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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第5章 スポーツの国ブルーと密林の国アンディゴ
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悪童Ⅳ

 とにもかくにも、ヴィルヘルムがエレンを離したのはラッキーだ。ノゾムはすぐさまエレンのもとに駆け寄って、アトラスの足から引き離した。


 ヴィルヘルムに浚われるのは相当怖かったのだろう。エレンは涙目でノゾムにしがみついてきた。ちょっと邪魔だ。


「おいノゾム、エレン、大丈夫かよ!?」

「ラルド!」


 後ろから追いかけてきていたラルドが到着した。ラルドはアトラスの足を見て、目をまん丸に見開いた。


「近くで見ると、なおさらでけぇな」

「そんなことはどうでもいいから、早く逃げるよ!」

「お、おう。……でも、ヴィルヘルムは何をしてるんだ?」


 「知らないよ」と返そうとして、ノゾムは振り向き、あんぐりと口を開けて固まった。ヴィルヘルムはアトラスの足に向かって、『さみだれ突き』を放っている。


 それもアトラスの小指の、爪の付け根を狙って……有言実行かよあの男!?


 アトラスの皮膚は分厚い。当然、足も分厚い。だけど小指の爪を重点的に攻撃されて……さすがに痛みが走ったのだろう。アトラスは大きな悲鳴を上げた。鼓膜が破れるかと思うほどの声量だ。


 攻撃された足を抱えて、アトラスはその場で飛び跳ねる。アトラスがケンケン(・・・・)するたびに、地面が激しく揺れ動いた。ジャングル中から獣の鳴き声や鳥の羽ばたく音が響く。


 タンスの角に小指をぶつけるとめちゃくちゃ痛いけど、アトラスもそうなのだろうか。


 地面がグラグラ揺れる中、ゲラゲラ笑うヴィルヘルムは本当に悪辣だ。あのまま踏まれて潰れてしまえばいいのに。


 飛び跳ねるアトラスの足元では、植物が生まれて、すぐ潰されて、を繰り返している。緑色の精霊たちは大慌てだ。どうやらこの状況は、彼らにとって良くないことらしい。アトラスを必死になだめようとしている。


 しかし精霊たちの声は、アトラスには届かない。アトラスの耳は遥か上空にあるからだ。精霊たちはしょんぼりと肩を落として、その怒りを元凶たる人間に向けた。


 ヴィルヘルムのもとに緑の精霊たちが集まってくる。耳元でわーわー喚かれて、ヴィルヘルムは迷惑そうに顔を歪めた。


「なんだお前ら、邪魔だ!」


 あろうことか、ヴィルヘルムは精霊たちを蹴飛ばした。小さな精霊たちはあっけなく飛んでいって、地面に転がる。精霊たちの怒りは、頂点に達した。



《愚かな人間どもめ……》



 ざわざわと、木の葉が擦れあう音と共に、不思議な声が聞こえてきた。霧の向こうから聞こえてくるような、くぐもった声だ。


 緑の精霊たちが一箇所に集まって、地面に溶けるように消えてしまう。かと思いきや、その場にひょっこりと小さな芽が生えた。その芽はあっという間に成長して、巨大な樹に変貌した。


 樹の表面には、大きな顔がある。左右に大きく裂けた口と、大きな2つの穴。穴の中には凶悪に輝く真っ赤な目。


 ――人面樹だ。アトラスほどとはいかなくても、その全長はジャングルから突き出るほどに大きい。


 ノゾムたちはあんぐりと口を開けて、巨大な人面樹を見上げた。ヴィルヘルムも同様だ。ただし、ヴィルヘルムの口角はわずかに上がっている。


《よくも我らを足蹴にしおったな。このドリアード、決して許しはせぬ!》


 怒りに満ちた声と共に人面樹の目がカッと見開かれる。大きく広がった枝からは木の葉が待った。


 ……足蹴にしたのはヴィルヘルムなんだけどな。


 ノゾムたちにまで言っている気がするのは、気のせいだと思っていいだろうか?

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