精霊たらしな男のようです
「戻ってきた! ノゾムくんたちが戻ってきたよ!!」
リラを連れて、もと来た道を戻ると、リオンとナナミは別れたその場所にいた。モンスターと遭遇してしまうかもしれないし、村に戻っていてくれても良かったのに。ノゾムたちが戻るのを待っていてくれたらしい。
「エレンくんも無事かい? あのおっかない人は!?」
「ヴィルヘルムなら、どこかに行きましたよ」
「そっか〜〜〜」
リオンは明らかにホッとする。
エレンはフンッと鼻を鳴らした。
「無事に決まってるだろ。あんな奴にオレが負けるかよ」
「いや、だいぶ悲鳴を上げてたよね……?」
思いっきり負けていたような気がするのだが、エレンはノゾムの言葉をスルーした。相変わらず、都合の悪い言葉はシャットアウトする耳である。
「それに、気持ち悪いから『くん』付けするなって言っただろ?」
「う、うん。分かったよ、エレンく……エレン」
「分かればいいんだよ」
エレンは「へへん」と胸を張る。ノゾムはそんなエレンを見て、「面倒くさいやつだなぁ」と思った。
しかし、そんなことよりも、気になるのはリオンの後ろにいる“彼ら”だ。
小さなその身を寄せ合って、リオンの背中に隠れながら、ノゾムたちの様子を窺っている。
リラと、リラの後ろにいるドリアードも、驚いたようにその姿を見ている。
「リオンさん……。その子たちは……?」
「え? ああ、彼らかい? 彼らは精霊なんだって。この世界には精霊もいるんだね〜。びっくりしたよ」
リオンはニコニコしながら答えた。そういえば、最初に精霊に会った時にアバターを使っていたのは、オスカーだったのか。リオンは精霊を見るのはこれが初めてらしい。
……初めてなのに、なんでそんなに距離が近いんだ?
リオンの後ろに隠れる精霊たちからは、リオンに対しての絶対の信頼感を感じる。……まさに、リラの後ろに隠れるドリアードのように。
「さっき、あの大きな巨人が足を押さえて飛び跳ねていただろう? 地面がすごく揺れて、この子たちも怯えていて……とっさに助けたんだ。そうしたら懐かれて……」
「懐かれて」
「あ、【精霊術師】っていうのに転職できるようになったよ」
あっけらかんと報告するリオンに、ノゾムたちは瞠目した。ナナミはリオンの隣で、口元を引き攣らせている。
ノゾムは視線だけでナナミに「マジで?」と尋ねた。ナナミは「マジで」と頷き返した。
精霊と仲良くなるのは無理かもな、なんて思っていた矢先のこと。よもやリオンが、こんなにも簡単に精霊と仲良くなるだなんて!
「……もしかしたら、最速で【精霊術師】になった男かもしれない」
「リラ、この人は良い人間です!」
「ああ、そうだね……」
仲間が懐いているのを見たからか、ドリアードも最速でリオンを認めた。リラはビックリした顔のまま、そんなドリアードに頷き返した。なんてことだ。ノゾムたちには、まだ警戒心を剥き出しだというのに。
キラキラと輝く笑顔を向けてくるドリアードに、リオンはニコニコしながら、「キミ可愛いね〜」と言った。幼女をナンパするんじゃない。
「【精霊術師】って、どんなスキルを覚えるんだ?」
ラルドがリラに問いかける。
リラは答えた。
「最初に覚えるのは、仲良くなった精霊を喚び出す『コール』という魔法だな。複数の精霊と仲良くなれば、何体もの精霊を召喚することができる。
セカンドスキルは『精霊魔法』……仲良くなった精霊に、ちなんだ魔法が扱える。仲良くなったのがドリアードなら、蔦で相手を拘束する……といった具合に。
最後に覚えるのは『みんなのちから』だ。仲良くなった“すべての”精霊たちの力を、一斉に解き放つことができる。仲良くなった精霊が多ければ多いほど、その威力は増す」
レアな職業なだけあって、なんともすごそうなスキルだ。リオンはすでにたくさんの精霊と仲良くなっているようなので、『みんなのちから』の威力はとても強いものになるだろう。
……なんだか、リオンは珍しい職業ばかり手に入れているような気がする。
ラルドは「いいなぁ」と羨ましそうにリオンを見た。
あたりはまだ暗く、獣や虫の鳴き声が響いている。ノゾムたちはひとまずアンディゴの首都、エリオトロープに戻ってきた。
「いろいろとすまなかったな。ヴィルヘルムのことは気にせず、どうかイベントを楽しんでくれ」
村に到着するなり、リラはノゾムたちにそう言った。気にするなと言われても、気にはなってしまうけど……リラに文句を言っても仕方あるまい。
もう遭遇しないことを祈るばかりだ。
ちょうど設定していたプレイ時間が終了したので、ノゾムたちはいったん現実世界に戻った。1時間後にログインした時には、リオンとオスカーは交代していた。
新たに増えている職業にオスカーは唖然としていたけれど、ノゾムたちには苦笑を返すことしかできなかった。
そうして再び冒険を再開し、今度はミュールという村に到着した。エリオトロープとプールプルの、ちょうど中間地点にある小さな村だ。
そこで厄介な2人と再会した。
「ようやく見つけたよ、肉壁く〜ん」
ニコニコ笑顔のピンクマリモと、今にも人を殺しそうな顔をして舌打ちする、似非爽やか男である。
エレンはガクガクと震えながら、ノゾムたちの後ろに隠れた。