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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第5章 スポーツの国ブルーと密林の国アンディゴ
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竜の谷Ⅷ

「やっぱりさ? 盾役(タンク)がいるかどうかで戦闘の難易度は天と地ほどの差があるわけよ。それもオレみたいな超有能(・・・)な盾役がいれば、めちゃくちゃ楽になるのは自明の理なわけ」


 ふっふっふ、と得意げに笑いながら、なおもドヤ顔で自分を指差すエレン。ノゾムは思わず苦笑する。他の盾役を知らないから比べようがないが、戦闘が楽だったのは事実だ。


「オレに対してあーんなひどい態度を取ったお前らに、今さら手を貸そうだなんて? そりゃまあ、これっぽっちも思わないけど? オレは大海原よりひっろーい心を持った男だからな。『どうしても』って言うなら……」


 ふんすふんすと鼻を鳴らしながら、ちらちらと期待に満ちた目を向けてくる。言っている内容と本音が反対であることは明白だ。


 ノゾムはぱちぱちと瞬きをして、それからにっこりと笑った。


「お断りします」

「なんでだよオオオオオッ!!?」




 ***




 仲間になってくださいと平身低頭で頼んでくるかと思いきや、まさかの反応にエレンは唖然となった。


 ノゾムは笑顔のまんまだ。


「なんでだよ!? そんなにオレが嫌いなのか!?」

「え、いや、えーと……」

「それともナンパ野郎に飛び蹴りしたことをまだ根に持ってんのかよ!? あれはオレの女に手を出したアイツが悪いだろ、そのせいでオレはフレデリカに追放されたのに!」


 フレデリカが「誰があんたの女だ」と口を挟むけど、もちろんエレンは聞いちゃいない。エレンの耳は、都合の悪いことはシャットアウトする性能を持っている。


 ノゾムは意外そうな顔をして「飛び蹴りをしたこと、覚えてたんですね」と返した。こいつはエレンの記憶力を何だと思っていたのだろうか。


 エレンはもちろん、オスカーに対して飛び蹴りを放ったことはちゃんと覚えている。だが、自分は悪くない。それがエレンの認識だ。


 だがノゾムは意外なことを言い出した。


「エレンが飛び蹴りをしたオスカーさんは、カジノでナンパした人とは別の人なんですよ」

「は?」

「兄弟で1つのアバターを使用しているんです。カジノにいたのはお兄さんのほうで、エレンが飛び蹴りしたのは弟のほう。ちなみに今は弟さんのほうです」


 エレンはポカンとしたまま、オスカーに目を向けた。黒縁メガネをかけたオスカーは、真面目な顔をして頷いている。


「……そういえば雰囲気が違うような?」

「でしょう?」


 よく見れば分かるんですよ、とノゾムは言う。

 エレンは口元を引き攣らせた。


「いや、でもだからって、後ろから見ただけじゃ分かんねぇよ。オレは悪くない!」

「そうやって何でも『オレは悪くない』で片付けてしまうの、エレンの悪い癖だと思う」

「ぐぬ……」


 それはリアルで親や教師からもよく指摘されることだった。


 でもオレは悪くないのに。絶対に悪くないのに。ノゾムはそれが『悪い』と言う。


 エレンは眉間にしわを刻んで、うつむいた。


「だから、オレを仲間にしたくないのか?」

「仲間にしたくないっていうか……。まあ、そうですね……」


 ノゾムは歯切れが悪そうに言って、視線を彷徨わせる。「そうですね」を肯定だと捉えたエレンは、再びショックを受けた。


 ノゾムはエレンに目を向けた。まっすぐな海色の瞳には、嫌悪も侮蔑もない……ように見えるのだが、エレンには自信がない。


 ノゾムはぺこりと頭を下げた。


「ドラゴンを倒せたのはエレンのおかげです。ありがとうございました」

「え、そ、そうか!? それじゃあオレを仲間に……」

「それはお断りします」

「何でだよ〜〜〜っ!!」


 エレンは頭を抱える。ノゾムはそんなエレンに再びぺこりと頭を下げて、仲間たちと共に去っていった。


 エレンはガックリと地面に膝をついた。それを見ていたリアーフが、肩をすくめて言った。


「よっぽど彼が気に入ったんだなぁ」


 ノーテンキな口調だ。エレンは涙目になりながら、ギロリとリアーフを睨んだ。


「うるせー! お前とは絶交だ!!」

「え、ひどい」

「ひどいのはお前だ!!」


 何しろ親友と恋人を天秤にかけて、あっさり恋人を取った男だ。友情とはいったい何だったのか。声を荒らげるエレンに、リアーフはしょぼんとする。リディアがよしよしとその頭を撫でた。


 リアーフはへにょりと笑って、とろけるような目でリディアを見る。エレンは爆発すればいいと思った。


 いや、そんなことよりも、今はノゾムだ。なんであいつは仲間にしてくれないんだ? エレンはちゃんと自分の有能さを証明したはず。こんなにも有能な盾役が入るなら、飛び蹴りなんか些細なことだろうに。


「こうなったら、何が何でも認めさせてやる!」

「あ、エレン!」


 駆け出したエレンに、リアーフたちは呆然とする。エレンは振り返ることもしない。その背中を見送って、リアーフは微かに口の端を持ち上げた。


 エレンが盾役(タンク)を選んだ理由――それを思い出して、リアーフは内心でエレンにエールを送ったのだった。




 ***




 エレンたちからだいぶ離れたところで、ラルドが聞いてきた。


「なんで断ったんだ?」


 その質問にノゾムは目を瞬かせる。見れば、オスカーとナナミも不思議そうな顔をしてノゾムを見ていた。


「あの飛び蹴りのこと、そんなに怒っているのか? 俺はもう気にしていないんだが……」


 オスカーはそう告げる。被害者であるオスカーがそう言うなら、ノゾムが怒る必要はないだろう。


 エレンには他に、クイズを解く邪魔をされたり、似非爽やか男の盾にされたりした。だがまあそれも、ノゾムは実はもう気にしていない。


 エレンの性格は、だいぶアレだけど。アレな性格にもだいぶ慣れてきた。


「あいつ、性格はアレだけど、盾役としてはマジで超優秀だぞ」

「そうね。『レッドリンクス』でも盾役は何人かいたけど、あんなに優秀なのはいなかったわ」


 性格はアレだけど、とナナミまでも言う。性格がアレだというのは、もはや全員の共通認識らしい。ノゾムは「うーん」と唸った。


 超優秀な盾役。そんなことは、ノゾムにも分かっている。


「でも俺、今までさんざん『仲間にしてくれ』っていうのを断ってきたんだよ? それなのに、優秀だって分かったとたんに手のひらを返すなんて、失礼じゃないか」


 仲間になってくれたら楽だろう。それは分かる。でもそのためにエレンを利用(・・)するのはどうかと思う。


 エレンはノゾムやフレデリカとは別のパーティに入って、活躍したらいい。エレンのアレな性格でも受け入れてくれるところはあるだろう――とノゾムは思ったのだ。


 ラルドは首の後ろで手を組んで「ふーん」と呟く。これで話は終わりだと考えていたノゾムは、後ろから追いかけてくるエレンに、まったく気付いちゃいなかった。


 追いついたエレンが無理やり勝手に仲間になるまで――もうちょっとかかる。

 エレンは『仲間を身を挺して守る』ヒーローに憧れた子供です。


 だからこそ盾役を選んだのに、仲間がいないんじゃそりゃあ意味がないよね……って話が書きたかったのに、なんかうまく書けませんでした(;・∀・)


 次はようやくアンディゴです!

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