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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
最終章 常闇の国ヴィオレ
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第二の関門、メデューサ

「教えるわけねぇじゃん!」


 何かあったのかと尋ねてきたジャックに、ラルドはきっぱりとそう返した。ノゾムは目を瞬かせてラルドを見る。ジェイドは「やっぱりな」と肩をすくめた。


「ええっと……なんでかな?」

「当たり前だろノゾム! これは俺たちだけが持っている、超有力情報なんだぜ!?」


 ……超有力情報?

 メデューサのことが?

 ラルドの言っていることがいまいち理解できなくて、ノゾムはなおさら首をかしげた。


 ラルドの主張はこうだ。アイツ(メデューサ)は初見殺しのモンスターで、事前情報なしで遭遇すれば間違いなく石化してしまう。つまり『メデューサがいることを知っている』時点で、ノゾムたちは彼らより一歩先にいるのである。


 ライバルたちが石化している間に森を抜けることができれば、それだけ差をつけることもできるだろう。この情報は現在ノゾムたちだけが持っている、アドバンテージに違いないのだ。


「カラクリ屋敷ん時みたいに『協力したほうがいいんじゃないか』ってノゾムは言うだろうけど、今回ばかりは譲れねぇ! これは競争だ! 誰が一番に【勇者】になれるのかっていう――」

「1ミリも興味ないな。この森にはメデューサがいるんだ。ジャック、お前も対策を考えてくれ」

「オスカーーーーッ!!」


 さらりと『超有力情報』を教えてしまったオスカーにラルドはショックを受けた。地面に四つん這いになって涙をちょちょ切らせるラルドに、ナナミとエレンはドン引きしている。


 ジャックは目をまん丸にしてオスカーを見た。


「メデューサ? そんなものもいるのか……。ってことは、石化に困っているんだな?」

「そうだ。視線を向けられると、それだけで石化してしまう。視線さえ遮ってしまえば避けられるが……」


 ジャックとオスカーは、ラルドを無視して話を進めた。うん、やっぱりこうやって協力し合ったほうが効率がいいよね。ラルドの言う『競争』とやらには、やっぱりノゾムは全然興味が湧かなかった。


「『隠密』で姿を消してやり過ごすってのはどうだ?」

「このパーティーに『隠密』が使えるのはノゾムとラルドだけだ。それにもしも、『隠密』を使用した状態で石化してしまったら……」

「……下手すると誰にも発見されず、死に戻りしてしまうか……」


 石化する、というのは戦闘不能になるのと同じことである。


 戦闘不能になった場合は、一定の時間内に蘇生されなければ『死に戻り』してしまう。

 石化の場合も同じで、やはり一定時間内に石化を解除されなければ『死に戻り』してしまうのである。


 先ほどはオスカーが石化を回避していたから助かったけど、オスカーまで石化していたら、今頃ノゾムたちはアンディゴの『プールプル』へ戻っていたはずだ。他のプレイヤーたちを出し抜くどころではない。


「視線を向けられなければいいんだろう? 背後からこっそり近付いて、ヘッドショットを狙えばいい」


 簡単じゃないか、と言うのは黙って話を聞いていたユズルだ。それを簡単と言えるのはユズルくらいのものだろう。


 オスカーも「それがうまくいけばな」と難しそうな顔をしている。


「俺たちが最初に遭遇したのは、紫のヘビだ。メデューサの頭のヘビの1匹だな」

「へぇ、切り離しができるのか」

「その紫のヘビを斬ると、『私のヘビを虐めるのは誰だ』と言ってメデューサが現れた」

「紫のヘビと遭遇しても、戦わないほうがいいってことかな……」


 ジャックは「ふむふむ」と頷く。


「ヘビを倒すことがメデューサ出現の条件なのか、はたまた別にヘビは関係なくて、森を進んでいればメデューサに遭遇するのか……今の段階じゃ分からないな」

「ヘビを無視すれば森を抜けられるなら、そっちのほうが楽なんだけどな」


 実際のところはどうなんだろうな、とオスカーは首をかしげる。「メデューサと戦いたい……」と呟くラルドのことは、華麗にスルーだ。


「メデューサ退治といえば、メジャーなのは『鏡』を使ったものじゃねぇか?」


 エレンが口を挟む。ハンスがそれに頷いた。


「鏡に視線を反射させる、ってやつだよな。鏡ならルージュの家具屋で売ってるのを見たことがあるぞ」

「『はじまりの国』に戻れってか……。いや『転送陣』を使えば行き来できるか」


 一度街に戻って鏡を買ってくるのも手か……とジェイドは呟く。ちょっと手間だが、試してみる価値はあるかもしれない。しかしそれはすぐに、不可能であることが証明された。


 ミニ転送陣を貼ることができないのだ。


 本来はこのミニ転送陣を壁か何かに貼っておけば、拠点に戻ったあと、その貼った場所から冒険を再開することができる。しかしヴィオレにあるもの――木とか岩とかに貼ろうとすると、……なぜか弾かれる。


 どうやらこの国ではミニ転送陣を使うことができないらしい。


「『テレポーテーション』も使えないっぽいな。プールプルに戻ることはできそうだけど」

「撤退したいならしてもいいけど、来る時はまた海を越えてこいってことか」


 なるほどねぇとジャックは笑う。いやまったく笑いごとじゃないと思うのだが。またリヴァイアサンのいる海を越えてこなければならないなんて、嫌に決まっている。


「どうするんですか?」

「んー。まあ、まずはいろいろ試してみるかな。『隠密』と、背後からのヘッドショット? あと紫のヘビと遭遇しても無視。どれかはうまくいくかもしれない」


 うまくいかなかったら別の方法を考えるさ、とジャックは朗らかに言った。


「有力情報、ありがとな。お礼にこっちからも面白い情報をあげるよ」

「面白い情報?」

「弓と、【薬師】のサードスキル『増殖』を組み合わせてみな。すんげぇ威力が出せるから」


 その『すんげぇ威力』がどのくらいかと言えば、ひとりでリヴァイアサンを倒せるくらいだという。ユズルはそうやってひとりでリヴァイアサンを倒したのだという。


 目を見開くノゾムたちに、ジェイドは淡々と言った。


「どうせ下方修正される」

「お前はしつこい!」


 ユズルはぷんすこ怒った。

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