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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
最終章 常闇の国ヴィオレ
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氷上の戦い

 ヒッポスベックに乗って駆けるノゾムたちに、小舟に乗ったジャックたちはすぐに追いついた。


「おーい、オスカー! お前が凍らせた海、利用させてもらうぜ!」


 小舟の上から手を振りながらジャックが言う。ナナミは「ずるい」と眉をひそめたけど、当のオスカーは「構わない」と返した。


 ラルドは後ろにいるオスカーを振り返る。


「いいのかよ?」

「ああ。それよりもっとヤバい問題が、目の前に迫っているしな」


 まったくである。このまま氷上を突っ切っていくと、ノゾムたちはリヴァイアサンにぶつかってしまう。


 リヴァイアサンもついでに凍っていてくれていたら良かったのだが、そうは問屋が卸さない。間近で見るリヴァイアサンはとてつもなく大きい。またあの耳障りな鳴き声と共に、氷上に海の怪物たちを召喚する。


 襲いかかってくるサハギンたちを、ヒッポスベックは華麗な走りで避けていった。


 ヒッポスベックほど小回りの効かない小舟に乗っているジャックたちは、目の前の敵を倒しながら進んでいく。


 ジャックもジェイドも相変わらず強い。ユズルのバケモノ並みの弓の腕も相変わらずだ。ハンスは『サイクロン』で小舟を走らせるのに忙しそうである。


 リヴァイアサンとの距離が縮まってくると、リヴァイアサン自身も攻撃してくるようになった。空中に出現した複数の渦から、それぞれ強力な水弾を放ってくる。威力が高い上に、速い。ヒッポスベックでも避けきれそうにないそれは、エレンの『聖盾』で防いだ。


「エレン、ありがとう!」

「はっはー! お前らはオレが必ず守る! ……だが走りながらだと、ちょっとキツイな」


 確かに、どうせ戦うなら地に足をつけて戦いたいところである。ヒッポスベックの手綱を持ったままだと、ノゾムも弓が使えない。


 だが、オスカーが張った氷は、いつまで保つか分からない。ひび割れができるたびにオスカーが『アイシクル』をかけ直してくれているけど、下に降りて戦っている間に割れたりしたら最悪だ。


 ここはリヴァイアサンをやり過ごして、さっさとヴィオレに渡ってしまうべきだろう。


「おいジャック、他の連中も海を渡り始めたぞ」


 ジェイドの言葉に、ふと後ろを振り返る。そこにはジャックたちを真似て、凍った海の上を小舟で走り出すプレイヤーたちの姿があった。小舟を確保できなかったのか、氷の上を走ってくるプレイヤーたちもいる。


 あんなにいっぺんに渡って、氷が割れないかと不安になったけど、エシュとかいう少年魔道士や、他の魔道士たちが幾重にも『アイシクル』をかけて、氷をより分厚くしていた。


 海を凍らせて渡る。これがやはり最適解だったのだろう。サハギンをテイムして、凍っていない海を渡ってくる人たちもいるけど……あれは【テイマー】じゃないと無理だ。


 リヴァイアサンが長い尾を振るう。凍った海がバキバキッと嫌な音を立てて砕けた。ヒッポスベックは割れた氷の上をピョンピョンと跳んでいく。ジャックたちの小舟は衝撃で吹っ飛んだ。


「『罠作成』!」


 ユズルがとっさに、リヴァイアサンに向かって手を伸ばす。長い首にちょっとだけ触れた。すぐに離れたけど、何かに捕まっているみたいに、ユズルの体が宙ぶらりんになる。


 見えないけど、おそらく『罠作成』のワイヤーを使ったのだろう。ジェイドがそんなユズルにしがみつき、ジャックがジェイドにしがみつき、ハンスがジャックにしがみつく。


 数珠つなぎになった彼らは、リヴァイアサンが首を振ると「ぎゃー!」と叫んだ。


「なんだあれ、楽しそう……!」

「あれを楽しそうと思えるラルドって、本当にすごいと思うよ」


 ノゾムはぜんっぜん楽しそうに見えない。リヴァイアサンは海中に潜る。当然、『レッドリンクス』の4人も海中に潜る。ノゾムには、彼らが無事であることを祈ることしかできなかった。


「どうする? 俺たちもアレと戦うか? このままヴィオレまで突っ切ったほうがいいと、俺は思うが」


 海に潜ったリヴァイアサンの尾を見ながら、オスカーが聞いてくる。ラルドは「戦いたい」と返したけど、ノゾムとナナミとエレンは揃って「このまま突っ切る!」と返した。


 ジャックたちのあの様子を見て、なお戦いたいと思うなんて、正気の沙汰じゃない。


 オスカーは「そりゃそうだな」と頷いた。


 リヴァイアサンが再び氷を突き破り、海上に出てくる。ジャックたちはまだリヴァイアサンの首にぶら下がっていた。


 彼らの悲鳴を背後に聞きながら、ノゾムたちは全速力でヴィオレに向かった。




 シスカたちが辿り着いたのは、ノゾムたちが去った後のことだった。


 彼女は間近で見るリヴァイアサンの大きさと、その美しさに目を丸め、そしてリヴァイアサンの首にぶら下がるバカ4人を見てポカンと間抜けに口を開けた。


「アンタたち、何してんの!?」

「あ、シスカ! 助けてくれー!」

「誰が助けるかー!」


 仲違いしたことも忘れたように、助けを求めるジャックにシスカは思わず叫ぶ。


 ジャックは「そんな」とショックを受けた顔をするが、知ったこっちゃない。


「だがシスカ、暴れるコイツをどうにかしなきゃ、ヴィオレには渡れそうにねぇぞ」


 シスカと共に『レッドリンクス』を抜けて新ギルドを立ち上げた男が、声をかけてくる。一緒に来た仲間たちも「そのとおりだ」とばかりの顔でシスカを見た。


 せっかく凍らせた海をバッキンバッキンと壊していくリヴァイアサンをどうにかしなけりゃ、ヴィオレには渡れないし、魔王のもとへも行けない。


 シスカは眉間にしわを寄せ、銀色の髪をガシガシと掻いた。


「……しかたないなぁ! ジャックたちを助けるんじゃないんだからね!?」


 シスカはそう言って、武器を構える。柄の長い、大きな斧だ。


「行くよ、『シーカーズ』!」

「おお!」


 シスカが立ち上げたギルドの名前は、『シーカーズ』という。発足して間もないものの、『レッドリンクス』に加入していたメンバーがほとんどそのまま移っているので、人数は多い。


 ここへ来たのは、選りすぐりのメンバーだ。


 ジャックたちにも負けない実力があると、シスカは自負している。

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