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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第1章 はじまりの国ルージュ
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腹が減っては何とやら

 ノゾムたちはカルディナルに戻ってきた。随分と前を歩いていたジェイドは先に着いていて、街に入る門のところに立ってこちらを見ている。


 眉間には渓谷のように深いしわ。三白眼がより鋭く尖って、とても怖い。ノゾムは思わず目をそむけた。


「これからどうするよ?」


 ジェイドはジャックに問う。ジャックは「そうだなぁ」と言いながら、頭を掻いた。


 ユズルは本当に置いてきた。「口論に飽きたら戻ってくるだろ〜」とは、ジャックの弁である。


「覚えたスキル……『罠作成』も練習しておいたほうがいいだろうし、他にも習得したほうがいいスキルもあるよな。ノゾムくん、『戦士』には転職してみた?」

「や、やっぱり弓は向いていないってことですか!?」

「いやいや。戦士の『ブースト』は弓でも使えるから、覚えておくと便利だから」


 一度でもその職業に就けば、ファーストスキルは習得することができる。そんな基本的なことが、ノゾムの頭からは抜け落ちていた。


 ラルドがよく使う『ブースト』。

 あれは、ノゾムも使うことが出来るものなのである。


「……転職って、どうやったらできるんでしたっけ?」

「そこから!?」


 ジャックは大袈裟に仰け反った。ジェイドも目を丸めてノゾムを見ている。ノゾムは恥ずかしさのあまりうつむいた。


「えーと、転職は役所でするんだけど、そうだなぁ……一緒に行くか? んで、その後は『罠作成』の練習をして……ちょうどラルドの説法も終わるだろうし……」


 ジャックはブツブツと呟きながら計画を立てていく。

 しかし申し訳ない。大変申し訳ないことなのだが、


「あの、その前に、何か食べてもいいですか……?」

「「…………」」


 ノゾムのお腹が空腹を訴えて切なく鳴く。

 ゲームの中なのにお腹が空く意味が、やっぱりさっぱり分からない。


「……んじゃまあ、まずは腹ごしらえっつーことで。オススメの店があるんだよね。そこに行こうか」


 羞恥心のあまり地面深くに埋まってしまいたい気分でいるノゾムに、ジャックはそう提案した。肩も声も震えているのは気のせいではないだろう。ジャックはめっちゃ笑っている。


 ジェイドは肩をすくめた。


「俺はもう抜けるぞ」

「え、マジで?」

「もともとユズルに付き合って来ただけだし。置いてきちまったけど」


 ユズルに付き合ってって……ジェイドとユズルは実は仲良しさんだったのだろうか。


 首をかしげるノゾムに「じゃ」と告げて、ジェイドはスタスタと去っていった。


「……それじゃあ、行こうか」

「はい」




 ***




 広い街の中をジャックに先導されて歩いていく。

 街の中のことは未だに詳しく知らないが、『ギルド街』や『職人街』のように大まかに区域分けされているらしい。


 その中でも主に食品を取り扱う店が立ち並ぶ区域がある。八百屋や魚屋、肉屋などの食料店や、食事処、酒場など。職人街などにも食事処は一応あったけど、一番多く集まっているのはこの『食品街』だ。


 食品街を歩いていて、ノゾムは既視感を覚えた。


 初めてこのゲームにログインした日、人でごった返す広場から抜け出した先にあった場所じゃないか。インドの本格的なカレー屋さんや、ケバブのお店。焼きそば屋さん。相変わらず世界観が謎な区域である。


 ジャックが入ったのは、こぢんまりとした洋食屋さんだった。

 ここも、見覚えがある。


「いらっしゃいませ〜! ……あ、ジャックさんじゃないですか〜!」


 カウンターの向こうでフライパンを振っている、若葉色の髪の女の子。

 おしゃべり大好きな料理人、レイナだ。


「やあ。2人なんだけど、いいかな?」

「もちろんですよ。空いている席に……って、ああ! ノゾムさんじゃないですか!」

「え、あ、俺のこと覚えて……?」

「もちろんですよ! 捜し人の件、気になってたのです。あれからまったく音沙汰がないんですから、まったくもう!」


 レイナはどうやら、ノゾムを気にかけてくれていたらしい。申し訳ないやら、嬉しいやらで、ノゾムはちょっぴり照れた。


「知り合いだったのか?」


 ジャックが目を丸めて尋ねてくる。

 ノゾムは頷いた。


 店の中は相変わらず繁盛しているようで、ほとんどの席が埋まっている。ノゾムたちはカウンターの奥に座った。


「オスカーさんは来てないんですね」


 ノゾムにプレイヤー検索のことを教えてくれた、黒髪メガネの青年を思い浮かべながら問うと、レイナは「いつも来てるわけじゃないですから」とお冷を用意しながら答えた。


「リアルがお忙しいみたいですよ。学生さんで、しかも受験生らしいですから。勉強の息抜きをかねて遊びに来ているそうです」

「そうなんですか……」


 受験生というと、中学3年生か、高校3年生だろうか。

 中学受験を控えた小学6年生という可能性もあるが、大人びているオスカーが小学生とは思えない。


「受験かー。大変だねー」


 カウンターに頬杖をつきながらジャックが言う。

 レイナはにっこりと笑った。


「そうですね、ジャックさんと違って」

「んー? それはどういう意味かな?」

「だって、こんな短期間でレベルがカンストしているなんて、どう考えてもジャックさんは引きこも――」

「待って待って! それ以上は俺を含め、多くのトッププレイヤーの心を抉るから!!」


 慌ててレイナを制止するジャック。

 ノゾムにはさっぱり意味が分からない。


「長期休暇中の社会人、という可能性もなきにしもあらずだろ?」

「あら? そうだったんですか?」

「俺は違うけども」

「じゃあやっぱり引きこもり――」

「頼むから現実を直視させないでくれ」


 ジャックは苦い顔をして耳を塞ぐ。レイナはクスクス笑った。ノゾムには、やっぱり意味が分からなかった。


 レイナの目がノゾムに向く。


「それで、コーイチさんという方は見つかったのですか?」

「いや、それが全然……。そもそもコーイチはリアルでの名前で、ここじゃ別の名前を使っているかもしれないんですよ」

「そうなんですか……」


 レイナは顎に手を添えて「うーん」と唸った。

 やっぱり、手がかりがリアルの名前だけとなると、探すのは相当難しい。


「ダメ元……になるでしょうが、王様にお願いしてみてはいかがですか?」

「王様?」

「はい。この『はじまりの国ルージュ』の王、アガト様です」


 ノゾムは目をぱちくりさせた。


「王様なんていたんだ……」

「そりゃまあ、お城がありますし」


 カルディナルの北には朱色の城が建っている。だけどノゾムは、アレは『中世ヨーロッパ風』を象徴する、一種のハリボテのようなものだと思っていた。

 実際に王様が住んでいるとは、考えたこともなかった。


「王様と兵士たちは、このゲームの運営の人たちなんですよ」


 プレイヤーたちが問題なくプレイを楽しめるように、管理・運営をしている人たち。その中でも特に各国の『王様』は、アルカンシエルの開発の中心メンバーであり、責任者なのだという。


「アガト様は『ルージュ』を担当している責任者ってことですね。運営には各プレイヤーの情報……どこからアクセスしているか、誰が利用しているか、などの情報が記録されているはずです」

「じゃあ、それを見せてもらえば……」

「ええ。ですが、個人情報を簡単に開示してくれるはずもありません。そういうものの扱いはすごく厳しいはずですからね。でも、身内だと証明できれば、もしかしたら」


 ノゾムは眉間にしわを刻んだ。


「ダメ元でも、可能性があるなら……」

「それじゃあ、腹ごしらえが済んだら城に行ってみるかね。レイナ、俺、カツカレー」

「かしこまりました〜!」

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