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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第5章 スポーツの国ブルーと密林の国アンディゴ
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竜の谷Ⅱ

「くっそ……っ!」


 壊された『聖盾』の後ろで、エレンは悔しげに顔を歪める。その手には身の丈ほどの槍。ドラゴンを目掛けて槍を突き出すが、大きな翼を羽ばたかせたドラゴンはその攻撃をあっさりとかわした。


 ドラゴンの口が大きく開く。口の中には渦巻く炎。『聖盾』を再び張るには、まだ時間がかかる。


 ――あ、死んだ。


 そう思った時だった。



「『ブースト』ッ!!』



 大きな剣を振り上げたフレデリカが、崖の上から飛び込んできた。


 剣は炎を吐こうとしたドラゴンの首に直撃する。ガキンと、硬いもの同士がぶつかる音が響いた。


 ドラゴンの首は斬り落とせていない。


「かっ……たいわねっ」


 『ブースト』で攻撃力を高めた上で、大してダメージを与えられなかった事実にフレデリカは歯噛みした。


 エレンはそんなフレデリカを、ポカンと見上げる。


「フレデリカ……? なんで……」


 呆然とした呟きに、フレデリカは眉間のしわを深くする。


『なんで』なんて、聞かれても困る。


 エレンは間抜けな顔をしたまま頭上に疑問符を浮かべていたが、ややあって何かに気が付いたのか、ハッと目を見開いた。


「さてはオレに戻ってきてもらいたくて、追いかけてきたのか!? いや〜、今更戻ってきて欲しいだなんて言われても困るっていうか、でもフレデリカがどうしてもって言うなら……」


 盛大な勘違いである。


 フレデリカは生ゴミを見るような目でエレンを見た。エレンは顔を赤くして照れている。助けに飛び出したことを、フレデリカは早くも後悔していた。


「全然違うから。戻ってきて欲しいだなんて、欠片も思ってないから」

「またまた〜。照れちゃって〜」

「気持ち悪い」


 フレデリカはピシャリと言う。そんなフレデリカを見ていたエレンは、嬉しそうだった顔色がどんどん悪くなり、やがて地に沈まん勢いで落ち込んだ。


 フレデリカが本気で言っていることがちゃんと伝わったらしい。


 エレンはプンスカと怒りはじめた。


「それじゃあ何をしに来たんだよ!? オレを笑いに来たのか!?」

「なんでそうなるのよ……って、うわっ」


 ドラゴンが首を振った。その衝撃で、フレデリカは振り落とされる。間髪入れずに放たれるのは炎のブレス。地面に倒れたフレデリカは、もろにそれを受けるはずだったのだが……。


 時間を置いたおかげで再び使えるようになった『聖盾』を前に、エレンがフレデリカの前に立ちはだかった。


 フレデリカは目を丸くした。


「ちょっと、何やってんのよ!」

「見れば分かるだろ! 助けてもらってんだから、礼のひとつでも言えよな!」

「はあああ!? あんたが勝手にやってることでしょ? あたしは『助けて』なんて言ってないし! それにあんただって、さっきあたしに助けてもらったくせに『ありがとう』の一言もないじゃない!」

「それこそお前が勝手にやったことだろ!!」


 盾の内側で、2人はぎゃんぎゃんと吠え合う。そんなことしている場合じゃないんじゃないかなぁと、離れたところから見ていたノゾムは思った。


 リディアが『天恵』を使って、フレデリカたちの防御力を上げる。リアーフが『サイクロン』を使って、ドラゴンをフレデリカたちから離れさせた。


「ねえリアーフ、どうしよっか?」


 リディアがリアーフの見上げて問いかける。

 リアーフはそんなリディアに甘い表情を向けた。


「そうだね。フレデリカの渾身の一撃も効いていないようだし、ここは一旦引いて、作戦を練るべきだと思う」


 リアーフは意外と冷静な奴のようだ。今のわずかな攻防を見て、真正面からドラゴンに挑むのは無理そうだと判断したらしい。


 リディアは頷いた。


「ドラゴンさん、超強そうだよね」

「大丈夫だよ。リディアのことは、何があっても僕が守るから」

「リアーフ……」


 バカップルっぷりも健在だ。エレンとフレデリカからダブルで抗議の声が上がっているが、リアーフもリディアも聞いちゃいない。


「一旦引くために……」


 リアーフの目がちらりとノゾムたちに向く。


 モスグリーンの色の瞳は、リディアへ向いていた時の甘いものとは一変して、冷静そのものだ。


「力を貸してくれ」


 その言葉にノゾムたちは顔を見合わせた。どうしよっか、と互いに視線だけで問いかける。


 結論はすぐに出た。



 ドラゴンが翼を動かすと、それだけで風が大きくうねりを上げた。リアーフの放った『サイクロン』は打ち消され、再びエレンたちへ襲いかかる。


 エレンの『聖盾』が再び壊された。今度はフレデリカが『聖盾』を張って、ドラゴンの猛攻を防いだ。


 それを見たエレンが「なんでお前まで使えるようになってるんだよー!」と叫んだが、全員で無視する。


 防戦一方になっている彼らを崖の上から見下ろして、オスカーは空に手をかざした。


「『フラワーシャワー』」


 【マジシャン】のファーストスキルである。何もない空の上から、ひらりひらりと、色とりどりの花が降り注ぐ。


 花を降らせるだけという、何のためにあるのか分からないスキルだが、ドラゴンの気を引くことには成功したようだ。


 リディアとリアーフはその隙に、見事な連携によってフレデリカとエレンを連れ出すことに成功した。


 ノゾムたちもすぐに身を隠す。


 花に見惚れている間に獲物に逃げられてしまったドラゴンは、キョロキョロとあたりを見渡して、小首を傾けた。

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