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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
最終章 常闇の国ヴィオレ
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上陸

 氷上はシンと静まり返る。シスカも、エシュも、他のプレイヤーたちも、誰もが呆然とユズルを見つめていた。


 リヴァイアサンをたった1人で倒すなんて――ヴィルヘルムが1人でドラゴンを倒したという話だって、未だに信じられないというのに。


 注目の的になっているユズルは、絡みつく視線を歯牙にもかけずに、氷の上をてくてくと歩く。ジェイドの前で立ち止まり、ニヤリと口角を持ち上げた。


「どうだ、ジェイド? これが弓の可能性ってやつだ。最高じゃないか!?」


 ユズルがわざわざジェイドに向かって言っているのは、さんざんジェイドに「【狩人】ってまだ生きてるの?」とか言われていたからだろう。


 しかしユズルは、リヴァイアサンを1人で倒したことで、『弓が強い』ということを証明してみせたわけで。


 果たして、ジェイドはどう返すのか――シスカはそおっとジェイドの顔を窺った。


 ジェイドは真顔で言った。


「下方修正されると思う」

「は?」

「今の技、下方修正されると思う」


 繰り返し言われたその言葉に、ユズルはポカンと口を開ける。ぱちぱちと目を瞬かせ、ゆっくりとその言葉の意味を飲み込んで――「なんでだ!?」と叫んだ。


「なんでも何も。弓の攻撃力が高いのは、そもそも『当てるのが難しいから』だろ。今のやり方じゃ、100パー当たるし。リヴァイアサンだから倒すのに5回もかかったけど、ドラゴンくらいのレベルなら、あれ1ターンキルじゃねぇの?」

「それの何が悪い!」


 ドラゴンを1ターンキル……うん、たしかに、そのくらいの威力はあったかもしれない。


 あれ、ドラゴンってそんなに弱かったかな……とシスカは若干混乱してきた。


「だいたい、それを言うなら【魔道士】はどうなんだ。あいつら優遇されすぎだろ! 魔法攻撃力の高さで威力が上がるのはともかく、攻撃範囲まで広くなるのは何故なんだ!」


 それは確かにそうだ。【魔道士】が『魔法攻撃力』がカンストしている状態で『収縮』を使い、さらに『精神統一』を並行して使おうものなら、とんでもない威力を出す。


 さっきのユズルの攻撃は、明らかにそれを超えていたけれど。


「ぜってぇ下方修正される。賭けてもいい」

「そうだなぁ。『増殖』で増えた分の矢の攻撃力は、下げられそうだな」

「ジャックまで言うか!?」


 ユズルはガーンとショックを受ける。ジャックはそんなユズルに苦笑して「ゲームバランスを壊しかねないからな」と言った。


「だけど、うん、今の使い方は面白いと思うぜ。弓と『増殖』を合わせるなんて考えたことなかった。さすがはユズルだな」

「ぜってぇ下方修正される」

「運営はどこまで【狩人】に苦痛を強いるんだー!」


 ユズルは氷の上に膝をつき、叫んだ。


 これは運営のせいなのだろうか……。それとも、想定外な遊び方をする、プレイヤーのせいなのだろうか。


 シスカには分からない。


「ギィィィイイイイイイイ!!」


 遠くからガラスを引っ掻いたような耳障りな音が鳴る。慌てて振り返れば、遠くの海に、新たなリヴァイアサンの姿があった。


「再出現するの早すぎだろ!?」

「ユズル、今のやつまたやれるか?」

「MPが尽きた」

「そっか……」


 やっぱり万能のスキルなんてないんだな、と納得した顔をするジャックは、すぐにヴィオレに向かって走り出す。ハンスとジェイドもそれに続いた。一拍遅れて、ユズルも駆け出す。


 またリヴァイアサンと戦うのは御免ということだろう。シスカもそれには賛成である。


 遠くにいるリヴァイアサンは、バッキンバッキンと氷を砕きながらこちらへ向かってくる。


 急いで逃げないと、捕まってしまうだろう。


「ひゃあ〜、あの人の弓、すごかったですねぇ。でも私もリヴァイアサンと戦ってみたかったです」

「馬鹿なこと言ってないで急ぐよミーナ」


 近くにいた男女の2人組が、のんきにそんなことを言う。長い黒髪を後ろでひとつにまとめた男と、頭に2つのお団子を作った女の子だ。


 どこかで見た2人だな、とシスカは首をかしげた。


「『増殖』はアルも習得していますよね?」

「そうだね。おかげで草がなくなって雑魚化することはなくなったね」

「……アルの『増殖』を使えば、私の『さみだれ突き』がもっとすごいことに」

「何を言っているのか、ちょっと分からないね」


 アルと呼ばれた男は呆れた顔でミーナを見る。『さみだれ突き』は【槍使い】のスキルだ。『増殖』で槍を増やしたところで……だから何だという話。


「あ、それじゃあアルがこう、短刀を投げて、『増殖』で増やせば」

「それは使えそうだけど、弓ほどの威力にはならないんじゃないかな。もともとの攻撃力が違うから」

「むぅ。それならアル、武器を弓に変えますか?」

「絶対に嫌だ」


 アルはキッパリと言った。眉間にしわを寄せ、心底から嫌そうに口を歪めている。


 「どうして?」と首をかしげるミーナに、アルは嫌そうな顔のまま言った。


「俺がこのゲームで関わりたくない奴ナンバーツーが、弓使いなんだよ」

「何です、それ? その弓使いに何をされたんです?」

「鉱山でちょっと……俺が牢屋に入れられたのは、そいつのせいだ」

「それなら良い人ですね」


 ミーナはぴしゃりと告げる。アルはそんなミーナを横目に見て、いっそう顔を歪めた。


 牢屋に入れられたって……悪いことをしたってことじゃないのか。PKとか。


「ちなみに、関わりたくない人ナンバーワンは誰なんですか?」

「その弓使いの仲間の、箒頭だよ。なぜか会うたびに親しげに話しかけてくるんだ……」


 その箒頭が相当に苦手なのか、アルは遠い目をして言う。弓使いに、箒頭。ナナミが連れていた2人が、まさにそうだ。


(まさかね)


 シスカは頭を振って、近付いてくるリヴァイアサンから逃げることに、とにかく集中することにした。




 ***




 黄色い箒頭を揺らしながら、ラルドは浜辺に降り立った。ノゾムはここまで運んでくれたヒッポスベックたちの背を撫でて労う。


 ヒッポスベックたちのおかげで、ノゾムたちはヴィオレに二番乗りすることができた。


「バジルさんたちはどこだろう?」

「さあな〜。とっくに城に着いてるんじゃねぇか?」


 空を飛べるモンスターっていいよなぁ、とラルドは羨ましそうに言う。オスカーは呆れた顔をした。


「無いものねだりをしても仕方がないだろ」

「そうよ、むしろ採集をするなら歩いていったほうがいいわ」


 ナナミはキラキラと目を輝かせながらそう言う。その目に映るは、真っ黒(・・・)な植物たち。


 木も、葉も、草も。ヴィオレに生えているのはどれも炭のように黒かった。


 ノゾムの目には不気味な森にしか見えないけど、ナナミにはお宝の山に見えているらしい。


「どこからモンスターが出てくるか分からないぞ! 注意しろ!」


 なんでエレンが仕切っているのやら……まあいいか。


 エレンの言う通り、何が出てくるか分からない。ここは魔王のおわす国、『常闇の国ヴィオレ』なのだから。

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