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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第5章 スポーツの国ブルーと密林の国アンディゴ
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悪童Ⅵ

「契約成立って……」

「まさか【精霊術師】に!?」


 思わずといった様子でラルドが叫ぶ。シルフの「契約成立だ」という言葉で、転職条件が満たされたのかもと思ってしまったのだろう。


 ノゾムの目の前に《【精霊術師】に転職できるようになりました》という文字は出てこない。ラルドも、エレンもそうみたいだ。


 【精霊術師】の転職条件は『精霊と仲良くなること』……シルフの言う「契約」とは関係がないのだろう。ラルドはあからさまにガッカリした。


 だが、ドリアードを怒らせ、蔦の牢に囚われ、絶対絶命のこの状況で、シルフに協力してもらえるのは大きい。もちろん魔法で燃やすなり、剣で叩き切ったりすれば、牢から抜け出すことはできるだろうが……ドリアードをさらに怒らせる事態になることは、正直言って避けたかった。


《それじゃあとりあえず、そこから出してあげるね〜》


 シルフはそう言ってくるくる回る。まるで軽やかなダンスを踊っているみたいだ。両手を広げて、手のひらには黄緑色の光が集まる。


《いっけぇ〜!》


 間延びした声と共に放たれたのは、……爆風だった。突如として巨大な台風が直撃したかのような感覚。風圧に押されて蔦の牢は壊れる。


 ノゾムたちの体は宙に舞った。


「うわあああああああっ!!?」

「なんだこれえええええええっ!!」

「うはははは! おもしれー!!」


 楽しんでいるのはラルドだけである。ノゾムとエレンは絶叫した。一緒に飛ばされているヴィルヘルムは、目を丸めて固まっている。


 なんて風だ。オスカーの放つ『サイクロン』を味方識別(マーキング)を付けずに受けたら、こんな感じになるだろうか。


 イエティの放つ『とっぷう』よりもすごい。ぐるぐると渦巻く巨大な竜巻から逃れられず、ノゾムたちは空中をぐるぐる回る。


《あはははは! ぐるぐる〜!》

《ちょ、ちょっとシルフ、やりすぎですよ!》


 怒っていたはずのドリアードも引いている。枝を上下させてアワアワするドリアードに、シルフは可愛らしく首をかしげた。


《どうして? 面白いものを見せてくれるって言ったの、彼らだよ?》


 シルフはそう言ってクスクス笑う。……もしかして、シルフも怒っていたんだろうか。アトラスを傷つけようとした、人間たちに対して。


 傷つけようとしたのはヴィルヘルムだけなのにな〜と理不尽に感じつつシルフを見て、ノゾムはすぐに「違う」と悟った。


 ニコニコと笑うシルフからは、怒りも嫌悪も感じない。むしろ、新しい玩具を手に入れた子供のようである。


 ノゾムは口元を引き攣らせ、共に宙を舞っているラルドに問いかけた。


「シルフって、他のゲームじゃどういう性格なの?」

「ん? そうだなぁ……。よくあるのは、『悪戯(いたずら)好きな子供』かな」


 なるほど。まさにあのシルフはそんな感じである。ケタケタと笑い転げる様子は、まさに悪童だ。


「冷静に言ってる場合かよ! どうするんだよ、この状況!」


 同じく共に宙を舞っているエレンが泣きそうな顔をして叫ぶ。


 確かに、どうしよう、この状況。


「さすがのヴィルヘルムもビビってるみたいだしよ〜! 見ろよ、あのムッツリ顔! 意外と高いところが苦手だったりして? ざまぁみやがれだぜクソ野郎!!」

「エレン……」


 そんなことを言っている場合でもないだろうに……。


 しかし黙り込んだままのヴィルヘルムは気になる。まさか、本当に高所恐怖症なのだろうか。ちょっぴり心配に思っていると、ヴィルヘルムはちらりと空を見上げ、それからシルフに目を落とした。


 その口元が、ニヤリと動く。


「おいおい、こんなものかよ? 風の精霊ってのは大したことねぇな!」

《はあ!?》

「こんな弱い風……ふぁぁ、欠伸が出るぜ」


 なんか急にディスり始めたヴィルヘルム。ノゾムたちはギョッとした。シルフは先程までの楽しそうな顔から一転、ぷっくりと頬を膨らませてヴィルヘルムを睨む。


《オイラの風が弱いだって?》

「ああ、弱い弱い。こんなの、そよ風レベルだぜ」


 何を言う。大人の男を4人も、軽々と吹き飛ばすほどの風だぞ? そよ風レベルなわけがない。


 体がアバターだから余裕があるだけで、現実でこんな竜巻に巻き込まれたら恐怖以外何も感じないだろう。


 ヴィルヘルムは嘲るようにシルフを見下ろす。


「まさか、これが全力ってわけじゃないだろ? 風の精霊さん」

《……当たり前だろ! オイラの全力を見せてやる!》

「え、ちょっ!?」


 風力が増す。竜巻がより巨大なものに変化した。ノゾムたちの体はそれに伴って、さらなる上空へ飛んでいく。


 ヴィルヘルムが何を考えているのか分からないが、ノゾムは全力で叫びたかった。


他人(ひと)を巻き込むなぁぁぁぁッ!!」

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