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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
最終章 常闇の国ヴィオレ
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黒の森の戦い

 メデューサ攻略のために、ジャックたちと協力することになった。


 ジャック、ユズル、ジェイド、ハンスの4人は、木も草もすべてが真っ黒な森の中を物珍しそうにキョロキョロしながら進んでいる。ノゾムたちはその少し後ろを、同じくキョロキョロしながら進んだ。……ちなみにこっちのキョロキョロは、メデューサを警戒してのものだ。


「メデューサと戦いたかった〜……」


 ラルドはまだブツブツ言っている。

 オスカーはそんなラルドを見て呆れたように肩をすくめた。


「戦うにしても、どうやって戦えばいいのか調べなきゃだろ。それには俺たちだけでやるには非効率的だ。違うか?」

「ぐぬぅ、正論パンチ……」

「すっごいなこれ、真っ黒にも程があるだろ! せっかくだから採取しとこうぜ」

「あ、ジャックさん、むやみに引き抜くと危ないですよ!」


 地面に生える真っ黒な草にウキウキしながら近寄るジャックに、ノゾムは慌てて声をかけた。


「大丈夫だって。素手で触るようなヘマはしないよ」


 ジャックはケタケタと笑って、手袋をはめる。

 いや手袋も大事だが、そうじゃない。


「そうじゃなくて、この森には――」

「ギャアアアアアアアアアアッ!!」

「ああ、遅かった」


 ジャックが引き抜いたのはマンドラゴラである。この森には他にもたくさんの種類の植物が生えているのに、なぜ初っ端からマンドラゴラを引き当てるのか。


 黒い草の先にくっついた、人の姿をした根っこ。小さな子供のギャン泣きのような甲高い泣き声に、ジェイドたちは耳を塞ぐ。


 ジャックはマンドラゴラを引き抜いた格好のまま、びくともしない。


「なんだ、これ……!!」

「マンドラゴラだよ、その泣き声を聞いた人間を即死させるっていう!」

「俺ら死んでねぇぞ!?」


 そう、本来のマンドラゴラは、その泣き声を聞いた者すべてを即死させる。しかしこのゲームの中では、即死するのはただ一人。


「ジャックさんは死んでます」

「ああ、引き抜いた本人は死ぬのか……。まあ大丈夫だろ、ジャックは『身代わり人形』持ってるし」


 そのうち復活するだろ、とジェイドは平然と告げる。ラルドはそれを聞いて「ちっちっちっ」と指を振った。


「これが大丈夫じゃないんだな〜。マンドラゴラを抜いた時は、『身代わり人形』が効かないんだな〜」

「は!?」

「ラルドが体験済みです」

「早く言え!」


 ジェイドは慌ててジャックに駆け寄った。泣き喚くマンドラゴラに左腕のリングを近付けて収納し、蘇生薬を取り出してジャックにかける。


 ややあって復活したジャックは、きょとんと目を丸めて振り返った。


「……何かあったか?」

「何かじゃねぇわ!!」


 お前は不用意に草を抜くなと、ジェイドは声を荒らげた。



 さらに進むと、石化したプレイヤーたちの姿がちらほらと見えてきた。浜辺でジャックたちがノゾムたちの話を聞いていた間に、森に入っていったプレイヤーたちだ。


 石化を免れた人間はいない。このままでは彼らは死に戻りしてしまうだろう。


 ノゾムは困ったように眉尻を下げた。


「助けたほうがいいかな?」

「だからノゾム、これは『競争』なんだってば!」


 奴らはライバルなんだよ、とラルドは口を尖らせて言う。ジェイドも「まったくだな」と頷いた。ナナミは笑みを浮かべる。


「ノゾムはお人好しなのよ」

「助けたいなら、助けてもいいと思うぜ? 決めるのはノゾムくんだ」


 ジャックの言葉にノゾムは少しだけ逡巡し、頷いて、石化したプレイヤーたちのもとへ向かった。


 『リフレッシュ』をかけている間にも、ジェイドの呆れたような視線がちくちく刺さる。ユズルがそんなジェイドの肩をポンと叩いた。


「情けは人の為ならずだぞ、ジェイド。お前もたまには人に親切にしてみたらどうだ?」

「俺ほど親切な男もそうはいまいよ」


 ジェイドはそう言ってフンと鼻を鳴らす。本気で言っているのか、冗談なのか。ちょっと判断がつかない。


 石化から解放されたプレイヤーたちは口々に思いのたけを叫んだ。


「あんなバケモノがいるとか聞いてねぇ!!」

「紫色のヘビを攻撃したら、いきなり現れたのよ!」

「視線だけで石化させられるとか、チートすぎだろ!」

「助けてくれてありがとおおおおお!!」


 両手を掴まれて、ぶんぶんと上下に振られる。どうやら彼らのほとんどが、ノゾムたちと同じ轍を踏んだようだった。


「やっぱりヘビを攻撃することが、メデューサをおびき寄せる条件なのか……?」


 オスカーが口元に手を当てて考察する。ユズルは横目でジェイドを見て、「ほら情報が集まってきてる」と笑った。ジェイドはそっぽを向いた。


「あ、ジャック! 向こうにシスカがいるぞ!」


 ふいにハンスが声を上げた。その視線の先には、確かに石化したシスカと、その仲間たちの姿がある。


 ノゾムは彼らにも『リフレッシュ』をかけた。MPがだいぶなくなってしまったが、まあノゾムは魔法主体で戦うわけではないので、問題はないだろう。


 石化から解放されたシスカは、ぽかんとした顔でノゾムたちを見た。


「アンタたち……。え、ボク……?」


 まだ混乱しているようだ。


「メデューサに石化させられたんだよ。ノゾムくんが解除してくれたんだ」

「メデューサ……? あ、そうだ! 森を進んでたら、いきなり現れて! え、キミが助けてくれたの? ライバルなのに?」


 ライバルなら助けない、というのは普通のことなんだろうか。


 首をかしげるノゾムの横で、ジャックはシスカに問いかけた。


「シスカも紫のヘビを攻撃したのか?」


 その問いかけに、シスカは眉を寄せた。


「紫のヘビ……? あのいかにも怪しいやつ? 見かけはしたけど、近寄ってもないよ。石化されたプレイヤーをその前に見つけていたから、警戒してたんだ」


 石化能力を持つモンスターがいることが推察されたから、いかにも怪しい紫のヘビはスルーしたのだという。……ということは、『紫色のヘビを攻撃する』ことがメデューサを呼び寄せる条件というわけではないらしい。


 『紫色のヘビを見た』ということは一致しているけど……。


「お、おいシスカ、あれ!」


 シスカの仲間の、背の高い男がふいに声を上げる。男が指差す先にいるのは、例の紫色のヘビだ。


「出やがったか!」


 ジャックが刀の柄に手を伸ばす。


 どうやら対策を考えつくより前に、第2ラウンドに突入することになりそうだ。

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