表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第5章 スポーツの国ブルーと密林の国アンディゴ
247/291

ラプターズといっしょ

 「うわー、マジでワンコだー」と、エレンはノゾムの後ろからネルケを見る。全身がワンコなプレイヤーは珍しいらしい。そういえば確かに、ネルケのほかには見ないかもしれない。


 ハンスのように、耳や尻尾だけを獣のそれにしたプレイヤーならたまに見かけるけれど。


「でも俺、プレイしたての頃にトカゲの姿をした人を見たことがあるよ。リザードマンっていうのかな?」

「ふぅん?」


 相槌を打ったエレンは、なおもしげしげとネルケを見る。ノゾムの後ろに隠れながら。ノゾムは訝しげに眉を寄せてエレンを見た。


「ネルケは噛まないよ?」

「んな心配はしてねぇよ!? たださぁ、ほらさぁ、どういう人間かなんて、初見じゃ分かんねぇじゃん?」

「ネルケはいい子だよ。ていうか、人を盾にするのはやめろ。前に出ろ!」

「ひえええっ」


 ノゾムはエレンの服をむんずと掴んで、自分の前に押し出そうとした。エレンは当然のようにそれを拒む。もみくちゃになる2人を見て、セドラーシュは口角を持ち上げた。


「面白い奴が仲間になったんだね」

「それ、本気で言ってます? 正気ですか?」

「うわぁ、真顔で言われちゃった」


 もちろん、冗談だよ? とセドラーシュは笑顔で告げる。エレンは「コイツ性格悪そうだぞノゾム!!」とセドラーシュを指差しながら叫んだ。子泣きじじいのように背中に張り付いてくる。ノゾムは苛立った。


「セドラーシュさんは、毒舌が常備なだけだよ!」

「傷つくなぁ」

「事実でしょ?」

「……あれ!? なんでノゾムくんがここに!?」


 ローゼの胸の中でわんわん泣いていたネルケは、ようやくノゾムに気付いたらしい。


 ノゾムは苦笑いを返した。


「久しぶりだね、ネルケ。バジルさんが探してたよ?」

「えっ」

「ネルケを探すのを手伝ってくれたのよ」


 ローゼの補足にネルケは目を見開く。


「そ、それは、大変な、ご迷惑を……」

「気にしないで。俺はほとんど何もしてないし」

「……ラルドくんと、ナナミちゃんは……?」

「連絡は入れたから、そろそろこっちに来るんじゃないかな」


 噂をすれば何とやら。通りの向こうからこちらに向かってくる、黄色い箒頭が見えた。後ろにはナナミがいて、そのさらに後ろにバジルとオスカーの姿もある。


 バジルはネルケのそばに来ると、すぐさまその太い腕でネルケを抱きしめた。


「どこに行ってたんだよおおおおおっ!!」

「ごめんなさいいいいいいっ!!」


 ネルケを抱きしめながら、わんわん泣くバジル。必死に謝るネルケ。ローゼが呆れたように顔を歪めた。


「このやり取りにも飽きてきたわねぇ」

「ローゼだって、さっき同じことをしてたじゃないか」

「あたしはいいのよ」


 セドラーシュの指摘にローゼはさらりと返す。「バジルは暑苦しいのよ」と続く言葉には、その場にいる全員が頷いた。バジルが「おい!!」と声を張り上げた。


「まあでも、無事で良かったぜ」

「ラルドくん……」


 安堵の声を漏らすラルドに、ネルケは大きな瞳をうるうると潤ませる。


「ごめんね、ウチ、迷惑ばっかかけて……」

「気にすんな!」


 ラルドはケラケラと笑って言った。軽い。ネルケはうつむいてしまった。その顔が赤いような気がするのは、気のせいだろうか。


「これは、まさか、そういうことなのか……?」

「そういうこと『かもしれない』のよ。今は見守ってなさい」


 ヒソヒソと喋るエレンとローゼの会話も、ノゾムにはよく分からない。とにかくネルケが無事に見つかって良かった。それに尽きる。


「無駄に根性がついてきて、泣くまでの時間がどんどん伸びてるんだよね。さっさと泣いてくれたほうが、こっちとしては見つけやすいのに」


 やれやれとため息をつくセドラーシュのぼやきは、とりあえず聞かなかったことにした。




 ***




 さてさて、『魔王復活イベント』までは、あと1週間ある。イベント開始地点である『プールプル』へは、ここから結構近い。プールプルの手前にあるこの村に早めに集まったプレイヤーたちの目的は、主に情報収集だ。


「具体的なイベントの内容が分からないんだよね。『魔王が復活する』って、それだけでさ。そもそも魔王って何なんだよ」

「教会で聞いただろ? 世界を黒く染める者、だよ」

「神様は『わしが子供の頃に生み出してしまった』って言ってましたよ」

「ノゾムくんたち、神様に会ったと!?」

「モジャモジャで語尾が『じゃもん』の爺さんだったぜ!」

「なんだそれ……」


 セレスト山の山頂にいるイエティを手助けすると、神様に会えることを教える。バジルたちは「神様なんてのもいるのかよ」と唖然とした。


 魔王とは、神様が幼い時に生み出してしまった『黒』である。放っておくと世界を黒く染めてしまうため、封印せずにはいられなかったが、ずっと閉じ込めたままなのは可哀想だ。


 そんなわけで神様は、あえて半年に1回くらいは封印が解けるようにしているらしい。


 それを聞いたバジルたちはあんぐりと口を開けた。


「それなら何か? このイベントは、今後も半年に1回のペースでやるのか?」

「それは分からないですけど……」


 その可能性はある。


「魔王と対峙したプレイヤーは【勇者】に転職できるようになるんだよな!」

「そういう話だったね。『倒す』が条件ではないのか……。今回のイベントで条件が満たせなくても、今後もチャンスがあるかもしれないね」

「今後もやるなら、そうなりますね」


 たとえ今回【勇者】になれなくても、諦めなくていいということだ。ずいぶんと親切である。シプレやリラが提案したんだろうか。親父やミエルが決めたイベントなら、もっと鬼畜設定になっていると思う。


「魔王を倒したら、特別なご褒美を貰えたりするのかしら?」


 超絶レアアイテムが手に入るのでは、と目をキラキラ輝かせるナナミ。セドラーシュは「その可能性もあるね」と笑みを浮かべた。


「何をするのかは分からないけど……イベント開始までは、まだ1週間ある。それまでレベル上げをするのはどうだい? このジャングルのモンスターは強いから、一緒にレベリングをすると効率がいいと思うんだけど……」

「いいですね」

「えー!?」


 頷くノゾムの後ろで不満の声を上げるのはエレンだ。エレンはまだ『ラプターズ』の面々を警戒している。意外と人見知りをするたちなのかもしれない。


 エレン以外はセドラーシュの案に賛成している。オスカーは同じ魔道士タイプのローゼと話し込んでいるし。


 ノゾムは後ろでブーブー言うエレンがうるさいなと思ったけど、それを言う前にラルドが口を開いた。


「うちに有能な盾役が入ったから、戦闘は超楽だと思うぜ」

「えっ、そんな、超有能だなんて……そりゃ事実だけど!」

(めんどくさ……)


 「よーし、オレが全員守ってやろうじゃないか!」と胸を張るエレンは、本当にチョロい奴である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ