表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第5章 スポーツの国ブルーと密林の国アンディゴ
225/291

竜の谷Ⅵ

 今までのオスカーの『ライトニング』とは、比べ物にならない。セレスト山の山頂で天界への階段を出現させた時の、あの太い光の柱。あれより遥かにぶっとい電撃が、ドラゴンを襲った。


 ドラゴンからはできるだけ離れたけれど、衝撃で身体が浮く。とっさに岩にしがみつかなかったら、どこまで飛んでいったか分からない。


 あまりの威力に、放った本人もあんぐりと口を開けて固まっている。


 ミスリルって、本当に半端ない。


 ドラゴンに魔法は効かない。けれども、これだけの規模だったらどうだろう?

 ドラゴンにも『魔法防御力』というパラメーターはあるのだろうか。それを上回っていたなら、あるいは――。


「!!」


 『ライトニング』の衝撃で舞い上がっていた砂塵が、一瞬で吹き飛ぶ。オスカーの前にいるのは、大きな翼を広げたドラゴンの姿。


 ドラゴンが身をひねって尻尾を振り回す。オスカーが吹き飛んだ。岩に直撃したオスカーはその場に倒れ、ピクリともしない。戦闘不能だ。たった一撃で。だけど、オスカーも『身代わり人形』を持っているはずなので、すぐに復活する。


 復活した直後にオスカーはドラゴンの下敷きになった。またもや戦闘不能である。ドラゴンの身体は電撃を受けて、わずかに焦げていた。オスカーの『ライトニング』は、ドラゴンの魔法防御力をわずかに上回ることができたらしい。


 しかしこのドラゴン、知恵が回る。


 オスカーが自分を倒し得る力を持っていると知って、狙い撃ちしているのだ。『身代わり人形』を複数所持していることも考慮に入れて、間髪入れずにひたすらに攻撃を繰り返す。


 オスカーはされるがままだ。


「オスカーさん!」

「ノゾム、私が行く!」


 思わず駆け出そうとしたノゾムをナナミが制した。駆け寄ってくるナナミに気付いたドラゴンは、またもや炎のブレスを吐いたけど、ナナミは炎が当たる直前に『エスケープ』を使ってドラゴンの背後に回った。


「オスカー!」


 ドラゴンの後ろから、ナナミはオスカーに駆け寄った。持っていた『身代わり人形』は全て無くなってしまったらしい。オスカーはぐったりしていて、動かない。


 ナナミの姿を見失ったドラゴンはキョロキョロと周囲を見渡して、自分の後ろにいることに気がついた。尻尾が振り下ろされる。ナナミは再び『エスケープ』を使って避けた。


 腕を掴まれたオスカーも一緒だ。


 ノゾムはアイテムボックスから蘇生薬を取り出してオスカーにかける。淡い光がオスカーの身体を包み、オスカーは復活した。


 目を覚ましたオスカーは恐怖に引き攣った顔をして、震えていた。


 あれだけ集中攻撃されれば、無理もない。


「『エスケープ』って便利だね」

「そうよ。今さら気がついた?」

「前から知ってはいたけど」


 わざと軽口を叩きながら、弓を構える。ドラゴンが後ろを向いている今なら……と思ったけど、鼻息と共に矢は吹き飛ばされた。


 ドラゴンの口が開く。またブレスだ。ノゾムたちは口元を引き攣らせた。


 いつまで経ってもドラゴンの一方的な攻撃は終わらない。――このままではキリがない。


 迫り来る炎を前に、ノゾムは奥歯を噛み締めた。


 ――その時だ。



「『聖盾』!!」



 炎のブレスとノゾムたちとの間に、するりと割って入ってきた者がいた。赤い髪に、白いターバン。ノゾムは思わず目を見開いて、その人物を凝視した。


 エレンだ。エレンが出した『聖盾』が炎のブレスを防いでくれている。ノゾムは唖然とした。


「なんで……」

「うるっせぇな! どいつもこいつも、本当にうっせぇ!」


 背中を向けたまま、エレンは叫ぶ。


「なんでオレにばっかみんな冷たいんだよ!? この悪魔どもめ! オレがいったい何をしたっていうんだ!?」

「いや……何って……」

「こうなりゃオレがどんだけ有能か、見せてやるよ! 後から泣いて許しを乞うても遅いんだからな!?」


 そう言って、エレンは顔だけをノゾムたちのほうに向ける。泣いてるのはお前のほうじゃん。ポカンとするノゾムを、エレンは潤んだ目のまま睨みつけた。


「早く弓を構えろ!」

「え、でも……」


 ――今射っても、燃やされるだけでは?


 疑問を抱くノゾムに、エレンはすぐさま言った。


「ブレスが途切れた瞬間を狙うんだよ!」

「!」

「オレがただバカみたいに攻撃を受けてたと思うな! 『盾役(タンク)』の役目ってのは、ただ味方の盾になるだけじゃねぇんだ!」


 エレンは黄金色の目でドラゴンを見上げて、叫ぶ。


「『攻撃役(アタッカー)』に攻撃のチャンスを作ってやる――それがタンクなんだよ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ