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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
最終章 常闇の国ヴィオレ
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黒の森

 真っ黒な枝葉の間から、赤い月明かりが差し込んでいる。黒い木々の森は海岸のそばに広く存在していて、島の中央に行きたいなら、どうしても通らなければいけないらしい。


 月明かりが差し込んでいても暗いので、森の中では松明を使う必要があった。炎に照らし出される植物のすべてが、本当に炭のように黒い。


「見ろよこれ、黒いキノコだ! トリュフじゃねぇの、これ!?」

「ちょっとラルド、不用意に触らないの。毒を持ってたらどうするの?」


 黒い木の根元に生えていたキノコに近寄るラルドに、ナナミが眉を寄せて忠告する。ラルドはケラケラ笑った。


「大丈夫だって。これ、絶対にトリュフ…………」

「『沈黙』になっちゃった!」


 キノコに触ったラルドは、ぱくぱくと口を開閉させた。どうやら毒キノコだったようだ。口をぱくぱくさせるラルドを見て、ノゾムはヴェールの山で採集をした時のことを思い出した。


 あの時はたしか、ラルドは『沈黙』と『毒』の両方にかかってしまって、『リフレッシュ』を使うこともできず、危うく戦闘不能になるところだったのだ。シプレが助けてくれなかったら、間違いなく死に戻りしていたことだろう。


 その一件から自分も回復手段を持っていたほうがいいと学んだノゾムは、【僧侶】のスキルを覚えたのである。


「『リフレッシュ』!」


 ラルドの体に触れてスキルを発動させる。淡い光に包まれたあと、ラルドの状態異常は回復した。


「おわー! 助かったぜノゾム!」

「まったく、言わんこっちゃない。採集のときには手袋をするの。常識でしょ!?」


 ナナミは呆れたように肩をすくめる。そういえばシプレも言っていたっけ。


 素手で触ると危険な植物もあるので、採集のときには手袋をしておいたほうがいいのだと。


「だって、手袋持ってないし」

「……仕方ないわね。私の予備を貸してあげる」


 ナナミの手袋じゃあラルドには小さいんじゃ、とノゾムは思ったが、そこはゲームの中の謎現象が発動。ナナミの手袋はラルドの手にジャストフィットした。


 手袋を装備したラルドは「これで怖いものはない」とばかりに、次々と草やキノコ、木の実などを回収していく。ナナミもそれに負けじと採集を続けた。


 集めたものはあとで『鑑定』をして、どんな効能があるのか調べるらしい。『鑑定』は【トレジャーハンター】のスキルである。


「ん? この草、抜けねぇな」

「え、なに?」

「このでっかい草だよ。……なかなか、抜け、」


 ラルドは何やら大きな草を無理やり引っこ抜いた。


 その瞬間、まるで赤ん坊が癇癪を起こしたような甲高い泣き声が辺りに響く。その声の主は、ラルドが引っこ抜いた草の()だ。


 手足を生やした人のような形をした根っこ。クシャクシャに顔を歪めて、まるで赤子のように、その根っこは泣いている。


「これ、まさかマンドラゴラ!?」


 マンドラゴラ、またの名をマンドレイク。魔法学校を舞台にした某児童書にも登場する、魔法生物のひとつだ。


 土の中から引き抜かれると泣き喚き、その泣き声を聞いた人間を死に至らしめるという、恐ろしい存在だ。


「なんだこれ、うるせぇな!! おいラルド、さっさと埋め直せ! ……ラルド? どうした!?」


 エレンが両耳を押さえながら叫ぶが、ラルドは返事をしない。マンドラゴラを引き抜いたままの格好で固まっている。


 エレンは訝しげにラルドを見て、それから顔を引き攣らせた。


「意識を失っている……」

「『泣き声を聞いた者』全員を死に至らしめることはできないようだが……引き抜いた張本人は即死させられるみたいだな」


 オスカーは冷静に「なるほど」と頷いて、杖をマンドラゴラに向けた。


「『ファイヤーボール』」


 大きな火球が飛んでいく。ラルドも巻き添えになりそうだが、ラルドには味方識別(マーキング)が付けられているのでダメージはないはずだ。ラルドが手に持っていたマンドラゴラは燃え尽きた。


 ナナミがアイテムボックスから蘇生薬を取り出して、ラルドにかける。


 ラルドは意識を取り戻した。


「はっ、オレはいったい……」

「あのマンドラゴラ、欲しかったな」

「何に使うの、ナナミさん?」


 残念そうに呟くナナミにノゾムは思わず問いかける。


 たしかにマンドラゴラは、魔女の薬の材料になるという話だが……。


「何に、っていうのは決めてないけど。何かに使えるかもしれないでしょ?」

「それよりラルド、お前、『身代わり人形』を持っていないのか?」

「持ってるぜ、たくさん! え、オレ今、死んでたの!?」


 オスカーの問いかけにラルドは目を白黒させる。死んでいた自覚がないらしい。


 どうやらマンドラゴラを引き抜いて死んだ場合、『身代わり人形』は発動しないようだ。何故だろう。蘇生薬は効いていたのに。


 みんなで首をかしげていると、ふいにエレンが槍を構えて前に出た。


「おっと、お前たち。話はあとだ。モンスターのお出ましだぜ」


 真っ黒な草むらから姿を現したのは、体長5メートルほどの紫色のヘビだった。

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