精霊探索
光る小さな雪だるまみたいな姿の精霊(仮)。姿を見ることができたのは偶然だろうな、きっと見つけるのは困難なのだろうな、……と思っていたのだけど。
「あ、またいた!」
ラルドの声にびくりと飛び跳ねる土色の精霊(仮)。まん丸に見開いた大きな瞳でこちらを見たかと思うと、すぐに姿を消してしまう。
精霊(仮)は、ジャングルのいたるところでその姿を見ることができた。
木の葉の裏に。石の陰に。水辺の端に。視界の端で何かが光ったと思ったら、たいてい精霊(仮)だ。それくらいに、見る頻度が高い。
精霊(仮)はどれも丸くて大きな頭と丸い体をしていて、まるで雪だるまみたいだ。だけど木の葉の裏にいたやつは頭のてっぺんが葉っぱみたいになっているし、水辺にいたやつは下半身が魚みたいになっている。今、石の陰から出てきた土色のやつは、特別目立つ特徴はないけれど、無表情で意思の固そうな顔をしている。
「今のは石の精霊かな? それとも土の精霊か?」
「こんなにすぐ消えるんじゃ、仲良くしようもないわよね……」
【精霊術師】への転職条件は、『精霊と仲良くなる』こと。どうやったら仲良くなれるのかは、これまた謎である。
小首をかしげていると、どこからともなく再び『クスクス』という笑い声が聞こえてきた。最初に見かけた、昆虫の羽根のようなものを背中に生やした黄緑色の精霊(仮)だ。ラルドはやつを「風の精霊」と呼んでいる。
本当に本物の風の精霊かどうかはまだ分からないけれど、どうやらあの子は、ノゾムたちのことが気になっているらしい。付かず離れずの距離を取ってついてきていて、ノゾムたちの様子を見ている。簡単にその姿を現さないのは他の精霊(仮)と同じだけれど、他のに比べて好奇心が旺盛なのかもしれない。
「あいつと仲良くなれりゃ、【精霊術師】になれそうなんだけどな〜」
風の精霊(仮)がノゾムたちに興味を持ってくれているのは確かだ。だけど、距離を縮めようとはしてくれない。警戒心が強いのだろう。
精霊探しをしている間にも、モンスターはわんさか湧いてくる。
石化能力を持つコカトリス。人食い獅子のマンティコア。意地悪な美しい女の姿を持つ怪鳥ハーピー。そして、トロルやサイクロプスといった、巨人たち。
てっきりこのジャングルにいる巨人はアトラスだけかと思っていたのだけど、実は他にも巨人はたくさん住んでいた。だが、アトラスほど異常に大きい個体はいない。やっぱりあのアトラスは別格なのだろう。
どのモンスターも厄介だし、とても強い。エレンがいなければノゾムたちには太刀打ちできなかっただろう。エレンがいるからこそ、大変だけれども倒すことができている。
そのことに感謝はしている……けども、ノゾムはそれを素直に出せない。フレデリカも同じだったんだろうか。だってあのドヤ顔を見ていると何というかゴニョゴニョ。
まあ、とにかくそんなわけで、ノゾムたちはモンスターに邪魔をされつつも、精霊探しにいそしんでいたのである。
「あ、またいた。葉っぱが生えたやつだ。植物の精霊かなぁ?」
「他のやつはいねぇのかな。炎の精霊とか」
「木々の近くに炎があったら、危ないんじゃないのか……?」
ラルドとエレンの会話に、オスカーが訝しげな顔をしつつ口を挟む。
そうなのだろうか。そうかもしれない。湿気ったジャングルの木々が簡単に燃えるかは分からないけれど、万が一があったら大変だ。
どうにかして精霊(仮)たちと仲良くなる方法はないかと思案するけれど、これといった妙案は見つからず。離れたところからついてきている風の精霊(仮)との距離は縮まらないままに、ノゾムたちはジャングルの中にある2つ目の村に到着した。
最初の村よりも、大きな村だ。木材や葉で作られたツリーハウスがたくさんある。顔や腕にカラフルなペイントをつけた人たちが多く住んでいた。
地図によれば、ここはエリオトロープという名前の村らしい。王様がおわす村だ。つまりはこの国の首都である。
「王様に会いに行くか?」
「そうだね」
ラルドの問いかけにノゾムは頷く。たぶんきっと、この国の王様もノゾムの父親ではないだろうけれど、せっかくなので訪ねてみよう。
村人に聞いた話によると、王様はひときわ大きなツリーハウスに住んでいるらしい。入口に大きなタペストリーが飾られている家だ。王様の家、というよりは、ちょっと豪華な村長の家、といった風情の家である。
王様の家には、部下と思しき男と女がいた。どちらも顔にペイントを塗っていて、不思議な文様が描かれた布の服を身に着けている。
2人ともザ・ジャングルの少数民族みたいな格好をしているけれど、目の前にあるのは薄型のパソコンだ。仕事中だったようだ。邪魔をしてしまって申し訳ない。
「何かご用ですか?」
「あ、その、王様って……」
「主様は出掛けております」
まさかの留守である。いや、もう驚くまい。この世界で出会った王様の中に、おとなしく玉座に座って待っていた者など1人もいなかった。
自由奔放すぎるだろ。
王様なのに。
「間もなく戻ってこられると思いますが」
「え、そうなんですか? それなら待っていてもいいですか?」
「騒がずにいてくれるのであれば、構いません」
それはもちろんだ。仕事の邪魔をするのは、ノゾムとて本意ではない。
2人の邪魔にならないように、ノゾムたちは家の外で待っていることにした。なんで王様に会わなければならないのか知らないエレンだけが、先ほどから首をかしげている。
「アンディゴの王様って、どんな人かしら?」
「サバイバルの国の王だからなぁ。野性味の溢れた、筋骨隆々な男とか?」
「ヒゲは生えてるかな!?」
「またヒゲ」
ラルドはどうしてもヒゲを生やした王様に会いたいらしい。王様にヒゲがなくても、神様がふさふさのヒゲを生やしていたんだから、もういいじゃないか。