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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第5章 スポーツの国ブルーと密林の国アンディゴ
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再会、再会

 アンディゴの最北端にある『プールプル』は、小さな古びた教会と、ポツポツと民家があるだけの、寂れた村らしい。


 お店は一応あるものの、品揃えが良いとはとてもじゃないが言えない。『魔王復活イベント』と同時に浮上する『常闇の国ヴィオレ』にもっとも近い村だというのに、魔王に挑む準備がまったく出来ない村なのだ。


 そんなわけで、イベントに参加するプレイヤーたちは自然と、プールプルのひとつ手前にある『ミュール』にて戦いの準備をすることになる。


 ミュールもまた小さな村なのだけど、武器やアイテムを売る行商人たちが露店を開いたりして、とても活気のある村だ。


 ……そんな村なので、まあ、知り合いに会う可能性もまったく無きにしもあらず。目の前にいる2人とは、出来れば会いたくなかったけれど。


「ひっどいなぁ。エレンが見つかったら教えてって頼んでたのに〜」

「……お前、コイツに連絡先を教えてなかっただろ」

「え〜? そうだっけ〜?」


 似非爽やか男の指摘に、ピンクマリモは首をかしげる。この2人の名前は知らないし、今後も尋ねる気はない。


 「気付いてたなら教えてよ〜」とピンクマリモは口を尖らせる。似非爽やか男はそっぽを向いた。こっちの男はエレンを嫌っているので、エレン発見の連絡なんか要らないと思っていたのだろう。


 エレンはノゾムの後ろでガタガタ震えている。ノゾムは眉を寄せてエレンを見た。


「『盾』はエレンの役目じゃなかったっけ?」

「お、お、お、おうよ、モンスター相手なら任せろ。でも、コイツらは無理……!」


 真っ青な顔で告げるエレンは、完全に怯えてしまっている。この2人との冒険はよほど恐ろしかったのだろう。後ろから蹴飛ばされるわ、肉壁呼ばわりされるわ、との話だったので、想像に難くない。


 口を尖らせて拗ねたように相棒を睨んでいたピンクマリモは、ノゾムたちを振り返ると一転してにんまりと笑みを浮かべた。


「まあいいや〜。ここでこうして再会できたわけだし! 帰っておいで〜。エ、レ、ン!」

「ひえええええええっ!!!」


 満面の笑顔なのにめちゃくちゃ怖いのは何故だろう。エレンはいっそう縮こまって、ノゾムの後ろに隠れた。ちょ、前に押し出すのやめろ。こっちだって怖いんだからな!?


 似非爽やか男は険しい顔でこっちを睨んでいる。こっち来るな、戻ってくるな、さっさと断れと、その鋭い目は訴えていた。いや、エレンのためにも断ってあげたいけどね??


 断ったら断ったで、このピンクマリモが何をするか分からない。もしかしたらハンマーで殴りかかってくるかもしれないし……。


(あれ? でも、この体はアバターだしな?)


 殴られたところで、痛くも痒くもないではないか……と、ノゾムはようやく気付いた。


 むしろ攻撃をして困るのはピンクマリモのほうだ。プレイヤーに危害を加えることは禁止されている。うっかりPKなどしようものなら、牢屋に入れられて、その国の刑罰を受けるはめになる。


(ヴィルヘルムはこの国でPKはしていなかったから、リラさんに見逃されてたけど……)


 このピンクマリモがやらかした場合、さすがに見逃されることはあるまい。イベント前で忙しいらしいリラには申し訳ないけれど……。


「…………」


 ノゾムはちらりとピンクマリモを見る。不気味に笑うピンクマリモは相変わらず怖い。だけど……覚悟は決まった。


「あの、申し訳ないんですけど」

「エレンはオレたちの仲間になったんだ。悪いが諦めてくれ!」


 勇気を振り絞って口を開いたノゾムに重なるように、ラルドが告げた。ピンクマリモは目を丸める。


「えええええ〜!? なにそれ〜!?」

「いやぁ、コイツって意外と有能でさ」

「そんなこと知ってるし! 先に目を付けてたのはこっちだよ!? ひどくない〜!?」

「うん、マジでごめん」


 でも今更手放せないんだ! とキッパリと告げるラルド。エレンが感激したような顔でラルドを見た。


 オスカーが後ろでうんうん頷いている。


「そもそもエレンが逃げ出したくなるような扱いをしていたのは、そちらだろう? これだけ怯えているのがその証拠だ」

「うぐっ! それはコイツが、すぐ殴ったり蹴ったりするから……」


 ピンクマリモはそう言って、似非爽やか男を指差す。似非爽やか男は眉間に深いしわを寄せた。


「そいつがウザいのが悪い」

「お前な〜!」

「テメェだって胡散臭い笑顔で脅したりしてただろうが」

「ええ〜? オイラ、そんなことしてないよ〜? 胡散臭いってひどくな〜い?」


 いや、実際に胡散臭いし、怖い。


 こわごわと見つめるノゾムたちに気付いて、ピンクマリモはがっくりとした。あれ、もしかして無意識だったんだろうか……。


 怖がらせようという意図はなかったのかもしれない。


「そういうわけだから、おとなしく諦めてくれ」


 オスカーはそう締めくくった。ピンクマリモはがっくりとしたまま、「オイラの肉壁くん……」と呟く。そういうこと言うから怖がられるんだってば。


 肩を落としてトボトボと去っていくピンクマリモ。殴りかかってくるかもと思ったけど、そんなことはなかった。


 似非爽やか男はそんなピンクマリモの背中を見て、ノゾムたちを見て、いまだに震えるエレンを見る。


「そんな奴を仲間にするなんて、物好きな連中だな」

「…………」

「ま、俺には関係ないか」


 面倒を引き取ってくれて感謝すると、似非爽やか男はそう言って、ピンクマリモを追っていった。……とりあえず、これで問題は解決したと見ていいのだろうか?


 エレンは2人の姿が見えなくなると、ノゾムの後ろから出てきてプンスカと頬を膨らませた。


「なんだよアイツ! オレのどこが面倒だっていうんだ!?」

「いや、そこに関しては異論ないけど」

「なんでだよ!?」


 なんでも何もない。エレンの性格が面倒くさいことは、どう見ても明らかだ。ナナミとオスカーも頷いている。


 ラルドは「そういうとこが面白いんだけどな」と笑っているけど。そんな物好きはラルドくらいのものである。


「俺を盾にするのもやめてくれないかな?」

「それはあれだ、アイツらにはトラウマがあって、仕方なく……。他のときにはちゃんとオレが盾になってやるから、気にするな!」

「気になるよ……」


 本当に、どうしてくれよう。この男。

 悶々と不満を募らせている、その時だった。


「お? そこにいるのは弓ヤローじゃねぇか!」


 聞き覚えのある声に振り返る。そこにいたのは、獣の頭蓋骨を模したマスクを被った大男。


 ノゾムとラルド、それからナナミは、目を見開いてその男を見た。


「バジルさん!」

「おっさんじゃないか! なんでここにいるんだ?」

「誰がおっさんだ!!」


 オランジュで会って以来、久しぶりの再会となる。『ラプターズ』というギルドのリーダー、バジルだ。


 ドシドシと近付いてくるバジルに、ビビったエレンは再びノゾムの後ろに隠れた。おい。さっきの言葉はどうした。


 だがまあ、バジルもなかなかのコワモテなので、怯えてしまうのは仕方がない。そんなことより気になるのは、バジルの周りに他のメンバーがいないことだ。


「バジルさん、ネルケたちは?」

「そのことなんだがよ、ここでお前らと会えて良かった。手を貸してくれ!」

「……というと?」


 なんだか嫌な予感がする。


「ネルケが迷子になっちまった!!」

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