表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第5章 スポーツの国ブルーと密林の国アンディゴ
229/291

密林に棲まう怪物

 このゲームでは、各国にそれぞれテーマが設けられている。


 ルージュは『チュートリアル』

 オランジュは『バトル』

 ジョーヌは『謎解き』

 ヴェールは『モノづくり』

 ブルーは『スポーツ』


 そしてこの密林の国アンディゴに設けられたテーマが『サバイバル』。弱肉強食の恐ろしい国である。


 役所のおじさんが言う「ドラゴンくらい倒せなきゃ生きていけない」というのは、脅しでも何でもなく純然たる事実なのらしい。


 そういえばルージュの兵士に「このゲームで何ができるのか」と尋ねたとき、アンディゴのことだけは教えてもらえなかったっけ。


 たとえ教えてもらったとしても、あの時のノゾムなら絶対にこの国に近付こうとは思わなかっただろう。


 生きるか死ぬかのサバイバルの国。広大なジャングルの中には、巨人アトラス以外にもとんでもない怪物がいるという。


「でも、この国にある村は全部、ジャングルの端に存在するんだな。『ヴィオレ』が浮上するとされる北の海に一番近いのはプールプルという村か。ジャングルに入らないように遠回りをして向かえば、怪物にも遭遇せずに済むんじゃないか?」


 雑貨屋で買ったばかりの地図を広げながら、オスカーがそう提言する。


「えー? 怪物と戦わねぇのー?」と不満を漏らすのは、もちろんラルドだ。オスカーは口元を引き攣らせた。


「興味がないわけじゃないが、『ドラゴンくらい(・・・)』と言われるとな……。お前ほどバトルジャンキーじゃないんだよ」


 ドラゴンより強いと思われる怪物に挑みたいとは、オスカーはさすがに思わないらしい。ラルドは唇を尖らせてブーブー言う。


 エレンは「オレがいれば楽勝だろ!」と自信満々に言った。【ドラゴンスレイヤー】のファーストスキル『鋼鉄の肉体』を習得して物理防御力が上がっている今のエレンなら、生半可な攻撃は効きやしないだろう。ノゾムたちだって、同じスキルを習得したので軒並み物理防御力が上がっている。


 恐ろしい怪物とだって、今なら問題なく戦える……かもしれない。ドラゴンより強いと言ったって、あのアトラスという巨人よりはマシだろうし。


 ジャングルに入りたいラルドと、安全策を取りたいオスカー。自分の活躍を見せたいエレンは、当然のようにラルドの肩を持つ。


 一方のナナミはといえば、


「このジャングル、珍しい素材が手に入りそうな気がする」


 深緑色の瞳をキラキラと輝かせて、鬱蒼と木々が生い茂るジャングルを見つめていた。ノゾムは「そっか」と返した。確かに、見たこともない動植物がたくさん生息していそうなジャングルである。


「ノゾムはどうだ?」


 オスカーが訊いてくる。ノゾムはちょっと迷った。


「ジャングルには興味ありますけど……。オスカーさんの言うとおり、ドラゴン以上のモンスターがいると思うと怖いですね。あんまり奥に入らないようにするっていうのはどうですか?」

「……そうだな。何かあったらすぐにジャングルを出られるように、浅い場所を進むか」


 それならいいと、オスカーは妥協した。ラルドとエレンとナナミは両手を上げて喜んだ。


 村でアイテムの補充(特にドラゴンとの戦いでたくさん消費した『身代わり人形』の補充)を済ませ、ノゾムたちはさっそくジャングルに向かった。


 そして間もなくして、非常に恐ろしい体験をすることになる。




 ジャングルに入って、まず遭遇したのは巨大な蜘蛛の怪物だ。クリスタル・タランチュラやジュエル・タランチュラのように鉱石の身体はしていない。現実に存在する蜘蛛を、そのまま巨大にしたような姿である。


 木の上に大きな巣を作って待ち構えるその蜘蛛の怪物を見て、ノゾムは思わず悲鳴を上げた。見た目がものすっごくリアルで、すっごく気持ち悪い。まだ鉱石の身体をしているほうがマシだというものだ。


 しかしいくら見た目が気持ち悪くても、戦わなければならない――ラルドとエレンがやる気まんまんなのだから。


 ノゾムは仕方なく弓を構えた。その瞬間、何やら長くて分厚い赤い何かが、蜘蛛の身体に巻き付いた。


 あっと思う間もなく、蜘蛛の身体が『何か』に引き寄せられていく。そして、ぱくりと口の中へ。巨大な蜘蛛を食べたのは、これまた巨大なカメレオンの怪物だった。もぐもぐごっくんと飲み干してしまったカメレオンを見て、ノゾムは「ヒェッ」と短い悲鳴を上げた。


「ここじゃあモンスターも弱肉強食なのか」

「関係ねぇよ。全部ぶっ倒しちまえばいいんだ!」


 蜘蛛に向けていたやる気をそのまま今度はカメレオンに向けるエレン。全部って、マジで言ってんのかな、こいつ……。


 ノゾムはすでに戦意を喪失している。けれど、まだ弓を握る手はそのままだ。逃げたい。逃げたいけれど、ラルドとエレンがやる気まんまんなので、仕方なく戦うつもりであった。


 しかし、ラルドが飛びかかるよりも前に、カメレオンはハッと何かに反応して、尻尾を巻いて逃げてしまった。完全に風景に溶け込んでしまったカメレオンを探すのは困難だ。


 いったいどうしたんだろう……と、呑気に首をかしげている暇はない。木々の向こう側から現れたその怪物(・・)を見て、ノゾムは失神しそうになった。


 獅子の頭と、雄山羊の頭を持つ、四つ足の怪物。足の先には猛禽類のような鋭い爪がついている。そしてにょろりと動く尻尾は、大きな蛇だ。


「まさかこいつ、ギリシア神話に出てくる『キマイラ』か!?」


 物知りオスカーがそう言って、「おお、定番だな!」とラルドが言う。


 この怪物は、キマイラ、あるいはキメラという名前で、たびたびゲームに登場するモンスターなのらしい。そういや見たことがあるような気がする。


 キマイラの2つの頭のうち、獅子のほうの目がノゾムたちに向く。その瞳に敵意はない。が、温かみのようなものもない。ただただ冷たい虚無が、その瞳に宿っている。


 敵意も悪意も殺意もなく――簡単に他の命を奪い去ってしまうような、恐ろしさを感じた。


「まずは様子見だな。攻撃はオレが防いでやるから、思う存分に暴れてみな!」


 新参者のはずなのに、まるでリーダーのようにエレンが言う。ラルドは気にせず「おう!」と返した。オスカーも気にしていない。ナナミはキマイラがどんなアイテムを落とすのか、そればかりを気にしてる。


 ノゾムは白目を剥いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ