表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第5章 スポーツの国ブルーと密林の国アンディゴ
249/291

ゆるやかな開幕

 空が茜色に染まる。東からは、夜が迫っている。リアルの世界でも、きっと同じような空が広がっているだろう。日本では現在、間もなく夜の7時になろうとしている頃だ。


 『常闇の国ヴィオレ』が浮かぶ予定の場所に、最も近いプールプルの海岸には、たくさんのプレイヤーがずらりと並んでいる。


 このゲームをプレイしている全員、ではないだろう。イベントに興味のない人もいるだろうし、リアルの都合で参加できない人もいる。この時間までに、ここに辿り着けなかった人だって、いるに違いない。


 それでも結構な人数が、海岸にはいる。ノゾムが知っている人も、知らない人もだ。


「ワクワクするな〜! このイベント期間中、リオンはログインしないって言ってたけど、オスカーはどうなんだ?」

「明日は塾があるから午前中は参加できないが、明後日は休みだから、朝からやれるぞ」

「……塾に休みなんかあったのか?」

「そりゃあるだろ」


 ラルドの言葉にオスカーは呆れた顔をする。塾が休みの日であっても、今までは午前中をリオンに譲っていたのだそうだ。このイベント中はリオンが不参加なので、久しぶりに1日中ゲームに費やせるのだという。


「勉強はいいの?」

「たまに羽を伸ばすくらい、問題ないさ」


 ナナミの問いかけにもオスカーはあっけらかんと答える。オスカーが問題ないと言うなら、そうなのだろう。オスカーは賢いので、ちゃんと計画的に勉強しているはずだ。


 少し離れたところには、ジャックとハンス、それにユズルとジェイドがいた。4人からさらに離れたところには、シスカの姿。シスカはジャックに気付くと、嫌そうに顔をしかめて距離を広めた。


 ミーナも間に合ったらしい。隣に何故かアルベルトがいるけど、理由は知らないし、興味もない。アルベルトのことは、ノゾムは今も昔も大嫌いだ。


「の、ノゾム、どうしよう。アイツらもいる……!」


 エレンがピンクマリモと似非爽やか男を見てブルブル震える。そりゃ、参加するって言ってたしな。当然、バジルたち『ラプターズ』の姿もあった。他にも『バトルアリーナ』に出ていた少年魔道士とか、見覚えのある顔がちらほら。


 ヴィルヘルムの姿は見当たらないけど、まあ、たぶん、どこかにはいるだろう。あいつとは関わらないに越したことはないので、ノゾムは特に探そうとも思わなかった。



 夜が完全に空を埋め尽くし、空には大きな満月が浮かぶ。その月が、まるで赤いペンキをぶち撒けられたかのように、徐々に赤く染まっていった。海面が大きく波打つ。何かが、海の中から上がってきた。


 大きな島だ。

 ドーム型の、透明な何かに覆われている。


 島の中央には巨大な城がある。大小さまざまな、鋭角な塔がくっついた、真っ黒な城。海上に浮かび上がると、島を覆う透明な何かは、シャボン玉が弾けるようにパチンと消えた。


 島からコウモリの群れが飛び立つ。そのうちの一匹が、海岸で待つプレイヤーたちのもとへやって来た。


 コウモリだと思ったそれは、コウモリのような翼を生やした、青白い顔の男だった。ドラキュラだ。高いところから見下ろしてくるそいつを、ノゾムたちはポカンと見上げた。


「ようこそ、勇者候補の諸君」


 ドラキュラは酷薄な笑みを浮かべて言った。無駄にイケボである。「勇者候補」と呼ばれて、何人かは顔を引き締めた。ノゾムはまだポカンと見上げている。


 ドラキュラは笑った。クツクツと、喉を鳴らして嗤った。


「……そう、あくまでも君たちは、『候補』に過ぎない。勇者を名乗れるのは、我が王のもとに辿り着けた者だけなのです」


 【勇者】の転職条件は、魔王に対峙すること。それは前もって分かっていたことだ。改めて言われるまでもない。


「『常闇の国ヴィオレ』が浮いているのは、1週間。その間に王のもとへ辿り着ける者が、果たしているのか……。いなければ困りますけどねぇ、ええ。君たちには是非とも王を、楽しませて頂きたい」


 嘲笑いながら告げるドラキュラを、ノゾムはやっぱりポカンと見上げる。ラルドなんかは「なんだと〜? 舐めやがって!」なんて言っているが、えっと、これって、演出だよね?


「真の勇者が現れることを、期待していますよ」


 ドラキュラはそう言うと「ふふふ」と笑って、姿を消した。あとには赤い月と、夜の闇だけが残る。


 ……え、それだけ? もっと他に、何か、ルールの説明的なものはないのだろうか?


 ヴィオレに渡り、魔王のもとを目指す。見事に魔王のもとに辿り着けた者は【勇者】になれる。……ただそれだけのイベント?


「ねぇラルド――」

「うおおおおおっ! 燃えてきた! 『真の勇者』に、オレはなる!!」

「う、うん」


 肩透かしを受けていたノゾムと違い、ラルドはやる気を漲らせていた。他のプレイヤーたちも同様だ。『勇者』という職業は、それだけ『目指したい』と思える価値があるらしい。ノゾムにはよく分からないけれど。


「でも、魔王のところに行くだけなんて、思っていたより簡単――」


 その時だ。何か巨大な怪物が、海面から水しぶきを上げながら宙返りをした。


 シロナガスクジラよりも、明らかに巨大な体。キラキラと輝く白銀の鱗は、赤い月の下で美しく光る。


 巨大なウミヘビ……いや、ウミヘビってレベルじゃない。ノゾムはあんぐりと口を開け、再び海面に潜っていくその怪物を見た。


「あれって、まさかリヴァイアサン!?」


 誰かが叫ぶ。ラルドが「うひょお!」と声を上げた。うん、リヴァイアサンか。聞いたことある名前ー。


 再びぐるんと宙返りをするリヴァイアサン。飛び出てきて、潜って。そのたびに海面は大きく波打つ。すげぇ波が高い。え、この海を越えなきゃいけないの?


 ……どうやって?


「泳いでいくと、確実に殺られるな」


 オスカーが冷静に判断する。いやいや、とナナミが首を横に振った。


「そもそも、島まで遠すぎでしょ! こんな長距離を泳ぐの? ……いや、意外といけるのかしら? アバターだし」

「レビテーションで、空から行くとか!?」

「MPがもつの?」


 海岸に集まる他のプレイヤーたちも、ざわざわと囁き合う。ああしたらどうだろう、こうしてはいかが? いろいろな意見が出るけど、どれも妙案とは言えない。


「向こうの浜辺に小舟があるぜ!」

「小舟で渡るのも無理だろ! 木っ端微塵にされちまうぞ!」

「……ってことは、取れる手段はひとつか」


 結局、みんなの結論はひとつにまとまった。


「リヴァイアサンを、ぶっ倒す!」


 ノゾムは口元を引き攣らせた。本当に、それしか方法はないのかな? ラルドなんかは「うおー!」と叫んでいるけど……。


 こうしてよく分からないままに、『魔王復活イベント』は幕を開けたのだった。

 第五章はこれにて完結です。ここまで読んでくださって、ありがとうございます!


 泣いても笑っても次が最終章。ちゃんと終えられるのか不安しかないけど、とにかく進むだけです! 頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] とうとう魔王イベント開始……! ノゾム達がリヴァイアサンなんて強敵をどう乗り越えるのか、魔王に無事対峙できるのか、ワクワクします。 最終章ということで、このままお父さんがノゾムに認識して貰え…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ