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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第5章 スポーツの国ブルーと密林の国アンディゴ
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エレンとリオン

 翌日は朝から『夜』である。そして今日も今日とて、オスカーは午前中は塾に行っている。そのアバターを使ってログインするのは、オスカーの兄のリオンだ。


 ガンつけるエレンを前に、リオンはガタガタと青い顔をして震えている。ノゾムとラルドは、とりあえず彼らを引き離すことにした。


「離せやノゾムぅ。コイツなんだろォが、オレがフレデリカたちに追放された元凶はよォ!」

「いや、元凶はエレンだけどね?」


 相変わらずの他責思考なエレンは認めたがらないが、何度でも言おう。フレデリカに嫌われたのはエレンの自業自得だと。


 リオンはただカジノで女の子をナンパして、楽しくおしゃべりをしていただけだ。そのこと自体は、何ら悪いことではないと思う。たぶん。


「オレにはコイツをぶん殴る資格がある!」

「そんな資格は絶対にないし、そんなことをしたらエレンとはここで別れるよ?」

「……」


 そんな捨てられた犬みたいな目で見るんじゃない。そもそもお前は、勝手について来ているだけだろうに。


 エレンとリオンなら、ノゾムは断然リオンの味方をする。今までに培ってきた信頼の差だ。だから「なんでみんなオレに厳しいんだ……ッ」と膝をつくのはやめなさい。


 ノゾムはため息をついて、ポカンとしているリオンを見た。


「すみません、リオンさん。リオンさんの意見も聞かずに、勝手にこの人を連れて行くことになってしまって……」

「あ、いや。一応、弟から話は聞いてきてるから。いきなり睨まれて、ビックリはしたけど」

「リオンさんに危害を加えるようなら、責任を持ってもといた場所に捨ててきます」

「彼は犬か猫なのかな?」


 リオンは苦笑いを浮かべて「気にしなくていいよ」と言った。


「俺だって、君たちに拾ってもらったようなものなんだから」

「あはは、確かに。いい拾いものしたよな〜」

「なんだよ! オレだっていい拾い物だろ!」


 ケタケタ笑うラルドに、エレンは反論する。「オレより優秀な盾役なんかいないぞ!!」と。


「うん、それも弟から聞いたよ。味方を守りながら冷静に戦況を見て、的確な指示を出してくれるんだってね。すごいなぁ。俺はモンスターを前にすると逃げ出しちゃうからなぁ」

「……」


 心底感心したように言うリオンに、エレンはまん丸に目を見開く。


「な、なんだよ。気持ち悪いやつだな。オレを持ち上げたって無駄だぞ。オレはお前を許す気なんかないんだからな!」

「だから許すも何も、エレンの自業自得なんだってば」


 いい加減に認めようよ。


 呆れた顔をするノゾムをよそに、リオンはきょとんとした様子で、睨みつけてくるエレンを見た。


「いや、本当のことだよ。俺はモンスターに立ち向かうなんて、絶対に出来ないから。おかげで俺が出てくるとノゾムくんたちの冒険がストップしてしまうんだよね。それがいつも申し訳なくてさ……」


 しょぼんと項垂れるリオンに、ノゾムは目を丸めた。確かに最近ノゾムたちは、リオンがいる時には冒険も採集もしていない。モンスターと遭遇した時に、リオンが戦えないからだ。


 だけど、誰だって得意不得意はある。リオンが冒険できないことなんて、ノゾムたちはとっくに気にしなくなっていた。


「リオンさん……」

「ふうん? だったらオレが守ればいいんじゃねぇの?」


 エレンは仏頂面のまま言った。ノゾムたちはギョッとした顔でエレンを見た。エレンは「なんだよ」と顔を歪める。


「いや、なんだよも何も、お前、リオンのこと嫌ってるじゃん。嫌っている相手のことを『守ってやる』って、どういうこと?」


 困惑した顔で問いかけるラルドに、エレンはフンッと鼻を鳴らした。


「オレは超有能な(・・・・)盾役だからな。たとえ嫌いな奴だって、同じパーティのメンバーなら、完璧に守ってやるさ。あの腐れピンクマリモたちだって、オレはちゃんと守ってたんだぜ?」


 そのピンクマリモたちからの散々な扱われようを思い出したのか、エレンは苦々しく顔を歪める。耐えきれずに逃げ出してきてしまったが、それでもモンスターとの戦闘では、彼は真面目にその役目をこなしていたとのこと。


 だからこそピンクマリモのあの人はエレンを捜していたのだろう。不真面目な盾役なら、とっくに捨てていたと思う。あのピンクマリモは、そういう容赦のない男だ。


 エレンは、これは盾役としての矜持なのだと言う。


 だからリオンのことも、ムカつく相手ではあるけれど、ちゃんと守る、と。


 リオンは感激したようにエレンを見た。


「君は本当にすごい人だね……!」

「だっ、だからオレを持ち上げようとするんじゃねぇ!!」


 オレはお前なんか嫌いなんだからなー! と叫ぶエレンだが、キラキラと目を輝かせるリオンはまったく気にしちゃいない。リオンは胸の前で拳を握った。


「モンスターは怖いけど……。君がそこまで言ってくれるなら、少しだけ頑張ってみようかな?」

「だ、大丈夫ですか、リオンさん? この国のモンスター、けっこうヤバいんですけど」

「オレが守るんだから問題ない」


 エレンは堂々と言う。エレンはリオンの逃げっぷりを知らないからそんなことが言えるんだ。


 あのリオンを身を挺して守るのは……ちょっと難しいんじゃないかと思う。

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