭に生えているヘビの1匹を射抜いた。


「ワタシのヘビに……よくも!」


 メデューサは険しい顔をしてユズルを睨む。ユズルもまた、あっけなく石化した。


 これでジャックたちのパーティーは、ハンスを除いて全滅したことになる。


「何か策があったわけじゃないんだ!?」


 シスカはやられた3人を見て目をひん剥いた。あまりに堂々とメデューサの前に立つから、何かしら考えがあるだと思っていたらしい。


「シスカ、逃げよう!」

「そうよ……ああっ!」


 撤退を申し出たシスカの仲間たちも、次々に石化されていく。シスカの顔には焦りが滲んだ。


「大丈夫だ、オレの後ろにいな!」


 『聖盾』を張ったエレンがシスカの前に出る。なんと頼もしい。が、メデューサの視線は『聖盾』を通過した。エレンはまたしても石化してしまった。


「『聖盾』も無効化すんのかよ……。それじゃあ魔法で視界を遮るぜ! 『精神統一』かーらーの……」


 魔法で放とうとしたラルドも石化した。視線を向けるだけで済むのだから、魔法を放つよりも速いのだ。


 やはりこのメデューサ、反則級に強い。


 シスカも石化した。はてさて、次はどうするべきか。ノゾムは考える。


「ナナミさん、石化解除薬は持ってる?」

「うわ、びっくりした。透明なままで急に話しかけてこないでよ」

「ごめん」


 メデューサに気付かれないように、小声でやり取りする。


 オスカーが1つしか持っていなかったと言っていた石化解除薬は、ナナミは「何個か持っている」と言う。


 ならば、やることはひとつだ。


 ノゾムは『隠密』を使ったままメデューサの前に出た。メデューサには透明に見えているはずなので、その視界に入るのは難しい。しかし、なんとかメデューサの目の前に立つ。


 ノゾムが石化されることはなかった。人間たちがいなくなったと思ったらしいメデューサは、ずるずると大きな体を引きずって、その場を去っていく。メデューサの下半身は、大蛇のそれだった。


 メデューサが完全にいなくなったことを確認して、ノゾムは『隠密』を解いた。


「『隠密』だと防げるみたいですね」

「よし。みんなの石化を解いて、考証といこう」

「俺も手伝うぞ!」


 ハンスが隠れていた茂みからひょっこり現れた。どこに行ったのかと思ったら、そんなところにいたのか。


 ハンスは『リフレッシュ』を使えるらしい。それならナナミに薬を持っているか聞く必要はなかったな……。『隠密』さえ効果がなかった場合、必要になるかと思って聞いたのだけど。


 手分けして全員の石化を解き、一同は顔を見合わせた。シスカは元仲間たちに張り合ったことを後悔している。申し訳なさそうに謝るシスカに、彼女の今の仲間たちは苦笑いを浮かべていた。


「どうやらメデューサが石化できるのは、メデューサが『視認できる相手』だけみたいだな」

「『隠密』で姿を消したり、死角からの攻撃なら効果があるってわけか」


 ただし『隠密』は攻撃動作に移ると効果が消えてしまうし、死角からの攻撃も一撃で仕留めてしまわなければ、メデューサに気付かれてしまう。


「ユズルの『増殖』が使えるんじゃないかな。リヴァイアサンを倒した、あれだ」

「ふっ、やはり弓こそ最強」

「使いどころ考えねぇと、周りの人間を巻き込むけどな」


 ドヤ顔を浮かべるユズルにジェイドは呆れた顔で忠告する。ユズルは「分かっている」とむくれた。


「『増殖』……【薬師】のスキルでしたっけ?」

「そうだ。ノゾムくんも覚えてみたらどうだ?」


 ジャックは気軽に言う。ノゾムは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「【薬師】には、ちょっとトラウマが……」

「そうなのか? 『スモーク』とか便利なのに」

「その『スモーク』にやられたことがあるんですよ」


 『スモーク』と聞けば、嫌でも思い出す。黒髪赤目の暗殺者、アルベルトのことを。


 忌々しげに顔を歪めるノゾムに、ジャックは「ふうん?」と返した。

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