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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第5章 スポーツの国ブルーと密林の国アンディゴ
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密林の中の謎の生き物

 獅子と山羊と鷲と蛇とが合体したような奇妙な怪物、キマイラ。獅子の口からは火炎が飛び出し、山羊は嵐と雷を呼び、尻尾の蛇は強力な毒を持つ。


 毒を受けたらすぐに解毒しなければ危ないし、火炎も雷も威力がえげつない。かといって、それらだけに注意していると鷲の鋭い爪に引き裂かれてしまう。


「キマイラに鷲の要素ってあったっけ?」

「いいや」


 小首をかしげるラルドにオスカーは首を横に振る。ギリシア神話に登場する本来のキマイラは、獅子と山羊と蛇だけのはずらしい。


 だが出典によって、その姿はまちまちだ。最も有名なのはおそらくベースが獅子で、その背中から山羊の頭が生えていて、尻尾が蛇になっている姿だが、山羊がベースになっているものや、蛇が竜になっているものもあるらしい。


 竜の翼が生えている姿もあったり、もはや何が何だかである。


 角を生やした山羊の頭は明らかに雄山羊のはずなのに、実はメスだったりもするらしいし、本当に奇妙奇天烈この上ない。


 この怪物にあやかって? 複数の生物の要素を組み合わせた存在を合成獣(キメラ)と呼んだりするのだとか。


 さいわいにも火炎も雷も『聖盾』で防げる。『聖盾』は一度壊されると再び張れるようになるまで時間がかかるが、『聖盾』はラルドも使える。2人で交互に盾を張りつつ、爪や蛇の攻撃はエレンが防ぎ、毒状態になった時にはすぐにノゾムが『リフレッシュ』で解毒する。


「よし、よし、だんだん分かってきたぜ。コイツらは頭が複数あるけど、1匹ずつしか攻撃してこない。獅子が火炎を放っている時に山羊は雷を呼ばないし、蛇も動かねぇ。あと、どうも背中に弱点があるみたいだ。ラルドの剣が当たりそうになったとき、全力で回避してたからな」

「なるほど」


 エレンの言葉にオスカーは納得する。


「ギリシア神話のキマイラは背中に矢を受けて倒された。そこから来ているんだろうな」


 攻撃パターンと弱点が分かれば、あとはドラゴンの時と同じだ。エレンの合図に合わせて、ひたすら攻撃と回避と防御を繰り返せばいい。


 キマイラのHPもなかなか多いみたいで、倒すまでには時間がかかったが、問題なく倒すことができた。


「今回もオレのおかげで勝てたな!」


 ふふんとドヤるエレン。フレデリカたちといた時も、毎回こんなんだったんだろうか。


 ナナミが安堵の息を吐いた。


「おじさんが『ドラゴンくらい倒せなきゃ』なんて言うからどんなものかと思ったけど……この調子なら大丈夫そうね」

「アトラスはさすがにヤバそうだけどな」

「オレはアイツと戦いたい!」

「いやいやいや」


 キラキラした顔で、遠くに見えるアトラスの大きな足を指差しながら言うラルドに、ノゾムは首を横に振る。


 確かにキマイラは倒せたけれど、それとこれとは話が別だ。あの巨人は、どう考えても別格だろう。


「他にも厄介な怪物がいるかもしれないし……」


 その時だ。


 どこからともなく、『クスクス』という笑い声が聞こえてきた。


 鳥や獣や虫の鳴き声に紛れて、木々の隙間から、小さな声で『クスクス』と。


「……今、誰か笑った?」

「は!? ちょっとやめてよ!」


 ビクリと身を跳ねさせるナナミ。他のみんなも、聞こえなかったみたいだ。


 だけど、


 ――クスクス。


 木の葉と木の葉が擦れ合う音に紛れて、確かに聞こえる。


「ほら、やっぱり」

「おお! 今のはオレも聞こえたぜ!」


 ラルドが声を上げる。エレンとオスカーも「たしかに」と頷いた。ナナミは眉間にしわを刻んでいる。


 どこから聞こえてくるのかは分からない。子供の声のようにも、女の人の声のようにも聞こえる。高い声だ。


 近くに他のプレイヤーがいるのだろうか。そう思ってきょろりと周囲を見渡すと、小さな黄緑色の光の玉が、スーッとノゾムの目の前を横切った。


 光の玉の中には、変な物体が入っている。頭が大きくて丸く、胴体も丸い。光る小さな雪だるまみたいな姿。体の色は光と同じ黄緑色。背中に昆虫のような羽根が生えている。


 何だこれ、と凝視していると、また『クスクス』と笑い声が聞こえた。光る黄緑色の雪だるまからだ。雪だるまには小さな手足が生えていて、その両手は口元に当てられていた。


 ……まさか、この雪だるまが?


「なに、こいつ……」

「雪だるまのオバケかな?」

「オバケなんかいるわけないだろ」


 オバケ説はオスカーがすぐさま否定した。まあ、雪だるまのオバケって何だよって感じだしな。雪だるまだったら白だろうし。


「じゃあ妖精か?」

「妖精だったら、小さな人間の姿をしているんじゃないの?」


 確かに、ファンタジー小説の挿絵などに登場する妖精といえば、羽根の生えた小さな人間だ。決して、羽根の生えた小さな雪だるまではない。


 エレンが怪訝そうな顔をして「うーん」と唸る。


「どっちかってーと、妖精っつーより……」


 エレンが最後まで言い終わる前に、光る雪だるまはパッと姿を消した。慌てて探すけど、もうどこにも見当たらない。


 笑い声は消え失せて、再び鳥と獣と虫の声が聞こえる。キツネに抓まれたような気分だ。マジで何だったんだろう、あの雪だるま。


「……そういや、このゲームには【精霊術師】という職業もあったな」


 ふいにオスカーが思い出したように言った。

 そういえば、とノゾムたちは目を瞬かせてオスカーを見た。


「転職条件は確か……『精霊と仲良くなること』」

「さっきのアレが精霊だっていうのか?」

「それは分からないけど」


 精霊という存在がどんな姿をしているのかは、誰も知らない。つまり、あの黄緑色の光る雪だるまが精霊なのか、違うのか、誰にも判断はできない。


 エレンが「ふーん」と呟く。


「【精霊術師】か。レアな職業だな」


 レアな職業ということは、非常に便利なスキルを覚えるということである。


「でも、仲良くなろうにも、あの雪だるまはどこかに行っちゃったわよ?」

「……また出てくるかな?」

「どうかしら?」


 出てこなかったら、その時はその時だ。せっかくなので、探しながら進もうという話でまとまった。


 魔王の復活イベントの前に、持てるスキルはできるだけ増やしておいたほうがいい。このアンディゴで生き残るためにも、きっと。

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