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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第5章 スポーツの国ブルーと密林の国アンディゴ
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夜の喫茶店

 翌日のゲームの中の世界は、昨日に引き続き『夜』のままだった。

 昼夜は18時間ごとに切り替わるので、リアルの昼頃にまた、綺麗な朝焼けが見られるはずだ。


 ブルーの首都、ウートルメールに戻ってきたノゾムたちは、オシャレな喫茶店でのんびりとお茶を飲んでいた。


 午前中は戦闘が苦手なリオンがプレイするターンなので、『竜の谷』に挑むのはちょっと無理だろうと判断したからだ。


「役立たずでごめんね……」


 リオンはしょんぼりと謝る。

 ノゾムは首を振った。


「前にも言いましたけど、全然そんなことないですから。気にしないでください」


 確かにリオンは戦闘面においては役に立たない。しかしそれ以外に関しては、非常に優秀だ。物知りだし。


 だけどそれを告げてもリオンは納得しない。本当に、なんでこんなに自己評価が低いのか……。

 もしかして何度もパーティを追放された経験が、彼の自己肯定感を著しく落としてしまったんだろうか。


「そうよ。それに、『竜の谷』はドラゴンの巣窟だそうだし、モンスターが強くなる『夜』に入るのは危険だわ」

「オレは早く魔法を試したいけどなー!」

「1人で行ってきなさいよ」

「辛辣」


 まあとにかく、リオンの件がなかったとしても、午前中は時間を潰したほうが良さげだということで。


 気にしないでください、と再度告げるノゾムに、リオンは感涙した。


「あれ? リオンさんだ!」


 ふいに女の子の声がして、ノゾムたちは振り返る。男女の3人組が喫茶店に入ってきたところだった。


 声をかけてきたのは、おかっぱ頭の茶髪の女の子。なんだか見覚えがある。


「リディアちゃん!」


 リオンが女の子に手を振った。リディアと呼ばれた女の子は、にっこりと笑って近付いてきた。


「ジョーヌで会って以来だね。今日は、ちゃんとリオンさんかな? 弟さんは元気?」

「弟のこと知ってるの?」

「うん、ジョーヌの首都の近くでね」


 リオンさんとはカジノ以来だね〜と微笑むリディア。


 ジョーヌ、カジノ。

 何か思い出しそうだ。


「リディア、そいつに近付いたらダメだ」

「あら、リアーフ。ヤキモチ?」


 リオンとリディアの間に割って入ってきたのは、白い肌に金色の髪を持つ青年だ。こっちにも見覚えがある。


 イタズラっぽく笑ったリディアは、青年の胸に寄りかかる。


「心配しなくても、私が愛しているのはあなただけよ」

「リディア……」

「はいはいはい、イチャつくなら他の場所でやってね~。このバカップル!」


 パンパンと手を叩いて投げやりに言うのは、リアーフの後ろにいたポニーテールの女の子。


 ノゾムは「あ」と呟いた。

 リオンがニコニコしながら手を振った。


「フレデリカちゃんも、久しぶりだね」


 フレデリカ。

 エレンの想い人だ。


 ノゾムはフレデリカのことは覚えていた。彼女とは、カジノでババ抜き対決をした仲である。


 そういえば、その時リディアとリアーフは後ろで見ていたっけ。なんとなくこの2人の印象が薄いのは、あまり会話をしなかったからだろう。リアーフはリディアしか見ていなかったし。


「こんなところにいるってことは……。はっ! さては『魔王復活イベント』に挑む気だな!?」

「とーぜんでしょ」


 ラルドの言葉にフレデリカは不敵に笑う。相変わらず勝ち気な女の子だ。


 ラルドはちょっぴり眉を寄せた。


「でも、お前ら大丈夫なのか? エレンが抜けた穴を補うフォーメーションってやつは、考えついたのか?」


 フレデリカはどんどん前に出て戦うタイプである。そしてリディアとリアーフは、後方援護タイプ。壁役のエレンがいてうまく回っていたパーティなのだけど、そのエレンをフレデリカは追放してしまった。


 ジョーヌの首都近辺で会ったときには、うまくパーティが機能しなくて、苦戦していたようだったけれど。


「あたしは『聖盾』を覚えたのよ。リディアも味方の防御力を上げる『天恵』を習得したし」

「ふうん。エレンが抜けた分、防御を強化することにしたのか」


 この後は【ドラゴンスレイヤー】を取得するつもりらしい。【ドラゴンスレイヤー】には、防御力を爆上げする『鋼鉄の肉体』というスキルがある。


 しかし夜に『竜の谷』へ入るのはさすがに危険だと判断して、時間を潰すためにこうして喫茶店にやって来たらしい。


 考えることは一緒だ。


「エレンを仲間に戻してやりゃいいのに。あいつ今、1人で大変そうだぜ? ピンクマリモに肉壁扱いされたりとかさ……」

「ピンクマリモって何よ? アイツを戻すなら、死んだほうがマシだわ」


 フレデリカは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 リディアとリアーフはその向こうで、カップル限定のドリンクを頼もうかどうか話し合っている。


 ラルドは苦笑いを浮かべて窓の外に目をやって――ふいに「あ!」と叫んだ。


「アルベルトだ!」


 ノゾムは驚いてラルドの視線を追う。黒髪に赤い目をした青年が、喫茶店の前の通りを歩いていた。


 アルベルトがこちらに気付く。逃げていった。ノゾムはその後ろ姿を胡乱な目で見送った。


「あいつ、スポーツとかするのかな……」

「何言ってんだよ。あいつも『魔王復活イベント』に挑みに行ってるんだろ、たぶん」

「そうかな? 魔王にも勇者にも、興味があるタイプには見えないけど……」


 もちろん、ノゾムの勝手なイメージに過ぎないけれど、アルベルトは『魔王復活イベント』に嬉々として挑むタイプには、どうしても見えない。

 もしかすると、先にアンディゴへ向かったミーナを追っているのかもしれない。


 ……そういえば、ミーナはオリハルコンを見つけることが出来たのだろうか。


 ミスリルを手に入れるのがあれほど困難だったことを思えば、同じ『伝説の鉱石』であるオリハルコンも、容易には手に入らないのではなかろうか。


「誰よ、アルベルトって」


 フレデリカが訝しげに訊く。


 ノゾムが「PKだよ」と答えると、フレデリカの顔はいっそう歪んだ。

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