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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第5章 スポーツの国ブルーと密林の国アンディゴ
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悪童

「キャッキャッキャッ!」


 女の人の笑い声のような、甲高い声が辺りに響く。どこから聞こえるのかと思ったら、どうやらライオンのようなハイエナのような、謎の魔物が鳴いているらしい。


 そういえば、ハイエナの鳴き声は人の声に似ているそうだ。この魔物はハイエナなのだろうか。ライオンみたいなタテガミを持っているけれど。


 エレンの胸ぐらを掴んだままのヴィルヘルムは、謎の魔物を振り返るとニヤリと笑った。


「落ち着けよコロコッタ。心配しなくても、存分に遊んでやるよ」


 魔物の名前はコロコッタというらしい。


「コロコッタ……。たしか、ヨーロッパの伝承に出てくる怪物だったかな?」


 木の後ろに隠れながら、リオンが青い顔をしてそう言った。


「人や、他の動物の呼び声を真似るのがうまくて、仲間だと思わせて誘い込み、喰らうという……」

「ひえ〜っ、おっかねぇな!」


 ラルドは顔を引き攣らせる。ノゾムはコクコクと頷いた。コロコッタは「オッカネェナ!」とラルドに似た声で繰り返した。オウムか。


「それ以上におっかないのが、目の前にいるけどね……」


 ヴィルヘルムを胡乱げな目で見ながら、ナナミはじりじりと後ろに下がる。それに気付いたヴィルヘルムは何故かVサインを見せた。片手ではエレンの胸ぐらを掴んだままである。


 エレンは暴れに暴れた。


「なんだよテメェ! 誰だよ! 離せよ!」

「いきの良い盾だなぁ。よーし、その調子でコイツの気を引き付けておいてくれ」

「え、ちょ!」


 ヴィルヘルムはエレンを投げた。コロコッタに向かって。コロコッタは飛んでくるエレンを頭から噛み砕こうと口を開ける。ノゾムはとっさに弓を引いた。矢はコロコッタの左目を射抜いた。


 コロコッタが悲鳴を上げてよろめく。

 エレンの頭突きがコロコッタを襲った。


 ヴィルヘルムはちょっぴり驚いた顔をして、ノゾムを見た。


「へぇ、良い腕だな」

「それは、どうも……」


 褒められても嬉しくはない。


「テメェーーッ!! いきなり何しやがるんだよー!!」


 がばりと身を起こしたエレンは全力で叫ぶ。頭突きをしたダメージは大してないようだ。


 コロコッタのほうも、ダメージを受けてはいるものの、生きている。身を起こすコロコッタを見てエレンは絶叫した。ヴィルヘルムはそんなエレンを見て、ケラケラ笑っている。


 ナナミは口元を引き攣らせた。


「相変わらずの極悪っぷりね……」

「エレン、早くそこから離れて!」

「うおおおおおっ! 大丈夫だ、お前らはオレが守る!」


 エレンは『聖盾』を張った。絶叫を上げたばかりだというのに、切り替えが早い。ヴィルヘルムが「ほう」と呟いた。


「その気持ちはありがたいけど! 今はその人がいるから――」

「そのまま押さえとけよー!」

「うわああああっ!!?」

「ああ、言わんこっちゃない……」


 『聖盾』を張ったエレンごと(・・・・・)槍でコロコッタを貫こうとするヴィルヘルム。エレンはとっさに身を翻して槍を避けたが、その顔は信じられないものを見るようだった。


 槍はコロコッタの口の中に深々と突き刺さり、コロコッタはわずかに震えたのち、青白い光となって消える。


 静寂ののち、腰が抜けてしまったのか、エレンはその場にへたり込んだ。


「押さえとけって言ったのに……。まあいいか、無事に倒せたし」


 ヴィルヘルムは飄々と言い放つ。なんという言い草だろうか。エレンはヴィルヘルムを見上げて、はくはくと口を開けたり閉めたりしている。文句を言いたいけど、言葉が出てこないようだ。気持ちは分かる。


 ヴィルヘルムはエレンを見た。その目はギラギラと輝いている。すんごく嫌な予感がした。


「な、なん、なんだよ?」

「いや〜。思っていた以上に、本当にいい盾だったから。もう少し付き合ってくれないかな〜って」

「付き合うって何だよ!? モンスターは倒しただろ!?」


 まったくである。ヴィルヘルムを追いかけていたコロコッタは、無事に退治された。助けてもらったヴィルヘルムはむしろエレンに感謝すべきである。……が、少し疑問がよぎる。


 ヴィルヘルムは超強いのだ。バトルアリーナでは他の参加者たちを玩具にするほど。たった1人で、ドラゴンも倒したといわれている。


 そんなヴィルヘルムが、どうしてコロコッタから逃げていたのか。コロコッタは確かに怖い怪物だけれど、ヴィルヘルムが戦わずに逃走をはかるほどとは思えない。


 ヴィルヘルムは肩をすくめた。


「俺が倒したいのは、コロコッタじゃねぇよ」


 ヴィルヘルムはそう言って、空を見上げた。生い茂る草木の向こう側にあるのは、巨大な人間のふくらはぎだ。


 古の時代からこのジャングルに住まう巨人――アトラスである。


「たっっかい所から見下ろしているアイツを、地面に平伏させたら面白そうだと思わねぇ?」


 瞳を輝かせながら、悪戯を思いついた子供のような顔で、ヴィルヘルムはとんでもないことを言い放った。

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